46 / 231
<1>
☆☆☆
しおりを挟む
☆☆☆
涼は完全に固まっていた。
日焼け防止の為の帽子の下にタオルを被り、その上から黄色いハチマキをして。
まるっきり場違いな自分が、グランドという名の戦場で騎手になっていることに、まだ半分理解が追い付いていない。
が、そんな涼を支えている三人の馬たちは、気合十分である。
その戦場を見渡せる場所では、ブラス隊がファンファーレを演奏していた。
当然ながら、その中にはニヤついている恵那の姿もある。
時代に則ったルールということで、平和に、騎手同士がハチマキを奪い合い、それが残っている騎馬の数で勝敗を決めるという、騎馬戦。なので、特に大将がいるわけでもなければ、無理矢理馬上から引きずり降ろせ、なんてことも、今ではもうない。
が。
そこは男子校の騎馬戦である。
血気盛んなヤツらで組まれた騎馬に関しては、このファンファーレの時間に既に睨み合いが始まっているし、馬たちも鼻息荒く気合を入れているわけで。
そんな中。
どうして僕が? と涼が茫然と馬上で戸惑っているわけで。
委員長と恵那が、涼を乗せる馬たちに気合を入れていたのは数分前。
「おまえら、わかってんだろうな? おまえらが乗せるのは騎手じゃあない。姫だ。わかるか? うちの大事な大事なお姫様だ。とにかく、護れ。死守しろ。死ぬ気で護れ。いや、死んでも護れ。おまえらの骨は俺たちが拾ってやる」
騙し討ちのように恵那と委員長が結託して涼を騎馬戦にエントリーしたのには理由がある。
各クラス、騎馬は三頭というルール。五分間という決められた時間内に騎手のハチマキを奪い合い、ハチマキを取られた馬は死。そして生き残っている騎馬の数が多いチームが勝つというこの騎馬戦。
基本的に一年なんて捨てゴマであるのは必至。てことは、一年の中で一頭だけでも残っていれば俄然優位であることは確かであり。
一年C組としては、とにかく一頭だけ死守して生き残るという作戦を立て、この絶対死守する馬に涼を乗せることにしたのである。
涼を乗せる馬には、涼にほのかな恋心を抱いている猛者を選んだ。涼の為なら死ねるという者を選び、文字通り涼の為に命を張って涼を護らせるという手段に出たのだ。
残る二頭にはこの姫を乗せた馬を護る為に戦ってもらう。
実際、この涼に手出しできる人間がいるハズもないだろうから、姫を護ることはそう難しい課題ではないと踏んだわけである。
そして、前もって涼にそのことを告げれば確実に逃げられるだろうから、当然エントリーしていることは完全に秘密である。
結果、競技直前に「涼、ちょっと来て」と恵那が何の気なしに誘い、組んだ馬の上に抱っこして乗せると、「頑張れ」とだけ告げて戦場へと送り出した。
ということで、荒野の中ただ馬上で茫然としている涼がいるのである。
ファンファーレが終わり、実行委員のピストルで戦いが開始された。
涼の馬はただひたすらに、逃げることに専念している。まあ、涼は軽いからガタイのいい男三人で抱えてしまえば殆ど負荷なんてない。加えて、姫である涼に対して闘争心を向けて来る勇気のあるバカなんて基本的にいない。
ということで、委員長の行った「ちょっとハードな乗馬体験」というのもあながち間違っていないわけで。
戦場のあちこちで繰り広げられる小競り合いを尻目に、ただひたすらに走り回って逃げまくるすばしっこい馬に乗せられて、涼は内心“えなのばか、えなのばか、えなのばか”と呟いていた。
競技後、怒り狂った涼に恵那と委員長が土下座する姿を見た者は皆、“ご愁傷様”と内心鼻で笑って呟いていたという。
涼は完全に固まっていた。
日焼け防止の為の帽子の下にタオルを被り、その上から黄色いハチマキをして。
まるっきり場違いな自分が、グランドという名の戦場で騎手になっていることに、まだ半分理解が追い付いていない。
が、そんな涼を支えている三人の馬たちは、気合十分である。
その戦場を見渡せる場所では、ブラス隊がファンファーレを演奏していた。
当然ながら、その中にはニヤついている恵那の姿もある。
時代に則ったルールということで、平和に、騎手同士がハチマキを奪い合い、それが残っている騎馬の数で勝敗を決めるという、騎馬戦。なので、特に大将がいるわけでもなければ、無理矢理馬上から引きずり降ろせ、なんてことも、今ではもうない。
が。
そこは男子校の騎馬戦である。
血気盛んなヤツらで組まれた騎馬に関しては、このファンファーレの時間に既に睨み合いが始まっているし、馬たちも鼻息荒く気合を入れているわけで。
そんな中。
どうして僕が? と涼が茫然と馬上で戸惑っているわけで。
委員長と恵那が、涼を乗せる馬たちに気合を入れていたのは数分前。
「おまえら、わかってんだろうな? おまえらが乗せるのは騎手じゃあない。姫だ。わかるか? うちの大事な大事なお姫様だ。とにかく、護れ。死守しろ。死ぬ気で護れ。いや、死んでも護れ。おまえらの骨は俺たちが拾ってやる」
騙し討ちのように恵那と委員長が結託して涼を騎馬戦にエントリーしたのには理由がある。
各クラス、騎馬は三頭というルール。五分間という決められた時間内に騎手のハチマキを奪い合い、ハチマキを取られた馬は死。そして生き残っている騎馬の数が多いチームが勝つというこの騎馬戦。
基本的に一年なんて捨てゴマであるのは必至。てことは、一年の中で一頭だけでも残っていれば俄然優位であることは確かであり。
一年C組としては、とにかく一頭だけ死守して生き残るという作戦を立て、この絶対死守する馬に涼を乗せることにしたのである。
涼を乗せる馬には、涼にほのかな恋心を抱いている猛者を選んだ。涼の為なら死ねるという者を選び、文字通り涼の為に命を張って涼を護らせるという手段に出たのだ。
残る二頭にはこの姫を乗せた馬を護る為に戦ってもらう。
実際、この涼に手出しできる人間がいるハズもないだろうから、姫を護ることはそう難しい課題ではないと踏んだわけである。
そして、前もって涼にそのことを告げれば確実に逃げられるだろうから、当然エントリーしていることは完全に秘密である。
結果、競技直前に「涼、ちょっと来て」と恵那が何の気なしに誘い、組んだ馬の上に抱っこして乗せると、「頑張れ」とだけ告げて戦場へと送り出した。
ということで、荒野の中ただ馬上で茫然としている涼がいるのである。
ファンファーレが終わり、実行委員のピストルで戦いが開始された。
涼の馬はただひたすらに、逃げることに専念している。まあ、涼は軽いからガタイのいい男三人で抱えてしまえば殆ど負荷なんてない。加えて、姫である涼に対して闘争心を向けて来る勇気のあるバカなんて基本的にいない。
ということで、委員長の行った「ちょっとハードな乗馬体験」というのもあながち間違っていないわけで。
戦場のあちこちで繰り広げられる小競り合いを尻目に、ただひたすらに走り回って逃げまくるすばしっこい馬に乗せられて、涼は内心“えなのばか、えなのばか、えなのばか”と呟いていた。
競技後、怒り狂った涼に恵那と委員長が土下座する姿を見た者は皆、“ご愁傷様”と内心鼻で笑って呟いていたという。
0
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる