コレは誰の姫ですか?

月那

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「りょお……痛いよお」
 涼のベッドで、恵那がくったりと力なく呟く。
「自業自得」
 サッカー部男子のそれなりの力を以てぼっこぼこに殴られただけあって、さすがに恵那は熱を出していた。
 あの後藤堂が嘉山を自宅へと送り届け、その後何をどう話したのかは知らないが、藤堂が相手方の親と話をつけたらしい。が、そんなことは知ったこっちゃないわけで。
 
 涼の母親が帰宅し、涼が「上級生に絡まれたトコをえなが護ってくれた」と説明して、そのまま部屋へと連れ込んだのだが。
「明日、学校休む?」
「こんなことで休んでられっかよ。かすり傷だ」
 言っているわりに、顔なんてあちこち青地になっているし。体中、打撲痕が何か所も熱を発していて、どれもがズキズキとその存在を主張しているから。
 恵那の声は、その言葉に反して力はない。
 そして、一番まずいのは左手で。
 赤く腫れあがっていて、骨や筋に異常はないようだが完治までは暫くかかるだろう。

「くそ……かっこわりーな、俺」
 力なく涼へと無事な右手を伸ばした。
「おまえのこと、護るっつってんのに、結局おまえに護られたな」
 ぷー、とふくれっ面なままの涼の頬に、触れる。

「もお……えなのばか。無茶、しないでよ」小さく、首を振りながら「カッコ悪いなんて思ってないよ」と呟く。
 そのまま、恵那の手に自分の手を重ねると、涼が大きくため息を吐いて。
「ああやって、土岐といっつも喧嘩してたの?」
「いや。あいつは俺にやり返さないから。一方的にタコ殴りしかしてねえ。やっぱ……殴られると痛てーな」
「さいてー」
 基本的に、喧嘩ばかりしていた頃は殆ど負け知らずで。殴る蹴るは当たり前だったけれど、自分がそれを受けることなんてなかったから。

「俺さ。一応、ちっちゃい頃、空手やってたのね。だから、まあ結構喧嘩は強い方だって自負してんのね」
「だからって簡単に喧嘩しちゃダメでしょ!」
「いや、実際はここ何年もまともに喧嘩なんかしてねーよ。そんなヤバい連中、このガッコにはいねーし。中学も、俺らの代はみんなイイコちゃんばっかだったから」

 小学生の頃は取っ組み合いの喧嘩、というのが常だったけれど。
 さすがにもうそんな子供じみたことをする者はあまり周りにいなかった。

 だから、久しぶりに殴るとか蹴る、なんてことを人に対してやったわけで。加減もわからなければ、こっちの守備だって大したことはできないし。ゲームの世界と違って、リアルに殴られたら痛いわけで。
 しかも……子供の頃よりも、今は周囲に較べたら格段に自分が華奢なのが何よりも計算ミス。

「僕、人が本当に喧嘩してるのなんて、初めて見た」
 普通ならそーだろうねえ。と、恵那はふっと自嘲した。
 上品で、争いなんてものとは全く縁のない涼。綺麗な、綺麗な存在。
 だから護ってやりたい。絶対に、このままふわふわした笑顔を護ってやらなきゃいけない。
 そう思ってたのに。

「えなが怪我すんの、もう見たくないよ」
「……ごめん」
「自分が殴られてるわけじゃなくても、えなが殴られてんの、痛くてたまんなかった」
「……ごめん」
 謝ることしか、できない。
 だって、結果殆ど負けたようなモンだし。
 藤堂がいなければ、完全にトんでた。勿論やり返したし、相手だって無傷じゃないのはわかるけれど、でも、総合的にこっちが負けていたのは、確実で。

 それに。
 最後に涼が冷静に言い放った言葉。それが決定打で。
 相手を打ち負かしたのは、結局力任せに殴った自分ではなく、揺るがない意思を持って瞭然と言い放った涼の態度そのもので。

「もう、二度と喧嘩、しないでね?」
「……うん」
 頷く。けど、でも。
 涼を護るための喧嘩なら、命張ってでも買うつもりでいるから。

「しないでね?」
 恵那の内心を見透かしたように、キリと目力を込めた涼が睨むから。
「……涼」
「僕はえなに護られなくても、自分の身はちゃんと自分で護るよ。これでも男だからね。だから、えなも無茶しないで」
 頬の青地を指でそっとなぞる。
「痛い」
「僕に護られたくなんか、ないでしょ? だったら、もうこんな痛い思いするようなこと、しちゃダメだよ」
 恵那の専売特許のようなくふくふ笑い。イタズラっぽいそれをして見せて。
「今日は僕がえなのこと、抱っこして寝てあげるからね」
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