コレは誰の姫ですか?

月那

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「てことになるな。ちくしょー、残念」棒読みで徹がコーラを飲み干す。
 おかわり貰ってこよ、と立ち上がった。
 机が数個ずつ塊になってちょっとしたテーブルになっていて、その上にお菓子やジュース、食堂で発注したピザや唐揚げ、ポテトなどの軽食が並んでいる。
 パーティ、と言っても簡単な食事会である。

「そかー。じゃあ、去年の辰巳先輩だったら十分優勝狙えたってことっスね」
 恵那がくふ、とイタズラっぽく笑って見せる。
「おま……徹! 喋ったな!」
 辰巳に睨まれて、コーラを手に戻って来た徹がふい、と目を逸らした。

「くっそ。恵那おまえ、誰にも言うなよ、それ」
 照れて拗ねて。辰巳が顔をくしゃ、と顰めて徹をどついたけれど、過去の“姫”ネタを知った恵那としてはそれすらもちょっと可愛いと思ってしまう。
「写真、残ってないんスか?」
「知らん!」という辰巳のセリフと「あるよ」という徹のセリフが被る。

「見せてー、見ーせーてー」
「見せんなよ、徹!」
「んー……っと、一年前だからこの辺か」
 辰巳の制止なんて聞くハズのない徹である。奏も揃ってスマホの写真フォルダをスクロールして過去写真を探る。
「あった。ほら、コレ」
 先に見つけたのは徹で。奏が辰巳を羽交い絞めにすると、恵那に画面を見せてくれた。
「やめろ! 徹! てめえ、後でコロス!」
「意外と可愛いだろ。まあ、佐竹には敵わないけどな」
 当然ながら平然と徹が見せてくれた画面には、真っ赤になって完全激おこモードの可愛い男子が写っていて。今と同じ表情なのに、今とはかなり印象の違う顔立ちだし、当然だけれど小さいし可愛くて。

「おおー、なかなかイけてんじゃん」
 でも、涼のような自然体では勿論ないから。当たり前にガニ股でそこそこにすね毛もあるし、ロングヘアの鬘でなんとなく女子っぽくはしてあるけれど、どこからどう見ても女装男子。

「イけてるわけねーだろ。くっそ。人の黒歴史晒してんじゃねえ!」
 さすがに諦めた辰巳が腕を組んで不貞腐れて。
「辰巳、コレがあまりにも屈辱だったらしくてさ、この後ずっとひたすら牛乳飲んで筋トレして、牛乳飲んで筋トレして、っつー無限ループで今の体を手に入れたんだよ」
 奏も当時の写真を発掘したらしく、恵那に見せてくれながら黒歴史の続きを語る。

「だからさ。佐竹もあの可愛い姿ってのは多分、今だけなんだろうなーとは思うよ? さすがに高校卒業する頃にはちゃんと“男”になってんじゃねーの?」
 奏の言葉には何とも言えない哀愁が含まれていて。
 いつだって読めない男だから、その裏に何か意味を含ませているのだろうとは思うが。

「いや、佐竹はあのまんまなんじゃね? あれが“男”になるなんて、想像もつかん」
 徹が鼻で笑って。
「恵那もその方がよくね? あの可愛い佐竹ならイロイロできるだろうけど、辰巳みたくデカくなったらちょっとキビしくねーか?」
 ちょっとエロいニュアンスを含ませてニヤリと口の端を上げるから。

「そうそう。あんだけ可愛いけりゃ、ほんっとアレコレお願いしたいトコだけどな」
 奏までがニヤニヤして。
「どこまでヤった?」仕返しのように辰巳がトドメを刺した。

「あー……それな」
 さすがにコウイウ話になるとは思っていなかったから、恵那としても少し照れてしまう。
「ちゅうは? まあ、手はふっつーに繋いでそうだけど」
 辰巳のエロ親父的発言には「あんましそゆこと喋ると、涼が怒り狂いそうなんだよなー。俺は別に何でもゲロっていいんだけどさ」と頭を掻きながら答えた。

「なんだかんだ、恵那って佐竹に惚れてるよなー。果てしなく甘やかしてるっつーか」
「奏先輩だって、彼女のことはデロデロに甘やかしてんじゃねーの? 俺、付き合うってそーゆーモンかなーと思ってんだけど」
 奏にはしっかりと仕返しのように言う。
 辰巳と徹はともかく、この人だけはちゃんとした彼女がいるから。
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