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「えな、ウチ、来る?」というラインが涼から入ったのは二日の夜だった。
元日は寝正月、二日は母の「初売り、ショッピング! おまえらの服も買ってやるから、荷物持ちに来い」という命令のせいで家族で郊外のショッピングモールに無理矢理付き合わされたわけで。
その夜、マンガを読みながら涼とラインで「明日、逢おうよ」ってなラブラブなやり取りになって、それならたまにはどうかと涼が自宅へと恵那を誘ったのだ。
「え、俺、涼のカレシ面してくの?」
「そんなことしなくていいってば。普通に友達でいいよ」
「お嬢さんを私に下さいって言ったがいい?」
「言わなくていいし、僕はお嬢さんじゃないから」
「どうしよ。おまえみたいな馬の骨にうちの大事な娘はやれん、とかゆわれたら」
「いい加減にしないと怒るよ?」
ラインでは埒が明かないと電話で話すと、やっぱり恵那がふざける。
「今ね、イトコが遊びに来てんの。僕も仲良しのコだから、良かったら一緒に遊ぼ」
「遊ぼって、何? コマ回しとか羽子板突いたりすんの?」
「しないし!」
「あ、凧揚げか。涼んち、庭広そうだし」
「えなー。話、進まないんだけど?」
二人してくっだらない話でくすくす笑って。
「んじゃ、とりあえずバラの花束抱えて明日のお昼に玄関まで行くよ」
なんて目一杯カッコつけた声で恵那が言うと、
「…………プロポーズでもしに来るの?」まだ言うか、と冷ややかに返してきた。
「追い返されるかな?」
「そんなことしたら家に入れてやんないから」
「わかったよ。ちゃんと指輪持ってく」
「しつこい!」
☆☆☆
「いつもお世話になってます。涼の母です」
玄関先で恵那が「あけましておめでとうございます」なんて挨拶をすると、涼の母がそう返してきた。
「涼が楽しく学校行ってるの、恵那くんのおかげね。いつもありがとう」
綺麗な和服を着て、おっとりした笑顔を見せて来る彼女は、涼が可愛いのが頷ける、涼そっくりのふわふわ美女で。
仕事絡みの年始の挨拶回りで和服を着ているらしく、その合間でわざわざ恵那の顔を見る為に一度帰宅してくれたらしい。
そして、その足元には小さな女のコがくっついている。
「もお、おかあさん。挨拶はいいから中、入ってよ」
涼が出てきて恵那の腕を引く。
「妹?」
「そ。香ちゃん、五歳。可愛いでしょ」
「うん、可愛い。涼そっくり。こんな小っちゃい妹がいんだな、涼」
恵那が手を振ると、母の後ろの隠れて小さく手を振ってくれた。
「この間、うちのホテルに泊まってくれたでしょ? ご挨拶しようと思ったんだけど、涼が高校生にもなってお母さんが出てくるなんて恥ずかしいからやめてって。なんだかほんと、男の子だわーって思って嬉しかったのお」
ふにゃあ、と涼と同じような幸せそうな笑顔になる。
「もおやめてってばー。ね、えな、もういいから僕の部屋行こ。きーちゃんもいるから」
涼が赤くなって恵那の手を引いて。
ふわふわな親子の図が面白過ぎたけれど、とりあえず「じゃあ」と会釈して涼について行った。
吹き抜けになっている螺旋階段なんてのを上って、二階に上がる。
初めて来たけれど、まるで住宅展示場のモデルハウスのような、テレビドラマにでも出てきそうな立派な家で。
恵那としては自宅でスリッパなんて履かない生活をしているせいか、クッションの効いた高級そうなスリッパを履かされて半分転びそうな感覚で階段を上った。
「きーちゃん、お待たせ。友達の恵那でーす」
二階の廊下を突き当たりまで進み、右手の扉を開けると中は恵那の部屋の二倍はある広さの個室が広がっていた。当然のようにある二人掛けのお高そうなソファに座っていたのは黒髪ロングヘアの美少女で。
「初めまして。山之内樹李江です」
にっこり笑って自己紹介。
可愛い。けれど、涼とは似ていない。
可愛いというよりは綺麗と言った方がいいかもしれない。
切れ長奥二重の黒い瞳。すっと通った高い鼻、薄い唇はほんのり赤くて。透明感のある白い肌こそ涼と同じだけれど、そのパーツパーツがどれも全然違っていて。
エキゾチックな雰囲気を纏っていて、立ち上がると涼より少し背が高かった。
「えな、ウチ、来る?」というラインが涼から入ったのは二日の夜だった。
元日は寝正月、二日は母の「初売り、ショッピング! おまえらの服も買ってやるから、荷物持ちに来い」という命令のせいで家族で郊外のショッピングモールに無理矢理付き合わされたわけで。
その夜、マンガを読みながら涼とラインで「明日、逢おうよ」ってなラブラブなやり取りになって、それならたまにはどうかと涼が自宅へと恵那を誘ったのだ。
「え、俺、涼のカレシ面してくの?」
「そんなことしなくていいってば。普通に友達でいいよ」
「お嬢さんを私に下さいって言ったがいい?」
「言わなくていいし、僕はお嬢さんじゃないから」
「どうしよ。おまえみたいな馬の骨にうちの大事な娘はやれん、とかゆわれたら」
「いい加減にしないと怒るよ?」
ラインでは埒が明かないと電話で話すと、やっぱり恵那がふざける。
「今ね、イトコが遊びに来てんの。僕も仲良しのコだから、良かったら一緒に遊ぼ」
「遊ぼって、何? コマ回しとか羽子板突いたりすんの?」
「しないし!」
「あ、凧揚げか。涼んち、庭広そうだし」
「えなー。話、進まないんだけど?」
二人してくっだらない話でくすくす笑って。
「んじゃ、とりあえずバラの花束抱えて明日のお昼に玄関まで行くよ」
なんて目一杯カッコつけた声で恵那が言うと、
「…………プロポーズでもしに来るの?」まだ言うか、と冷ややかに返してきた。
「追い返されるかな?」
「そんなことしたら家に入れてやんないから」
「わかったよ。ちゃんと指輪持ってく」
「しつこい!」
☆☆☆
「いつもお世話になってます。涼の母です」
玄関先で恵那が「あけましておめでとうございます」なんて挨拶をすると、涼の母がそう返してきた。
「涼が楽しく学校行ってるの、恵那くんのおかげね。いつもありがとう」
綺麗な和服を着て、おっとりした笑顔を見せて来る彼女は、涼が可愛いのが頷ける、涼そっくりのふわふわ美女で。
仕事絡みの年始の挨拶回りで和服を着ているらしく、その合間でわざわざ恵那の顔を見る為に一度帰宅してくれたらしい。
そして、その足元には小さな女のコがくっついている。
「もお、おかあさん。挨拶はいいから中、入ってよ」
涼が出てきて恵那の腕を引く。
「妹?」
「そ。香ちゃん、五歳。可愛いでしょ」
「うん、可愛い。涼そっくり。こんな小っちゃい妹がいんだな、涼」
恵那が手を振ると、母の後ろの隠れて小さく手を振ってくれた。
「この間、うちのホテルに泊まってくれたでしょ? ご挨拶しようと思ったんだけど、涼が高校生にもなってお母さんが出てくるなんて恥ずかしいからやめてって。なんだかほんと、男の子だわーって思って嬉しかったのお」
ふにゃあ、と涼と同じような幸せそうな笑顔になる。
「もおやめてってばー。ね、えな、もういいから僕の部屋行こ。きーちゃんもいるから」
涼が赤くなって恵那の手を引いて。
ふわふわな親子の図が面白過ぎたけれど、とりあえず「じゃあ」と会釈して涼について行った。
吹き抜けになっている螺旋階段なんてのを上って、二階に上がる。
初めて来たけれど、まるで住宅展示場のモデルハウスのような、テレビドラマにでも出てきそうな立派な家で。
恵那としては自宅でスリッパなんて履かない生活をしているせいか、クッションの効いた高級そうなスリッパを履かされて半分転びそうな感覚で階段を上った。
「きーちゃん、お待たせ。友達の恵那でーす」
二階の廊下を突き当たりまで進み、右手の扉を開けると中は恵那の部屋の二倍はある広さの個室が広がっていた。当然のようにある二人掛けのお高そうなソファに座っていたのは黒髪ロングヘアの美少女で。
「初めまして。山之内樹李江です」
にっこり笑って自己紹介。
可愛い。けれど、涼とは似ていない。
可愛いというよりは綺麗と言った方がいいかもしれない。
切れ長奥二重の黒い瞳。すっと通った高い鼻、薄い唇はほんのり赤くて。透明感のある白い肌こそ涼と同じだけれど、そのパーツパーツがどれも全然違っていて。
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