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「はあ? 一緒のベッドがイヤだとお?」
体育祭というデカいイベントも終わり、久々にいつメン四人で散々遊び倒し、とりあえず瑞浪家に泊まることになったその日。
恵那と響のゲーム観戦の途中でソファを枕にうたた寝を始めた涼だったから、もう朝シャワー浴びればいいからとっとと寝ろと部屋まで連れて行ったのだが、いざベッドに寝かせようとした瞬間、
「僕、えなと一緒に寝るの、ヤダ」なんて寝ぼけ眼で言い出して。
「なんだよ、急に。俺は風呂入ってくるぞ? 別にクサかねーと思うけど」
「そーゆー意味じゃ、ないし」
ぽやん、とした目だけれど少し伏し目がちに不貞腐れているようで。
「……もお、メンドくせーなあ。わかったよ、俺は床に寝るから。おまえ、とにかくそこでもう寝ろ」
なんだかんだ、涼が意外と頑固であることも最近ではわかってきている恵那である。
半分寝ぼけているかもしれないが、この不貞腐れた顔で「ヤダ」って言っている以上、恐らくベッドに入れてはくれないだろう。
「え?」
「俺寝相悪いし、時々落ちて寝てることもあるし、ラグ敷いてるからどってことねーし」
「あ……や……でも……」
「なんだよ? 何? 一緒の部屋もヤなのか? ソファで寝ろっつの?」
「違うもん……そんなんじゃ……」
本気で寝ぼけてるのか、と恵那が涼の目を覗き込むと。
「え、待って、どした? 何で泣いてんの?」
すん、すんと鼻を啜りながら閉じた目から涙を零している涼を見て、恵那としてはもうどうしていいかわからなくなって。
「ちょい、まじ、どおした? え、俺そんな、おまえに嫌われるようなこと、した?」
心当たりなんて全くないから、戸惑ってしまう。
……いや。ないわけではない。体育祭ではかなりイロイロやっちまったから。でもあれは謝り倒して赦して貰っていたハズで。
なんたって三大学校行事と言われるお祭りイベントだし、楽しむのは当然で。
おまけに最後ちょっとしたMVPとして涼も三年の代表から学食チケットを貰って喜んでいたハズ。
実際ここのところ、涼の様子がおかしいというのは恵那にも気になっていたのではあるが。とにかく涼にそこまで嫌われるようなことをした覚えが全くなかっただけに、どう考えてもその涙の理由がわからない。
何でも思ったことを口に出してしまう自分が、無神経に、このピュアピュアで繊細なコをいつの間にか傷付けていたのかと思うと、心苦しい。
「涼? ごめんな? 俺、あんま、深いこと考えない発言ばっかしてっし。なんか、涼に嫌われるようなことゆってたんなら、マジ謝るよ」
友達とか、一緒につるんでバカやる仲間なんて、確かに涼以外にいくらでもいる恵那だけれど。
守ってやりたいとか、傍にいてやりたいと思うのは涼だけで。
自分が今まで接したことのないタイプのこの涼という存在が、友達としてもかなり上位の……って言えばちょっと語弊があるかもしれないが、とにかく大事なものになっているのは絶対だから。
こんな、わけのわからないことで嫌われるのは、かなり辛いわけで。
「てか、まあその……おまえが俺んことイヤんなってること自体、気付けなかった俺も悪いんだけどさ。でも、ごめん、まじでわかんねーから。何が嫌だったのか、せめてそれだけでも教えてくれ」
そう。こっちがどれだけこの可愛い友人を気に入って、懐に置いておきたいと思っていても、肝心な本人が嫌だというのなら。それは、どうもしようがないことで。
一緒にいるのが嫌だというなら、せめて、そのきっかけでもなんでも、教えて欲しいと思う。それは自分で意識的に治せることなのであれば、できれば改善したいし。
改善することで涼が傍にいてくれるならば、できるだけのことは、したい。
「涼?」
泣きながら、涼は首を横に振った。
「ち……ちが……」
かなり、本格的に泣いているようで、声を発しようとすると嗚咽で咳き込むから。
「ごめん、ごめん。無理に喋らそうとした俺が悪かった。ちょっと、落ち着こうか」
こーゆートコ、だよなーと反省する。
涼が思っていることを言葉にするのに時間がかかるってことは、今までの付き合いでわかっていることなのに。どうしても自分を優先してしまって、無理に答えを求めてしまって。
せっかちな性格のせいで、おっとりしている涼のこともいろいろと急かしてしまう。
むせて苦しそうにしている小さな背中を、そっと撫でながらため息を吐いた。
「はあ? 一緒のベッドがイヤだとお?」
体育祭というデカいイベントも終わり、久々にいつメン四人で散々遊び倒し、とりあえず瑞浪家に泊まることになったその日。
恵那と響のゲーム観戦の途中でソファを枕にうたた寝を始めた涼だったから、もう朝シャワー浴びればいいからとっとと寝ろと部屋まで連れて行ったのだが、いざベッドに寝かせようとした瞬間、
「僕、えなと一緒に寝るの、ヤダ」なんて寝ぼけ眼で言い出して。
「なんだよ、急に。俺は風呂入ってくるぞ? 別にクサかねーと思うけど」
「そーゆー意味じゃ、ないし」
ぽやん、とした目だけれど少し伏し目がちに不貞腐れているようで。
「……もお、メンドくせーなあ。わかったよ、俺は床に寝るから。おまえ、とにかくそこでもう寝ろ」
なんだかんだ、涼が意外と頑固であることも最近ではわかってきている恵那である。
半分寝ぼけているかもしれないが、この不貞腐れた顔で「ヤダ」って言っている以上、恐らくベッドに入れてはくれないだろう。
「え?」
「俺寝相悪いし、時々落ちて寝てることもあるし、ラグ敷いてるからどってことねーし」
「あ……や……でも……」
「なんだよ? 何? 一緒の部屋もヤなのか? ソファで寝ろっつの?」
「違うもん……そんなんじゃ……」
本気で寝ぼけてるのか、と恵那が涼の目を覗き込むと。
「え、待って、どした? 何で泣いてんの?」
すん、すんと鼻を啜りながら閉じた目から涙を零している涼を見て、恵那としてはもうどうしていいかわからなくなって。
「ちょい、まじ、どおした? え、俺そんな、おまえに嫌われるようなこと、した?」
心当たりなんて全くないから、戸惑ってしまう。
……いや。ないわけではない。体育祭ではかなりイロイロやっちまったから。でもあれは謝り倒して赦して貰っていたハズで。
なんたって三大学校行事と言われるお祭りイベントだし、楽しむのは当然で。
おまけに最後ちょっとしたMVPとして涼も三年の代表から学食チケットを貰って喜んでいたハズ。
実際ここのところ、涼の様子がおかしいというのは恵那にも気になっていたのではあるが。とにかく涼にそこまで嫌われるようなことをした覚えが全くなかっただけに、どう考えてもその涙の理由がわからない。
何でも思ったことを口に出してしまう自分が、無神経に、このピュアピュアで繊細なコをいつの間にか傷付けていたのかと思うと、心苦しい。
「涼? ごめんな? 俺、あんま、深いこと考えない発言ばっかしてっし。なんか、涼に嫌われるようなことゆってたんなら、マジ謝るよ」
友達とか、一緒につるんでバカやる仲間なんて、確かに涼以外にいくらでもいる恵那だけれど。
守ってやりたいとか、傍にいてやりたいと思うのは涼だけで。
自分が今まで接したことのないタイプのこの涼という存在が、友達としてもかなり上位の……って言えばちょっと語弊があるかもしれないが、とにかく大事なものになっているのは絶対だから。
こんな、わけのわからないことで嫌われるのは、かなり辛いわけで。
「てか、まあその……おまえが俺んことイヤんなってること自体、気付けなかった俺も悪いんだけどさ。でも、ごめん、まじでわかんねーから。何が嫌だったのか、せめてそれだけでも教えてくれ」
そう。こっちがどれだけこの可愛い友人を気に入って、懐に置いておきたいと思っていても、肝心な本人が嫌だというのなら。それは、どうもしようがないことで。
一緒にいるのが嫌だというなら、せめて、そのきっかけでもなんでも、教えて欲しいと思う。それは自分で意識的に治せることなのであれば、できれば改善したいし。
改善することで涼が傍にいてくれるならば、できるだけのことは、したい。
「涼?」
泣きながら、涼は首を横に振った。
「ち……ちが……」
かなり、本格的に泣いているようで、声を発しようとすると嗚咽で咳き込むから。
「ごめん、ごめん。無理に喋らそうとした俺が悪かった。ちょっと、落ち着こうか」
こーゆートコ、だよなーと反省する。
涼が思っていることを言葉にするのに時間がかかるってことは、今までの付き合いでわかっていることなのに。どうしても自分を優先してしまって、無理に答えを求めてしまって。
せっかちな性格のせいで、おっとりしている涼のこともいろいろと急かしてしまう。
むせて苦しそうにしている小さな背中を、そっと撫でながらため息を吐いた。
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