コレは誰の姫ですか?

月那

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 第一音楽室の重い扉を開け、いつものように涼を先に入れて自分が後に続く。
 楽器の音に溢れかえっている部屋に入ると、涼は恵那に「じゃ」と手を振ってホルンの先輩がたむろっている方へと向かった。
 恵那は恵那で徹たちが何やら難しい顔をして話をしているホワイトボート前に向かう。
「ちわっす。何かあったん?」
「あー、恵那か。いや、羽山がさ。文化祭、出ないつってんだよね」
 徹が言うと、オーボエの二年生羽山鳴海はやまなるみが頷いて。
「そりゃそーだろ。新島にいじまがいるじゃん。俺はコンクールの助っ人を頼まれただけで、ココの部員じゃないんだから、いつまでも居座ってられないだろ」
 苦笑しながら言った。

「ソロは俺がやるよ。でも、羽山だって舞台に乗ってたっていいじゃん。せっかくここまで一緒にやってきたんだから」
 同じくオーボエの二年生、新島宏臣にいじまひろおみが羽山の腕を掴む。小柄で華奢な羽山は掴まれた腕に手を乗せて綺麗に微笑む。
「だめだよ。俺の音、うるさいから。一年生の音が消える」

 現在オーボエ担当の三年はこの部にはいない。
 基本的には一本、曲によって必要なら二本、という体制でやってきているから、初心者である一年生を育てているという現状とは言え、さすがに三本になるのはいかがなものかということで。
 しかも、羽山はコンクールでも全国レベルの奏者である為、彼がいればはっきり言って他の奏者は不要となってしまう。

「ファゴットとか、イングリッシュホルンとかは?」
 恵那がふと思いついて口を出した。
「は?」
「楽器、なかったっけ? そもそも吹けるヤツが珍しいからあるかどうかもわかんねーけど、羽山先輩、その辺のダブルリード楽器、やれんじゃねーの?」
 唐突にとんでもないことを言い出すから、徹も羽山も「はあ?」と口を開けて。

「あれ? あ、違う? 俺はさ、リード楽器ほぼほぼどれも似たり寄ったりだからアルトもテナーも、なんならクラも吹けるっちゃー吹けるのね。で、だったら同じように、ダブルリードのオーボエじゃない楽器も、羽山先輩クラスならイけんじゃねーのかなーって」
「いや、俺オーボエ以外触ったこともないよ。先生はコールアングレもミュゼットも持ち替えで吹いてるし、篳篥ひちりきなんかにも興味示してたけど」
 羽山の師匠である畑野はプロのオーボエ奏者であり、時々この学校にもレッスンに来てくれたりする気さくな方だから、徹たちも何度か顔を合わせては、いる。

「楽器は、ファゴットならあるかもしれないけどさすがにリードは死んでるだろうし。第一、そんな簡単にやれるもんじゃないだろう」徹の否定的な言葉に、
「でも、面白いよね」羽山が目を輝かせた。
「え? 羽山、今からファゴットやる気?」
「試してみたいかも」
「まじか?」
「なんつって。うそうそ。てか、無理。文化祭まで何日あるってんだよ? 触ったこともない楽器始めて、そんな何週間とかで舞台に乗せれるわけがない」
 羽山が綺麗な顔でくすくす笑う。
 あー、この人もむちゃくちゃ可愛いんだよなーと思って恵那が見つめていると。

「ありがとね、恵那。そういう発想、なかったよ。なんか、視野が広がった」
「あ、良かった。一瞬怒られるかと思った。ふざけてんなよって」
「怒んないよー。みんなして、俺のこと考えてくれてんの、めっちゃ嬉しいし」
「じゃあ、羽山、普通にオーボエで出ようよ」
 新島が言うと、
「だから出ないって」即、却下する。

「じゃなくて。羽山先輩、一曲だけ俺と一緒に踊りませんか?」
 恵那がまたどえらい発言をするから、みんなが「はあ?!」と驚く。
「俺さ、こないだの体育祭で思ったんスけど。一曲踊るのどおかなって。さすがにあのステージだから全員で踊るわけにはいかないだろうけど、こないだのブラバン隊みたく、何人かで踊るの、面白くない?」
「……オーボエ演奏しながら、踊るの?」羽山が不安げに問う。そんなマーチング的なことは、やったことがない。

「んにゃ。も、楽器いらねーし。だから演奏は新島先輩と井垣いがきに任せて、羽山先輩は踊るだけ。いや、なんなら歌ってもいいけど」
「ええー」
「いいじゃん、それ。第二部ってJポップ縛りだし、ダンスメドレーやって恵那とか、まあ俺も参加してもいいし、何人か希望者募ってダンスしようぜ」
 ノって来たのは徹だった。

「ちょ、待ってよ。俺、ダンスなんかしたことないし」羽山が目の前で両手を振る。
「大丈夫。あんなん、ノリだから。新体操部んトコ行って、ちょっと俺らでもイけそうなの教えて貰おうぜ」
 最近できた男子新体操部はノリがいいと評判で、体育祭のブラスバンドの時もアドバイスを貰っていたから、恵那が嬉しそうに言うと。
「とりあえず。俺ら判断で決めらんねーからさ、ちょい幹部に話してみるわ。羽山も、だからちょっと考えといて」
 完全にダンス案を通す気で徹が言い切った。

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