コレは誰の姫ですか?

月那

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 嘉山が涼へと一歩近づいてくる。
 そっと自分の背後へと涼を押しやり、臨戦態勢。
 自分より体格のいい相手だから、久々に気合を入れて。

「あー、何とか先輩さ。こんなトコで油売ってねーで、真面目にサッカーの練習してろよ」
「あのさあ。俺は佐竹とお話してんの。おまえ、ジャマ」
 さすがに嘉山が目を合わせてくると、そう言って睨み合う。
「いやいや、ジャマなのはあんたなんだけどね。俺、今から涼んちでイチャイチャするつもりなんだから。今日はバレンタインだぜ? 恋人たちのラブラブデー。ジャマ、してんじゃねーよ」
 完全に敵意を向けて来た相手に対して、怯むなんてマネをする恵那ではない。喧嘩上等、とばかりにニヤと嗤って見せると、わざと涼の肩を抱く。

「調子乗ってんなよ、この一年坊主が。てめえみたいなのが佐竹の傍うろついてんじゃねえ」
 涼に対してかけていた声とは、全く違う低い声を恵那に投げかけた。
 嘉山の目が鋭いだけではなく、体勢も既に喧嘩腰なのがわかるから。
 恵那は「涼、持ってて」と自分の荷物を涼に預けた。

「やる気かよ?」という嘉山の問いには「無料で売ってくれんだろ? なら、買わないわけにはいかないねえ」とくふくふ嗤って応えて。
 体格は、実際のトコ嘉山の方が少しだけ大きい。身長こそ変わらないが、さすがにサッカー部だけあって見るからに筋肉質なのがわかる。
 が、そんなもの、恵那には何の躊躇いにもならなかった。

「てめえはとにかく目障りなんだよ!」というセリフと共に嘉山の右足が飛んでくる。
 それを当たり前に躱して恵那が左足で嘉山の臀部を蹴り上げようとして。
「甘い! サッカー部に蹴りで挑んでんじゃねえ」
 嘉山も綺麗に躱す。

 しかし、そのままくるりと回転して軸足を変えると今度は右膝で嘉山の脚を蹴り上げた。
 油断していた嘉山が崩れる。

「甘いのはあんたの方じゃね?」恵那が嗤う。が、そんな蹴りでは大したダメージを受けていない嘉山が、足元から恵那を引きずり倒した。
「っと」
 上から伸し掛かられるが、そこは恵那も心得ているからすぐに反転する。
「わりいな。サッカー部が蹴りで勝負してんなら、吹部こっちは腕で勝負してんだよ」と言って、上から殴りかかる。

 ――腕で勝負って……そういうイミじゃないでしょお!
 と涼が思わず内心ツッコんだけれど、そんな場合じゃなくて。
 見ているだけで何もできないし、声すら発することができない。

 目の前で繰り広げられる喧嘩シーンは、いつも恵那が響とやっているファイティングゲームのようで。
 そんな世界とは完全に無縁な生活をしていた涼だけに、それがゲームであっても手を出せないでいるというのに、現実に目の前で起こっている状況になんて対応しきれるわけがなくて。

 嘉山の蹴りが何発も恵那に入るし、当然恵那のそれもいくつも決まっていて。お互いに加減なんてしている様子もなく、一発ずつが重い音を立てて相手に当たる。
 更に、涼には殴っている恵那の手そのものが気になってしまう。本来なら、きっと演奏者として絶対に守らなければいけない拳を使って何度も殴りつけていて。
 頬骨や顎に当たる拳は、相手の傷だけでなくそのまま自分の拳にもダメージを与えているように見える。
 左利きの恵那がその利き腕を使って殴りまくるから、その拳がどうなっているかが心配で仕方がない。木管楽器の繊細な指の動きを、この喧嘩が必ず妨げる。それがわかっているのに、止めることもできない。

 きっと、恵那も簡単に相手をノせると思っていたハズ。だから買った喧嘩だろうけれど、もうその綺麗な顔すらもボコボコに殴られていて。
 二人が傷付いて行くのを、ただ見ていることしかできなくて。
 半泣き状態でただただおろおろしていると。

「いい加減にしましょうね」
 低い声で二人の殴りかかろうとした手を両手で止める男がいた。
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