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その夜。
涼にキリエから「無事におうちに着いたよ」という報告の電話が掛かって来た。
さすがに明日から学校が始まるから恵那の家に泊まることはしなかったけれど、当たり前のように夕飯までご馳走になって。
帰り際にちょっと用があると恵那の部屋に呼ばれたら。そっとキスだけしてくれた。
部屋でまったりその感触を思い出してニヤニヤしていたから。
「おかえりー、お疲れ様ー」
「あれー? 涼ちゃん、声がなんか幸せそうだよ? 何かイイコトあったの?」
なんてキリエに突っ込まれてしまう。
「えー、なんもないよお。それよかきーちゃん、結構遅くなっちゃったけど大丈夫?」
既に夜十時を回っている。
「んーん、駅にママが迎えに来ててくれたから、そのままご飯食べに行ってたの」
「そかそかー。それなら良かった」
ほわほわとした二人の会話。
恵那が聞いたら「まじで女子トークな」と鼻で笑われそうだが。
「ねえねえ、涼ちゃん。キリね、ちょっとびっくりしちゃった」
「ん?」
「恵那の弟くん、だっけ? ほら、涼ちゃんの学校の前で会ったトキくん、いたでしょ?」
「ん。えなの、双子の弟なんだよ」
「キリね、トキくんめっちゃタイプなのお」
きゃぴきゃぴしたキリエの言葉に、涼が一瞬固まる。
「背、高くてー、イケメンでー、マッチョマン。優しそうだったし、ちょおカッコイイ」
「えー……」
「恵那も顔はイケメンくんでしょ? やっぱり似てるし、なんか、理想の男の子だったー」
どうやらそのことを涼に伝えたくて仕方がなかったようで、キリエはかなり興奮している。
「彼女、いるのかなあ? 涼ちゃん、知ってる?」
「……いない、よ、多分」
「ほんと? じゃあさ、涼ちゃん。キリが春に高校生になるまで、見張っててよ」
「ええー」
嬉しそうに言っているキリエに、涼はなんだか複雑な感覚がして。
「涼ちゃん、キリ、春になったら会いに行くし、その時までトキくんに彼女できないようにジャマ、してね」
「しないよお」
「なんで? だってトキくん絶対モテるでしょ? キリの前に誰かに取られちゃうの、ヤだ」
「でも、土岐が幸せになるの、ジャマする権利は僕にはないもん」
いつもいつも、優しく恵那とのことを見守ってくれる土岐を思い出す。今日だってそっと、一人だけ涼のことを気遣ってくれていたから。
涼だって土岐が誰かと幸せになるのを、ジャマするわけにはいかない。
「でもでも。キリと幸せになるんだって思ったらそれでよくない?」
「やだよお」
「なんで?」
「……なんとなく」
「なんとなく、でキリの恋路、ジャマすんの? 涼ちゃんそんなの、優しくなーい」
「邪魔って……だってきーちゃん、ステータスで土岐口説くんでしょ? そんなの違くない?」
そうだ。
キリエが“カレシを作る”のは、だってJKとして格を付ける為だけで。そんなものの為に土岐が本当に好きなコと結ばれるかもしれないのを、邪魔するのは嫌だ。
「違うもん。そんなんじゃないもん。トキくんのことかっこいいなーって思ったのは、ほんとだもん」
「でもきーちゃん、土岐のこと何も知らないでしょ? ただ、見た目だけでカッコイイって言ってるの、なんか信用できないよ」
思わずキツい発言をしてしまって、はっとする。
「……涼ちゃんのイジワル」
「あ……違う。ごめん、きーちゃん」
「涼ちゃんは、ズルい。恵那もトキくんも仲良しで、二人共涼ちゃんのことばっかり護ってるの、ズルい」
あー、完全に拗ねたなー、と。涼は失敗した、と思ったけれど、
「別に、そんなことしてないよ。お友達、なだけだし」護って貰っているのは、否定できないけど。
「涼ちゃんには、恵那がいるでしょ。キリにトキくん、くれたっていいでしょ」
でもそんな風に言われ。
「土岐のこと、あげるとかそんなこと、できないし。それに土岐には土岐の選ぶ人がいるんだから。それは、もしかしたらきーちゃんかもしれないけど、別の誰かかもしれないでしょ。それは僕が口出しできることじゃなくて、土岐が選ぶことだから」
「そんなイジワル言ってる涼ちゃん、嫌い」
これはダメだと思う。
付き合いが長いから、キリエがこんなことを言い出したら完全に怒っているから。
頑固者な自分とそんなトコが似ているということは、多少自覚がある。
こんな状態になれば、今は何を言っても無駄だということは、わかっていて。
「キリ、疲れたからもう、寝るし。じゃあね」
案の定、それだけ言い捨ててぶち、と電話が切れた。
思わずスマホの画面を見つめる。
女の子って、難しい。
恵那はともかく、土岐は“僕のモノ”じゃないし。何より土岐には、ちゃんと幸せになって欲しい。
キリエと付き合うことが土岐にとっての幸せなら、それは絶対に応援する。
でも、それまでに何か土岐に出逢いがあって――だってバスケ部だってモテモテ部なのは確かだし――その出逢いを自分が阻むのは違う。
と、思う。
のは、間違っているのかな?
思わず自問してしまう。
土岐と響がバスケをしている姿を見て、すっごくカッコイイと思ったのは事実。きっとモテるというのは、多分確かだけれど。
でも、いつだって二人は恵那と自分と一緒にいて。
部活は最優先事項なことはもう当然だけれど、それ以外ではいつも優先してくれているのは自分達のこと。
なら、このままずっと四人でいれば、春にキリエがこっちに来れば土岐と彼女の幸せな結末というのが待っているのかもしれなくて。
それは、いいこと。
なハズ。
なのに。
今、涼はそれがちょっとだけ苦いと感じているから。
だめだ、わけわかんない。
四人でずっと仲良くしていられるのが、何よりも幸せだと思っている自分がいるから。
土岐の幸せとキリエのそれが重なることは。
まだ、考えられない。
グダグダとそんなことを考えているうちに、涼はいつの間にか熟睡していた。
その夜。
涼にキリエから「無事におうちに着いたよ」という報告の電話が掛かって来た。
さすがに明日から学校が始まるから恵那の家に泊まることはしなかったけれど、当たり前のように夕飯までご馳走になって。
帰り際にちょっと用があると恵那の部屋に呼ばれたら。そっとキスだけしてくれた。
部屋でまったりその感触を思い出してニヤニヤしていたから。
「おかえりー、お疲れ様ー」
「あれー? 涼ちゃん、声がなんか幸せそうだよ? 何かイイコトあったの?」
なんてキリエに突っ込まれてしまう。
「えー、なんもないよお。それよかきーちゃん、結構遅くなっちゃったけど大丈夫?」
既に夜十時を回っている。
「んーん、駅にママが迎えに来ててくれたから、そのままご飯食べに行ってたの」
「そかそかー。それなら良かった」
ほわほわとした二人の会話。
恵那が聞いたら「まじで女子トークな」と鼻で笑われそうだが。
「ねえねえ、涼ちゃん。キリね、ちょっとびっくりしちゃった」
「ん?」
「恵那の弟くん、だっけ? ほら、涼ちゃんの学校の前で会ったトキくん、いたでしょ?」
「ん。えなの、双子の弟なんだよ」
「キリね、トキくんめっちゃタイプなのお」
きゃぴきゃぴしたキリエの言葉に、涼が一瞬固まる。
「背、高くてー、イケメンでー、マッチョマン。優しそうだったし、ちょおカッコイイ」
「えー……」
「恵那も顔はイケメンくんでしょ? やっぱり似てるし、なんか、理想の男の子だったー」
どうやらそのことを涼に伝えたくて仕方がなかったようで、キリエはかなり興奮している。
「彼女、いるのかなあ? 涼ちゃん、知ってる?」
「……いない、よ、多分」
「ほんと? じゃあさ、涼ちゃん。キリが春に高校生になるまで、見張っててよ」
「ええー」
嬉しそうに言っているキリエに、涼はなんだか複雑な感覚がして。
「涼ちゃん、キリ、春になったら会いに行くし、その時までトキくんに彼女できないようにジャマ、してね」
「しないよお」
「なんで? だってトキくん絶対モテるでしょ? キリの前に誰かに取られちゃうの、ヤだ」
「でも、土岐が幸せになるの、ジャマする権利は僕にはないもん」
いつもいつも、優しく恵那とのことを見守ってくれる土岐を思い出す。今日だってそっと、一人だけ涼のことを気遣ってくれていたから。
涼だって土岐が誰かと幸せになるのを、ジャマするわけにはいかない。
「でもでも。キリと幸せになるんだって思ったらそれでよくない?」
「やだよお」
「なんで?」
「……なんとなく」
「なんとなく、でキリの恋路、ジャマすんの? 涼ちゃんそんなの、優しくなーい」
「邪魔って……だってきーちゃん、ステータスで土岐口説くんでしょ? そんなの違くない?」
そうだ。
キリエが“カレシを作る”のは、だってJKとして格を付ける為だけで。そんなものの為に土岐が本当に好きなコと結ばれるかもしれないのを、邪魔するのは嫌だ。
「違うもん。そんなんじゃないもん。トキくんのことかっこいいなーって思ったのは、ほんとだもん」
「でもきーちゃん、土岐のこと何も知らないでしょ? ただ、見た目だけでカッコイイって言ってるの、なんか信用できないよ」
思わずキツい発言をしてしまって、はっとする。
「……涼ちゃんのイジワル」
「あ……違う。ごめん、きーちゃん」
「涼ちゃんは、ズルい。恵那もトキくんも仲良しで、二人共涼ちゃんのことばっかり護ってるの、ズルい」
あー、完全に拗ねたなー、と。涼は失敗した、と思ったけれど、
「別に、そんなことしてないよ。お友達、なだけだし」護って貰っているのは、否定できないけど。
「涼ちゃんには、恵那がいるでしょ。キリにトキくん、くれたっていいでしょ」
でもそんな風に言われ。
「土岐のこと、あげるとかそんなこと、できないし。それに土岐には土岐の選ぶ人がいるんだから。それは、もしかしたらきーちゃんかもしれないけど、別の誰かかもしれないでしょ。それは僕が口出しできることじゃなくて、土岐が選ぶことだから」
「そんなイジワル言ってる涼ちゃん、嫌い」
これはダメだと思う。
付き合いが長いから、キリエがこんなことを言い出したら完全に怒っているから。
頑固者な自分とそんなトコが似ているということは、多少自覚がある。
こんな状態になれば、今は何を言っても無駄だということは、わかっていて。
「キリ、疲れたからもう、寝るし。じゃあね」
案の定、それだけ言い捨ててぶち、と電話が切れた。
思わずスマホの画面を見つめる。
女の子って、難しい。
恵那はともかく、土岐は“僕のモノ”じゃないし。何より土岐には、ちゃんと幸せになって欲しい。
キリエと付き合うことが土岐にとっての幸せなら、それは絶対に応援する。
でも、それまでに何か土岐に出逢いがあって――だってバスケ部だってモテモテ部なのは確かだし――その出逢いを自分が阻むのは違う。
と、思う。
のは、間違っているのかな?
思わず自問してしまう。
土岐と響がバスケをしている姿を見て、すっごくカッコイイと思ったのは事実。きっとモテるというのは、多分確かだけれど。
でも、いつだって二人は恵那と自分と一緒にいて。
部活は最優先事項なことはもう当然だけれど、それ以外ではいつも優先してくれているのは自分達のこと。
なら、このままずっと四人でいれば、春にキリエがこっちに来れば土岐と彼女の幸せな結末というのが待っているのかもしれなくて。
それは、いいこと。
なハズ。
なのに。
今、涼はそれがちょっとだけ苦いと感じているから。
だめだ、わけわかんない。
四人でずっと仲良くしていられるのが、何よりも幸せだと思っている自分がいるから。
土岐の幸せとキリエのそれが重なることは。
まだ、考えられない。
グダグダとそんなことを考えているうちに、涼はいつの間にか熟睡していた。
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