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第二十九回吹奏楽部定期演奏会。
今年で創部三十九年。この学校の吹奏楽部は、某大学付属高校として学校が設立された当時に創設され、そこから十年を経て当時の音楽教諭がコンクールへの挑戦を始めると共に大々的にコンサートを開催。
そして現在に至るまで毎年三月最後の日曜日に、市内の大きなホールを使用してその年の集大成となる演奏会を行うのである。
三部構成で約二時間の公演となるそれは、ここ数年コンクールで好成績を残すだけあってチケットは毎年全席完売。ローカル放送局のアナウンサーが司会を務める以外は、演出も総て生徒がプロの機材会社を相手に企画するもので、中には吹部を出てそういった企業への就職や、あるいは演出家となった者もいる。
第一部は、文化祭が終わった頃から取り組んで来た大曲をメインに、次のコンクール自由曲を視野に入れた堅めの曲を正装でバリっと聴かせる。
このステージに関しては、現一二年生のみでの演奏となり、一切の妥協を赦さない河野教諭渾身の演奏を届けるのだ。
そして第二部。ここから三年生も参加。もう一人の音楽教諭である副顧問、田丸教諭の指揮による、スイングジャズをメインにしたステージ。要は田丸の趣味のステージである。
とは言え、年代的に生徒の親世代と重なるせいか、観客の大部分であるその年齢の方々が一番楽しめる曲が多数プログラムされているので、会場は毎年かなり盛り上がる。
そこから再び休憩を挟んで、最終ステージの第三部。
こちらは、かつてこの吹奏楽部に所属し、今もどこかの団体で楽器を演奏し続けているOBも参加する。
年齢の幅が広がることで演奏の雰囲気もかなり変わるが、基本的には同じ学校出身者だから。田丸や河野の以前の教え子が彼らを慕ってこの舞台に乗り、一堂に会して気持ちを揃える。
曲は老若男女問わず楽しめるよう、新旧問わずJポップをメインに据えて。
指揮は河野によるものだが、田丸もこっそりパーカッションに参加して、生徒に紛れてタンバリンを振り回してノリノリである。
二部、三部は部員お揃いのトレーナーを毎年作ってそれを着用。更には、同じデザインのTシャツもグッズとして販売してしまうのだが、これが結構売れる。OBの中にはコアなファンが付いている者もいるので――当然イケメン――、ちょっとしたアイドルコンサートである。
夕方六時開演。全公演が終了するのが八時過ぎで、二年生は観客の見送りなんてのをやって、その間他の部員は会場の片付け。遅くても九時には完全撤収して学校へと戻り、翌日の打上の準備だけして解散。
恒例行事だけあって、撤収の流れは部員全員心得たもの。一年は当然その流れを頭に叩き込んで来年へと備えるわけだが、中にはOBのおっちゃんに気に入られた一年生がとっつかまって二年幹部にどやされたりする光景も、毎年あるわけで。
「すんません。こいつ、俺のなんで、回収させて貰いますねー」
可愛いだけでなく、ほわほわとその場に流されまくる涼だから、当然のように年配のおっちゃんに掴まっていたところを恵那が引っ張って、なんとか学校へと向かう貸し切りバスに乗る。
「助かったよお。このまま呑みに行こって言われて困ってたー」
楽器運搬のトラックとは別に、部員を乗せて移動するこのバスは当然吹部の持ち物で、遠征の際に利用される。コンクールも支部大会ともなると遠出になることが多く、さすがに全国大会の時には新幹線で向かうから出番はなかったが、それ以外にも出張演奏なども時々依頼があるので、そういった時に活躍するのだ。
「んなもん、テキトーに流して逃げろよな、もう」
恵那が鼻で笑う。
「あのね、えな。きーちゃん来てたよー。後で合流しよーって」
「えー。楽器片付けてたら十時過ぎるぞ? 明日でよくね?」
「あ、そっかー。さすがに女の子だもんね。じゃあ明日、響たちも一緒にファミレスで落ち合おっか?」
「そうだな。どうせ午前中打ち上げだけやったら解散だし、午後からなら動けるだろ」
第二十九回吹奏楽部定期演奏会。
今年で創部三十九年。この学校の吹奏楽部は、某大学付属高校として学校が設立された当時に創設され、そこから十年を経て当時の音楽教諭がコンクールへの挑戦を始めると共に大々的にコンサートを開催。
そして現在に至るまで毎年三月最後の日曜日に、市内の大きなホールを使用してその年の集大成となる演奏会を行うのである。
三部構成で約二時間の公演となるそれは、ここ数年コンクールで好成績を残すだけあってチケットは毎年全席完売。ローカル放送局のアナウンサーが司会を務める以外は、演出も総て生徒がプロの機材会社を相手に企画するもので、中には吹部を出てそういった企業への就職や、あるいは演出家となった者もいる。
第一部は、文化祭が終わった頃から取り組んで来た大曲をメインに、次のコンクール自由曲を視野に入れた堅めの曲を正装でバリっと聴かせる。
このステージに関しては、現一二年生のみでの演奏となり、一切の妥協を赦さない河野教諭渾身の演奏を届けるのだ。
そして第二部。ここから三年生も参加。もう一人の音楽教諭である副顧問、田丸教諭の指揮による、スイングジャズをメインにしたステージ。要は田丸の趣味のステージである。
とは言え、年代的に生徒の親世代と重なるせいか、観客の大部分であるその年齢の方々が一番楽しめる曲が多数プログラムされているので、会場は毎年かなり盛り上がる。
そこから再び休憩を挟んで、最終ステージの第三部。
こちらは、かつてこの吹奏楽部に所属し、今もどこかの団体で楽器を演奏し続けているOBも参加する。
年齢の幅が広がることで演奏の雰囲気もかなり変わるが、基本的には同じ学校出身者だから。田丸や河野の以前の教え子が彼らを慕ってこの舞台に乗り、一堂に会して気持ちを揃える。
曲は老若男女問わず楽しめるよう、新旧問わずJポップをメインに据えて。
指揮は河野によるものだが、田丸もこっそりパーカッションに参加して、生徒に紛れてタンバリンを振り回してノリノリである。
二部、三部は部員お揃いのトレーナーを毎年作ってそれを着用。更には、同じデザインのTシャツもグッズとして販売してしまうのだが、これが結構売れる。OBの中にはコアなファンが付いている者もいるので――当然イケメン――、ちょっとしたアイドルコンサートである。
夕方六時開演。全公演が終了するのが八時過ぎで、二年生は観客の見送りなんてのをやって、その間他の部員は会場の片付け。遅くても九時には完全撤収して学校へと戻り、翌日の打上の準備だけして解散。
恒例行事だけあって、撤収の流れは部員全員心得たもの。一年は当然その流れを頭に叩き込んで来年へと備えるわけだが、中にはOBのおっちゃんに気に入られた一年生がとっつかまって二年幹部にどやされたりする光景も、毎年あるわけで。
「すんません。こいつ、俺のなんで、回収させて貰いますねー」
可愛いだけでなく、ほわほわとその場に流されまくる涼だから、当然のように年配のおっちゃんに掴まっていたところを恵那が引っ張って、なんとか学校へと向かう貸し切りバスに乗る。
「助かったよお。このまま呑みに行こって言われて困ってたー」
楽器運搬のトラックとは別に、部員を乗せて移動するこのバスは当然吹部の持ち物で、遠征の際に利用される。コンクールも支部大会ともなると遠出になることが多く、さすがに全国大会の時には新幹線で向かうから出番はなかったが、それ以外にも出張演奏なども時々依頼があるので、そういった時に活躍するのだ。
「んなもん、テキトーに流して逃げろよな、もう」
恵那が鼻で笑う。
「あのね、えな。きーちゃん来てたよー。後で合流しよーって」
「えー。楽器片付けてたら十時過ぎるぞ? 明日でよくね?」
「あ、そっかー。さすがに女の子だもんね。じゃあ明日、響たちも一緒にファミレスで落ち合おっか?」
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