コレは誰の姫ですか?

月那

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「校内のどこにいるんでしょうか? 見ていたらここへ来て、このトロフィーを受け取って貰いたいんですが。どなたか、彼の居場所をご存知の方はいらっしゃいますかー?」
 これはヤバい。
 ここで涼とデートしてる、ってことはさっき焼きそばを買っている時に出会った辰巳に話している。
 このままここにいたら、絶対にヤツらなら引っ張り出しに来るハズ。

「涼、逃げるぞ」
「へ?」
「あんなステージに上がって見せモンになる気は、俺にはない!」
「えー。えな、ノリノリだったじゃん」
「俺が自分で姫になるのはいいが、姫にされるのはヤなんだっつの」
 行くぞ、と手を引くとそのままグランドの端から第二体育館がある方へと逃げ出した。

 グランドから第二体育館へと抜ける道は、細いけれど綺麗に植林されている桜並木となっていて、ぽつぽつと点在するライトは春先には花見ができるようになっている。
 この季節はただの生い茂った木々でしかないが。
 そして第二体育館の裏手にはクラブハウス棟がある。

 第二体育館を使用している部活のものだが、今日は文化祭だし体育会系はさすがに部活もなく恐らくグランドで後夜祭を楽しんでいるだろう。
 人気はないし、ただちょっとしたライトだけが点灯していて。
 静かな場所だから丁度いいとベンチを見つけて二人で座った。

「あいつら、ばっかじゃねーの? 何がミスコンだっつの」
 俺はオトコだ、と主張しようとして。
 ふといつもそれを言っている涼に目を遣る。

「あー……えっと。涼」
「ん?」
 引っ張られてはいたけれど、そんな全力で走ったわけじゃなくて。
 二人で手を繋いで歩いていただけだったから、涼としては、お散歩デートみたいでちょっと嬉しい。
「なんか、うん。ごめん」
「え、何が?」
「俺さ。涼のこと、可愛くてしょーがなくてさ。だから、ついつい可愛い、可愛いって言っちまうんだよな」
 可愛いと言われて、いつだって嫌な顔をしていた涼の気持ち、自分もされてみてやっとわかった。

「ん……ん、最初は、やっぱヤだったし。今でも、えな以外に言われるのは、ちょっとヤだよ。でも、えなが言ってくれるのは、今はそんな、ヤじゃないよ」
 そう言って、ふわりと微笑む。

 ミスコン、なんでこいつが優勝しなかったのか謎でしかないんだが。と恵那はふと思う。

「僕ね。えなが僕のこと、可愛いって言ってくれるのは、嬉しい。それって、僕のこと、好きってことだよね?」
 少し頬を赤らめて。
 照れてはにかむその表情は、きっと誰が見てもどこから見てもただただ“可愛い”以外にないから。
「もちろん」
 答えて、肩を抱いて。

「ミスコンでクイーンになっちゃうくらい、えなだって美人さんだし僕なんかより全然可愛いんだよ? 知ってた?」
 涼がちょっと仕返しのように笑う。
「俺は、でも涼に可愛いって言われんのは、ちょっとイヤかも」
 少し顔を顰めて。
「可愛い、じゃなくてカッコイイ、だろ? 俺、おまえのこと全力で護ってやれるくらい、カッコイイ男だと思ってっけど?」
「はいはい、かっこいい、かっこいい」
「いや、おい。棒読みだわ」

 突っ込んで、二人して笑って。
 そして、少し黙る。
 お互いの顔、じっと見つめて。

「涼、キス、したい」
 暗闇の中、月明かりに照らされている涼の白い頬に手を添える。
「ん」
 小さく頷いて、目を閉じて。
 繋いだ手の指を、絡めなおして。

 ゆっくりと唇を重ねた。
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