コレは誰の姫ですか?

月那

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「てことで。劇は白雪姫で確定な」
 ロングホームルームで、委員長がそう言って黒ぶち眼鏡をきらりと輝かせた。

 文化祭の出し物についての話し合いということで、担任は基本ノータッチなので不在である。この場において、一番の権力者は学級委員長を務める黒ぶち眼鏡のバレー部員、西村である。
 何をやるか、で散々揉めてやっと“教室で劇をする”ということに決まり、今度は演目を何にするのかで散々揉めて。
 五十分間というこのホームルームの時間中にとっとと総てを決めてしまいたかった委員長としては、あーだこーだ揉めることで結構イラついていて。

 男ばっかだからこそ、面白いのはシンデレラじゃないのかという一派と、男しかいねーのにプリンセスモノは有り得ないだろうという一派が喧々諤々やっているのを「じゃあ、やりたい演目を投票で決める。民主主義に則って多数決だ」と一蹴して。

 結果、何故か白雪姫が過半数を超えるという不思議な結末を迎えたのだった。
 十中八九、“佐竹の白雪姫姿を見たい”という者がその票を支えているのだろうが。

「で、配役だが。ホームルームはあと五分で終わる。白雪姫は佐竹で決まりだろうが、他の役とその他の仕事に関しては俺と実行委員会に一任して貰いたいと思うが、どうだろう?」
 三十五人の意見をまとめるなんて、あと五分でできるとは思えない。西村がそう言うと、
「やだ! 僕、演技なんて絶対にできないから! 僕を白雪姫にするなら、もう登校拒否するから!」
 一早く手を上げた涼が、口を尖らせて抗議した。

 さすがに二学期に入ってからは、涼の“人見知り”も教室では影を潜め、恵那の影響もあってか、自分の意思表明もはっきりしている。
「佐竹……そりゃねーよ。おまえ以外に誰が白雪姫なんてできるってんだよ?」
 西村が完全に困り顔で言う。
 というより、佐竹以外の白雪姫なんて、誰が観たいと言うのだ。

「できないものは、できない。僕は衣装係しかしない!」
「へ? 衣装? なんで?」
「僕んち、貸衣装もやってるからね。なんなら、僕の力でどんな衣装だって無料で借りれるからね? 僕が衣装係するの、これ以上の適任なんていないと思うけど」
 仁王立ちでドヤった。
 この姿、かなり恵那の影響が強い。
 その後ろで当の恵那はくふくふ笑っているけれど。

「……そ、それは……かなりありがたい……けど」
 予算というものは、決まっている。当然だ。
 そしてこういった劇をやるにあたり、衣装にお金がかかるのなんてもう、当たり前のことで。
 その、恐らく一番の出費がわかっている衣装代が無料になるということは、単純に他に回せる予算が相当増えるということで。

「でも、佐竹以外の“白雪姫”なんて、あり得ないっつーか……」
 西村の呟きは、クラス全員の本音だろう。
 だからと言って今からまた別の演目を投票からやり直すなんて……時間がない。

「佐竹……」
「絶対、ヤだからね」
 涼が頑固であることは、涼が可愛いという事実と共に既にクラス全員が知っている。
 こうなったら恐らく、テコでも動かない。
 そして無理なことをすれば、体育祭で騎馬戦の後に土下座していた委員長――と恵那――の二の舞になることは明白であり。

「……いいよ。俺がやってやるよ」
 西村と目が合った瞬間、恵那が言った。
 これ以上涼を説得するのも、ロングホームルームが延長してしまうのも、恵那としてはめんどくさい。
 劇なら既に中学時代の文化祭で三年間役者として舞台に載っているし、なんたって目立つのが大好きな性格である。
「俺なら、まあちょっとゴツいけど姫役も悪くないだろ。こうなったら誰が王子様でも俺は構わん。俺に任せろ」
 人に“姫”扱いされるのはムカつくけれど、開き直って姫役をするなら問題はない。いやむしろ“主役”を張れるというなら、逆に喜んでやってやろう。
 何ならどっちかといえばイケメン部類に属しているという自覚がある恵那である。
 恐らくこのクラスで、涼以外で女装しても見苦しくないのは自分だけだろう。

「えな……」
「そん代わり、涼と比較すんなよ。さすがに俺、ココまで可愛くなれる自信はないからな」
 僕の為に、なんてちょっとうるうるしている涼の頭をポンポンしながら、くふくふ笑ってみせた。
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