64 / 231
<2>
☆☆☆
しおりを挟む
「校内のどこにいるんでしょうか? 見ていたらここへ来て、このトロフィーを受け取って貰いたいんですが。どなたか、彼の居場所をご存知の方はいらっしゃいますかー?」
これはヤバい。
ここで涼とデートしてる、ってことはさっき焼きそばを買っている時に出会った辰巳に話している。
このままここにいたら、絶対にヤツらなら引っ張り出しに来るハズ。
「涼、逃げるぞ」
「へ?」
「あんなステージに上がって見せモンになる気は、俺にはない!」
「えー。えな、ノリノリだったじゃん」
「俺が自分で姫になるのはいいが、姫にされるのはヤなんだっつの」
行くぞ、と手を引くとそのままグランドの端から第二体育館がある方へと逃げ出した。
グランドから第二体育館へと抜ける道は、細いけれど綺麗に植林されている桜並木となっていて、ぽつぽつと点在するライトは春先には花見ができるようになっている。
この季節はただの生い茂った木々でしかないが。
そして第二体育館の裏手にはクラブハウス棟がある。
第二体育館を使用している部活のものだが、今日は文化祭だし体育会系はさすがに部活もなく恐らくグランドで後夜祭を楽しんでいるだろう。
人気はないし、ただちょっとしたライトだけが点灯していて。
静かな場所だから丁度いいとベンチを見つけて二人で座った。
「あいつら、ばっかじゃねーの? 何がミスコンだっつの」
俺はオトコだ、と主張しようとして。
ふといつもそれを言っている涼に目を遣る。
「あー……えっと。涼」
「ん?」
引っ張られてはいたけれど、そんな全力で走ったわけじゃなくて。
二人で手を繋いで歩いていただけだったから、涼としては、お散歩デートみたいでちょっと嬉しい。
「なんか、うん。ごめん」
「え、何が?」
「俺さ。涼のこと、可愛くてしょーがなくてさ。だから、ついつい可愛い、可愛いって言っちまうんだよな」
可愛いと言われて、いつだって嫌な顔をしていた涼の気持ち、自分もされてみてやっとわかった。
「ん……ん、最初は、やっぱヤだったし。今でも、えな以外に言われるのは、ちょっとヤだよ。でも、えなが言ってくれるのは、今はそんな、ヤじゃないよ」
そう言って、ふわりと微笑む。
ミスコン、なんでこいつが優勝しなかったのか謎でしかないんだが。と恵那はふと思う。
「僕ね。えなが僕のこと、可愛いって言ってくれるのは、嬉しい。それって、僕のこと、好きってことだよね?」
少し頬を赤らめて。
照れてはにかむその表情は、きっと誰が見てもどこから見てもただただ“可愛い”以外にないから。
「もちろん」
答えて、肩を抱いて。
「ミスコンでクイーンになっちゃうくらい、えなだって美人さんだし僕なんかより全然可愛いんだよ? 知ってた?」
涼がちょっと仕返しのように笑う。
「俺は、でも涼に可愛いって言われんのは、ちょっとイヤかも」
少し顔を顰めて。
「可愛い、じゃなくてカッコイイ、だろ? 俺、おまえのこと全力で護ってやれるくらい、カッコイイ男だと思ってっけど?」
「はいはい、かっこいい、かっこいい」
「いや、おい。棒読みだわ」
突っ込んで、二人して笑って。
そして、少し黙る。
お互いの顔、じっと見つめて。
「涼、キス、したい」
暗闇の中、月明かりに照らされている涼の白い頬に手を添える。
「ん」
小さく頷いて、目を閉じて。
繋いだ手の指を、絡めなおして。
ゆっくりと唇を重ねた。
これはヤバい。
ここで涼とデートしてる、ってことはさっき焼きそばを買っている時に出会った辰巳に話している。
このままここにいたら、絶対にヤツらなら引っ張り出しに来るハズ。
「涼、逃げるぞ」
「へ?」
「あんなステージに上がって見せモンになる気は、俺にはない!」
「えー。えな、ノリノリだったじゃん」
「俺が自分で姫になるのはいいが、姫にされるのはヤなんだっつの」
行くぞ、と手を引くとそのままグランドの端から第二体育館がある方へと逃げ出した。
グランドから第二体育館へと抜ける道は、細いけれど綺麗に植林されている桜並木となっていて、ぽつぽつと点在するライトは春先には花見ができるようになっている。
この季節はただの生い茂った木々でしかないが。
そして第二体育館の裏手にはクラブハウス棟がある。
第二体育館を使用している部活のものだが、今日は文化祭だし体育会系はさすがに部活もなく恐らくグランドで後夜祭を楽しんでいるだろう。
人気はないし、ただちょっとしたライトだけが点灯していて。
静かな場所だから丁度いいとベンチを見つけて二人で座った。
「あいつら、ばっかじゃねーの? 何がミスコンだっつの」
俺はオトコだ、と主張しようとして。
ふといつもそれを言っている涼に目を遣る。
「あー……えっと。涼」
「ん?」
引っ張られてはいたけれど、そんな全力で走ったわけじゃなくて。
二人で手を繋いで歩いていただけだったから、涼としては、お散歩デートみたいでちょっと嬉しい。
「なんか、うん。ごめん」
「え、何が?」
「俺さ。涼のこと、可愛くてしょーがなくてさ。だから、ついつい可愛い、可愛いって言っちまうんだよな」
可愛いと言われて、いつだって嫌な顔をしていた涼の気持ち、自分もされてみてやっとわかった。
「ん……ん、最初は、やっぱヤだったし。今でも、えな以外に言われるのは、ちょっとヤだよ。でも、えなが言ってくれるのは、今はそんな、ヤじゃないよ」
そう言って、ふわりと微笑む。
ミスコン、なんでこいつが優勝しなかったのか謎でしかないんだが。と恵那はふと思う。
「僕ね。えなが僕のこと、可愛いって言ってくれるのは、嬉しい。それって、僕のこと、好きってことだよね?」
少し頬を赤らめて。
照れてはにかむその表情は、きっと誰が見てもどこから見てもただただ“可愛い”以外にないから。
「もちろん」
答えて、肩を抱いて。
「ミスコンでクイーンになっちゃうくらい、えなだって美人さんだし僕なんかより全然可愛いんだよ? 知ってた?」
涼がちょっと仕返しのように笑う。
「俺は、でも涼に可愛いって言われんのは、ちょっとイヤかも」
少し顔を顰めて。
「可愛い、じゃなくてカッコイイ、だろ? 俺、おまえのこと全力で護ってやれるくらい、カッコイイ男だと思ってっけど?」
「はいはい、かっこいい、かっこいい」
「いや、おい。棒読みだわ」
突っ込んで、二人して笑って。
そして、少し黙る。
お互いの顔、じっと見つめて。
「涼、キス、したい」
暗闇の中、月明かりに照らされている涼の白い頬に手を添える。
「ん」
小さく頷いて、目を閉じて。
繋いだ手の指を、絡めなおして。
ゆっくりと唇を重ねた。
0
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる