コレは誰の姫ですか?

月那

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 文化祭の翌日は、日曜日の振替として全校生徒が休日。
 そして翌、火曜日の放課後に吹奏楽部は早速全員集合となった。
 何故なら、文化祭の慰労としてちょっとした打ち上げパーティと同時に、新旧役員の交代式が行われるからだ。
 年末にはクリスマスコンサートも控えているから、練習密度はそんなに変化しないが、ここで受験を控えた三年生は基本的に引退ということになる。
 いくら外部受験をしないと言っても、全く試験がないわけではないし、推薦だけで上がれる人間ばかりでもない。系列大学を受けるのに多少有利な条件だけを貰って受験する、という者が大半だから。
 どんな道を進むにしても、ここからはそれぞれが将来へと向けて勉強に勤しむことになるから。

「っつーことで、佐竹には大切な任務を言い渡す」
 何故か音楽室に入った瞬間恵那と涼、二人共に音楽準備室へと拉致られた上、徹を始めとする新役員がガンクビ揃えて待っていて。
「大切な、任務?」
 涼が首を傾げると、徹が目で合図を送り、いそいそとクラリネットの二年生中司なかつかが白い布のかかったトルソらしきものを引っ張ってきて。

「いいか、佐竹。今日一日、おまえは“姫”となる。今からこれに着替えて、旧役員をおもてなしするんだ」
 しゅる、と白い布を取り去ると、その下に現れたのは。
「え? 何コレ、制服?」

 紺色のブレザーは男子と同じ生地。ただし、縁取りは光沢のあるグレーになっていて、その形もウエスト部分が少し細く絞られている。違和感だらけのそれは、しかしながら胸のエンブレムは当然校章で、この制服がこの学校のものであることを証明していて。
 そしてそんなブレザーだけでなく、明らかにこれが普段自分達が着ているものではないと一目瞭然なのが。
 ズボンと同じ生地でできたプリーツスカート。

「何……どういう、こと?」
「うちの女子用の制服だ。この世にこの一着しかない」
 徹が真剣な目をして涼を見る。
「この制服がまさにシンデレラフィットする者のみに与えられた称号、それが“姫”だ」
「は?」
「我が吹奏楽部に代々伝わるこの女子用制服。コスプレ用なんかじゃない、正式な制服だ」
「どゆこと?」恵那が眉を顰めて訝った。

「その昔、紺の学ランだったこの学校の制服が現在のデザインに変更された時、実は一瞬共学化の話が持ち上がったらしい。その際、男子用だけでなく女子用の制服もサンプルとして作成されたんだが、当時の部員の関係者がどうやらその話に噛んでいたらしくて」
 共学化の話は立ち消えとなり、この世に一枚だけ存在するこの女子型制服が何故か吹部のものになったという。

「そこで、だ。毎年一年生の中にいる一番華奢なヤツにこれを着せて、一年間部を引っ張ってくれた幹部役員に対して、少しでも“同じ学校の彼女”ってのを味わってもらおうというのが、この部の伝統なわけだ」
 徹が滔々とのたまった。

 交代式こそまだこれからであるが、既に引継ぎは完了している。
 徹は部長。クラリネットの中司はコンサートマスターで、副部長がトロンボーンの鷹野たかのとフルートの山崎やまさき。楽譜と経理を管理する庶務がパーカッションの大庭おおばとチューバの進藤しんどう。以上六名が新役員となった。この幹部が顧問の二名の音楽教諭と今後の部についての方向性を決めていくのだ。

 ということで、徹はおふざけを卒業するのかと思われたが。

「あ、拒否権、ねーから。暴れたらとりあえず恵那に頼もうと思ってさ。おまえ、カレシだろ。佐竹、無理矢理でも着替えさせろ」
 しれっとそんなことを言ってニヤリと嗤う。
 合宿の時に“姫は佐竹”と言っていた話を恵那も思い出す。
 が、そんなことより、これは絶対激おこ案件じゃねーかと涼を見ると。

「…………」
 案の定口を尖らせて不貞腐れている。
「あー……俺が、代わりに……ってわけには、いかんのか。入らんな、その制服」
 さすがに白雪姫のような身代わりは不可能。
 何しろこの制服、かなり華奢な女の子サイズだから。

「今年の一年、佐竹以外にコレが着れるヤツはいない。とゆーより、この制服は佐竹の為に作られたんじゃないかとさえ、俺は思ってる」
「なわけあるかい。徹先輩、勘弁してよ。涼、さすがに女装は嫌だって。なあ?」
 恵那が苦笑しながら涼の頭に手を乗せると。
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