72 / 231
<2>
☆☆☆
しおりを挟む
八月中の、吹部が地獄の日々を送っている時。
涼にも耳打ちして前もって用意していたプレゼントを、家の前で土岐と二人が帰宅するのを待ち伏せしてまで手渡して。響が恵那たちの家の前を通り越してから帰宅しているのを知っていたから、こっそり門の所に隠れてクラッカーまで鳴らしていた。
しかも、ちゃんと響が喜んで使ってくれるだろうNBAのデザインTシャツで。
「まあ、な。あいつが友達に囲まれるのは、みんなをちゃんと大事にしてるからだろうしな」
土岐は、どちらかというと深く狭く、な人間関係を望んでいて。恵那は広く浅く、なのかと思うけれど。実際は広く深く、なのかもしれない。いつだって楽しそうに友人に囲まれている姿しか思い浮かばないから。
「えなはね、何でもいいって」
何が欲しいか訊いたら、くふ、といつものように笑って「涼」って答えてくれて。
半分冗談だろうけど、でもすごく嬉しくて。だから、そーゆーんじゃなくてちゃんとしたモノ、教えてよって照れながら涼が言うと、今度は「涼がくれるってんなら、何でも嬉しいよ」なんてイケメってる答えで。
「まあ……」恋人同士ならそれでいいだろう、な。と土岐も黙って少し照れてはにかんだ涼の様子にいろんなことを察してしまう。
「俺も別に、何でもいいけど」
この可愛いお姫様が微笑んでくれるなら、それだけでいい。なんて思ってしまった。
いや、実際こいつは兄である恵那のモノだから。
自制、する。
心の中、本当はどこか苦しくて、ちょっとこれは未だかつて経験したことのない感覚ではあるけれど。
「もお。何でもいい、って結構困るんだけどなー。僕バスケ、詳しくないし。バスケする人って何が……あ、バッシュとか?」
「そんな高価なもの、いらないよ」
「え、バッシュって高いの?」
「ピンキリだけどな。……あー、じゃあさ。リストバンド」
「そんなんでいいの?」
「うちのチーム、特に指定はないから。涼のセンスで選んでくれ」
「うわ、逆に試されてるし」
土岐に似合うのってどんなんだろー、なんて悩み始めて。
一つ一つの仕草が可愛いから、土岐はぼんやりとそれを見つめてしまう。
友達なんていない、というけれど。きっと本当は近付きたいと思っているヤツなんて山ほどいるだろう。
お坊ちゃま育ちだからか物腰が柔らかくて、自己主張はあまり上手ではないけれど、困っている人をほっとくことはしないでちゃんと手を差し伸べるだけの強さは持っている。
そんな涼を、ただ傍で見ているだけでいいと思うのは本心からで。
だから、何でもいい、というのは寧ろ、涼がいい、と思っているのかもしれなくて。
恵那が“俺の涼”と、逢ったばかりの頃からずっと言っていたけれど、その気持ちが理解できる。
この柔らかな微笑みをとにかく護りたいと思うのは、恵那だけじゃなく自分もだ。
「土岐、何色が好き?」
「色? あー、あんまし気にしたことないな」
「なんかね、僕の中ではー、土岐は深い緑色なイメージ」
「緑?」
「ん。森の中で癒される感じ、かな。すっごく優しいし、大きいし。えなみたくおバカ発言もしないし」
「あいつはよく人を見てるから、どこをどうイジったら場が和むかわかってるからさ」
「わかっててやってんのか、ちょっとアヤしい感じもするけどね」
その場のノリでイジられまくるから、涼がちょっと顔を顰めた。
「でもイヤじゃないだろ? ずーっとくっついてるし」
「そりゃ……ん、まあ。……好き、だし」
小さく言って、照れて赤くなった。
白い頬がピンク色に染まって、膝を抱えてぎゅうっと小さくなるから。
「あ、土岐、知ってる、よね?」
その可愛さにヤられかけていた土岐だったが、くりん、と丸い目で問われて「何が?」と何とか持ちこたえながら返す。
ヤバい、ほんとに。
まだ女子との交際経験なんてないから、女の子がこんな風に上目遣いなんてしてきたらどんなに戸惑うかなんて、初めての経験で。いや、涼は女の子じゃ、ないけれど。
「えっと……えなと、お付き合い、してます。……わ、なんか照れちゃう」
恥ずかしいよお、なんて呟きながら耳まで真っ赤にして。
「ああ……なんとなく? 噂で聞いてたし、こないだ本人からも一応」
「部活とかではさ、なんか当たり前に流して貰ってるけど。なんとなく、土岐と響には恥ずかしくて言えれなかったんだよね」
涼の表情から、恵那のことが好きで堪らないという感情が伝わってくるから。
心の中のわけのわからない痛みが、増す。
「涼……」
「あでもね、でもね。響と土岐と四人でいるのも大事だし、僕、二人のこともほんとに大好きだから。だから、ね。えっと……もちょっと土岐たちが時間、余裕できたらさ。また、一緒に、あそぼ?」
恵那と同じことを、恵那と同じように照れながら、でも恵那よりも百倍可愛い表情で涼が言う。
それが、痛くて苦しい。この感覚は、何だ?
「もちろん。吹部も、でも忙しいだろ? また休み合わせてどこか遊びに行こう」
土岐はそれでも、内心吹き荒れる感情を全く表に出すことなく、涼にそう言って笑いかけた。
涼にも耳打ちして前もって用意していたプレゼントを、家の前で土岐と二人が帰宅するのを待ち伏せしてまで手渡して。響が恵那たちの家の前を通り越してから帰宅しているのを知っていたから、こっそり門の所に隠れてクラッカーまで鳴らしていた。
しかも、ちゃんと響が喜んで使ってくれるだろうNBAのデザインTシャツで。
「まあ、な。あいつが友達に囲まれるのは、みんなをちゃんと大事にしてるからだろうしな」
土岐は、どちらかというと深く狭く、な人間関係を望んでいて。恵那は広く浅く、なのかと思うけれど。実際は広く深く、なのかもしれない。いつだって楽しそうに友人に囲まれている姿しか思い浮かばないから。
「えなはね、何でもいいって」
何が欲しいか訊いたら、くふ、といつものように笑って「涼」って答えてくれて。
半分冗談だろうけど、でもすごく嬉しくて。だから、そーゆーんじゃなくてちゃんとしたモノ、教えてよって照れながら涼が言うと、今度は「涼がくれるってんなら、何でも嬉しいよ」なんてイケメってる答えで。
「まあ……」恋人同士ならそれでいいだろう、な。と土岐も黙って少し照れてはにかんだ涼の様子にいろんなことを察してしまう。
「俺も別に、何でもいいけど」
この可愛いお姫様が微笑んでくれるなら、それだけでいい。なんて思ってしまった。
いや、実際こいつは兄である恵那のモノだから。
自制、する。
心の中、本当はどこか苦しくて、ちょっとこれは未だかつて経験したことのない感覚ではあるけれど。
「もお。何でもいい、って結構困るんだけどなー。僕バスケ、詳しくないし。バスケする人って何が……あ、バッシュとか?」
「そんな高価なもの、いらないよ」
「え、バッシュって高いの?」
「ピンキリだけどな。……あー、じゃあさ。リストバンド」
「そんなんでいいの?」
「うちのチーム、特に指定はないから。涼のセンスで選んでくれ」
「うわ、逆に試されてるし」
土岐に似合うのってどんなんだろー、なんて悩み始めて。
一つ一つの仕草が可愛いから、土岐はぼんやりとそれを見つめてしまう。
友達なんていない、というけれど。きっと本当は近付きたいと思っているヤツなんて山ほどいるだろう。
お坊ちゃま育ちだからか物腰が柔らかくて、自己主張はあまり上手ではないけれど、困っている人をほっとくことはしないでちゃんと手を差し伸べるだけの強さは持っている。
そんな涼を、ただ傍で見ているだけでいいと思うのは本心からで。
だから、何でもいい、というのは寧ろ、涼がいい、と思っているのかもしれなくて。
恵那が“俺の涼”と、逢ったばかりの頃からずっと言っていたけれど、その気持ちが理解できる。
この柔らかな微笑みをとにかく護りたいと思うのは、恵那だけじゃなく自分もだ。
「土岐、何色が好き?」
「色? あー、あんまし気にしたことないな」
「なんかね、僕の中ではー、土岐は深い緑色なイメージ」
「緑?」
「ん。森の中で癒される感じ、かな。すっごく優しいし、大きいし。えなみたくおバカ発言もしないし」
「あいつはよく人を見てるから、どこをどうイジったら場が和むかわかってるからさ」
「わかっててやってんのか、ちょっとアヤしい感じもするけどね」
その場のノリでイジられまくるから、涼がちょっと顔を顰めた。
「でもイヤじゃないだろ? ずーっとくっついてるし」
「そりゃ……ん、まあ。……好き、だし」
小さく言って、照れて赤くなった。
白い頬がピンク色に染まって、膝を抱えてぎゅうっと小さくなるから。
「あ、土岐、知ってる、よね?」
その可愛さにヤられかけていた土岐だったが、くりん、と丸い目で問われて「何が?」と何とか持ちこたえながら返す。
ヤバい、ほんとに。
まだ女子との交際経験なんてないから、女の子がこんな風に上目遣いなんてしてきたらどんなに戸惑うかなんて、初めての経験で。いや、涼は女の子じゃ、ないけれど。
「えっと……えなと、お付き合い、してます。……わ、なんか照れちゃう」
恥ずかしいよお、なんて呟きながら耳まで真っ赤にして。
「ああ……なんとなく? 噂で聞いてたし、こないだ本人からも一応」
「部活とかではさ、なんか当たり前に流して貰ってるけど。なんとなく、土岐と響には恥ずかしくて言えれなかったんだよね」
涼の表情から、恵那のことが好きで堪らないという感情が伝わってくるから。
心の中のわけのわからない痛みが、増す。
「涼……」
「あでもね、でもね。響と土岐と四人でいるのも大事だし、僕、二人のこともほんとに大好きだから。だから、ね。えっと……もちょっと土岐たちが時間、余裕できたらさ。また、一緒に、あそぼ?」
恵那と同じことを、恵那と同じように照れながら、でも恵那よりも百倍可愛い表情で涼が言う。
それが、痛くて苦しい。この感覚は、何だ?
「もちろん。吹部も、でも忙しいだろ? また休み合わせてどこか遊びに行こう」
土岐はそれでも、内心吹き荒れる感情を全く表に出すことなく、涼にそう言って笑いかけた。
0
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる