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「恵那、恵那」
ちょいちょい、と響に手招きされたのは四人でボーリングしている最中で。
土岐と涼が投げている合間を縫うように響がジュースを買いに行くと言ったのだが。
どうやら恵那と二人で話がしたいらしい。
年明けの授業再開と共に学校の体制変更があり、強化部に関しても月に一日以上必ずノー部活デイを設定し、その日は一切の練習を禁止する、という通達があった。
当然設定日はその部活毎に決めて構わないから、それは各部試合に影響のない日となっていて。
その日は強化対象ではない部活やサークルが、普段使用できない体育館やグランドなどの施設を思う存分使用できるようにし、そういった部活にも整った設備環境での練習を体験させ、新たな強化部を作る機会にしたいという学校の方針らしい。
ということで、本日吹部もバスケ部も休日となったわけで。
当たり前のように四人で遊び倒す予定の一日である。
「あのさ。ちょい、なんとなーく、なんやけどさ。えっと……」
呼び出した挙句、自販機の片隅で言い淀む響に、
「何?」と恵那が訝しげに眉を寄せた。
「あんな、ちごーとったらごめんやで? ただ、なんかえっと……」
「だから、何? 気持ち悪いから、はっきり言えよ」
「自分、涼っちと……その、付きおーとるん?」
響が言ったのは、恵那にとっては完全に「何を今更?」と突っ込みたくなる話で。
実際、はっきりと「付き合い始めました」なんて報告を真っ正直にするような間柄でもなく、土岐にも曖昧にボかしながらしか言ってはいないけれど。
でも、二人でいる時に「俺の」という発言は最初からずっとしていたし、はっきりと付き合うようになる前から涼とのスキンシップなんて全然日常茶飯事だったから。
「いや、だって。なんか、恵那がべたべたしても前は涼っちが逃げ腰やったやん? 最近、なんか当たり前にくっついとるから、ひょっとして、って思てん」
「涼は俺のだって、前からゆってっけど?」
「そゆ問題やのーて」
「俺の、なんだっつの」
響の“冗談前提”というニュアンスの言葉に、食い気味にちょっとだけマジな目で繰り返した。
「え?」
「だから、そゆこと。ま、でも土岐にも言ったけどさ。別に俺ら、今までとなんも変わんねーからさ。普通に四人で一緒に楽しんでるのが一番いいから」
「恵那?」
「いんだよ。俺と涼は今までもこれからも変わんねーの。ただ、前と違ってはっきり涼が俺のモンになったってだけの話」
恵那がいつものドヤ顔で言って。
「あんま、変な気回さなくていいから。あ、涼のジュースはいいよ、俺が買ってくから」
あいつ微炭酸じゃねーと飲めねーからなー、と響の背中を軽く叩いて何事もなかったように笑う。
「行こう。とっとと戻んねーと順番回ってくんぞ」
ペットボトルを二本持って、土岐の分は当たり前に響に任せて。
恵那は足早に自分達のレーンへと戻って行った。
響は愕然としていて。
部活が落ち着いてから四人でまた一緒にいるようになって、二人の様子が今までとちょっと違うとは感じていたのだが、その違和感の理由に全く気付かなかった。
元々二人が仲が良いのはわかっていたから、目を見合わせてくすくす笑っているのも、恵那がくふくふふざけて涼がちょっと膨れて拗ねて、でもそんな涼の頭を優しく撫でている様子も全部。前と変わらないのに、ちょっとだけ空気が違っていて。
で、さっき。
ボーリングの投球を「僕、初めてー」なんて言っている涼の腰に回した恵那の手が。自然に涼のお尻をやわやわと撫でていて。
これは涼が怒るな、と思っていたら。
ただ単に「もお」とだけ言って目の周りをピンク色に染めたから。
その瞬間。
あ、と思ったのだ。
これは友達だけじゃなくてそれ以上の関係に進んだのだ、と。
恵那の想いを涼が受け入れたのか、あるいはその逆なのか。どちらにしろ、この二人の間に流れている空気の甘さはとても自然で。
だから。
すとん、と腑に落ちた。
ただ。
一つだけ気になるのは。
その事実を知っているという土岐が少し、無表情に二人を見ているということで。
自分は、二人の関係がより深く進んだことはただただめでたいし、喜ばしいだけの事実だと思って受け入れているのだが。それ対して、土岐が必ずしもそうではないのかもしれないと。
そう、感じ取れる土岐の視線が酷く気になった。
「恵那、恵那」
ちょいちょい、と響に手招きされたのは四人でボーリングしている最中で。
土岐と涼が投げている合間を縫うように響がジュースを買いに行くと言ったのだが。
どうやら恵那と二人で話がしたいらしい。
年明けの授業再開と共に学校の体制変更があり、強化部に関しても月に一日以上必ずノー部活デイを設定し、その日は一切の練習を禁止する、という通達があった。
当然設定日はその部活毎に決めて構わないから、それは各部試合に影響のない日となっていて。
その日は強化対象ではない部活やサークルが、普段使用できない体育館やグランドなどの施設を思う存分使用できるようにし、そういった部活にも整った設備環境での練習を体験させ、新たな強化部を作る機会にしたいという学校の方針らしい。
ということで、本日吹部もバスケ部も休日となったわけで。
当たり前のように四人で遊び倒す予定の一日である。
「あのさ。ちょい、なんとなーく、なんやけどさ。えっと……」
呼び出した挙句、自販機の片隅で言い淀む響に、
「何?」と恵那が訝しげに眉を寄せた。
「あんな、ちごーとったらごめんやで? ただ、なんかえっと……」
「だから、何? 気持ち悪いから、はっきり言えよ」
「自分、涼っちと……その、付きおーとるん?」
響が言ったのは、恵那にとっては完全に「何を今更?」と突っ込みたくなる話で。
実際、はっきりと「付き合い始めました」なんて報告を真っ正直にするような間柄でもなく、土岐にも曖昧にボかしながらしか言ってはいないけれど。
でも、二人でいる時に「俺の」という発言は最初からずっとしていたし、はっきりと付き合うようになる前から涼とのスキンシップなんて全然日常茶飯事だったから。
「いや、だって。なんか、恵那がべたべたしても前は涼っちが逃げ腰やったやん? 最近、なんか当たり前にくっついとるから、ひょっとして、って思てん」
「涼は俺のだって、前からゆってっけど?」
「そゆ問題やのーて」
「俺の、なんだっつの」
響の“冗談前提”というニュアンスの言葉に、食い気味にちょっとだけマジな目で繰り返した。
「え?」
「だから、そゆこと。ま、でも土岐にも言ったけどさ。別に俺ら、今までとなんも変わんねーからさ。普通に四人で一緒に楽しんでるのが一番いいから」
「恵那?」
「いんだよ。俺と涼は今までもこれからも変わんねーの。ただ、前と違ってはっきり涼が俺のモンになったってだけの話」
恵那がいつものドヤ顔で言って。
「あんま、変な気回さなくていいから。あ、涼のジュースはいいよ、俺が買ってくから」
あいつ微炭酸じゃねーと飲めねーからなー、と響の背中を軽く叩いて何事もなかったように笑う。
「行こう。とっとと戻んねーと順番回ってくんぞ」
ペットボトルを二本持って、土岐の分は当たり前に響に任せて。
恵那は足早に自分達のレーンへと戻って行った。
響は愕然としていて。
部活が落ち着いてから四人でまた一緒にいるようになって、二人の様子が今までとちょっと違うとは感じていたのだが、その違和感の理由に全く気付かなかった。
元々二人が仲が良いのはわかっていたから、目を見合わせてくすくす笑っているのも、恵那がくふくふふざけて涼がちょっと膨れて拗ねて、でもそんな涼の頭を優しく撫でている様子も全部。前と変わらないのに、ちょっとだけ空気が違っていて。
で、さっき。
ボーリングの投球を「僕、初めてー」なんて言っている涼の腰に回した恵那の手が。自然に涼のお尻をやわやわと撫でていて。
これは涼が怒るな、と思っていたら。
ただ単に「もお」とだけ言って目の周りをピンク色に染めたから。
その瞬間。
あ、と思ったのだ。
これは友達だけじゃなくてそれ以上の関係に進んだのだ、と。
恵那の想いを涼が受け入れたのか、あるいはその逆なのか。どちらにしろ、この二人の間に流れている空気の甘さはとても自然で。
だから。
すとん、と腑に落ちた。
ただ。
一つだけ気になるのは。
その事実を知っているという土岐が少し、無表情に二人を見ているということで。
自分は、二人の関係がより深く進んだことはただただめでたいし、喜ばしいだけの事実だと思って受け入れているのだが。それ対して、土岐が必ずしもそうではないのかもしれないと。
そう、感じ取れる土岐の視線が酷く気になった。
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