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「わ、まじか」
「おまえ、ペアが佐竹なんて最高じゃねーか」奏がニヤつく。
その目が“佐竹ファンに見せつけてんなよ”と言っているから。
「ふ。いいだろ。コレ、俺んだから」
恵那がドヤった瞬間、周囲にいた数人の男たちが殺気立つ。
「僕、えなのじゃないし!」涼が睨むから、舌を出してふふーんと目を逸らす。
「佐竹、ついでに恵那の足踏ん付けてやれ」という辰巳の声には、
「涼はイイコだからそんなことしませんって」と返して。
「これは負けらんねーな。恵那だけはぶっ潰そうぜ」
「言われなくても。奏、全力で走るぞ」
「もち」
そんな二人を恵那も睨みつけて。
涼はこの時点で嫌な予感はしていた。
この競技にエントリーした時の「ゆっくり、引っ張らない、コケても怒らない」という約束が今の恵那の中にあるとは思えなくて。
そして得てしてそれは現実のものとなるわけで。
最初の五歩くらいは涼に併せてくれた恵那だったが、辰巳たちが横をすり抜けていった瞬間スイッチが入ったらしく、腰からぐっと涼を抱え上げると、ほぼ小脇に抱える形でそのまま全力疾走したのだ。
「え、えなあー!」
「掴まってろよ、涼。このままゴールまで突っ走るぞ」
完全に、涼はただの荷物である。
足がくっついているだけで、軽い涼を横に抱えた恵那が何の負荷もない勢いで走り抜け、当然のように一位でゴールした。
「参ったか! 俺の勝ちだ!」
辰巳達に、涼を抱えたままガッツポーズしているから。
「えなのばか!」と顔を両手で隠しながら涼が怒り狂う。
「やだもう、だからヤだったんだ! ちょーぜつ恥ずかしいじゃん、こんなの! 何コレ、もう、最悪!」
とっとと降ろせよ、と暴れながら言って。
「えなのばかばかばか!」
慌てて足を結んでいたゴムバンドを外すと、涼は逃げ出した。
「あーあー、泣ーかしたー。恵那ってば最悪ー。佐竹、カーワイソー」
奏が腹を抱えて笑っていて、その横で辰巳が棒読みで歌ってくれる。
「ええー。なんでー? 一位でゴールしたじゃん。何で泣くかなあ?」
「ほんっと、無神経っつーかなんつーか。普通、あんな幼児扱いされたらそりゃ、怒るんじゃねーの?」
辰巳に言われ、やっと自分のしたことに気付き。
「やべ。あれ、まじ怒ったかなあ?」
「知らね。まあ、佐竹も怒ってるだろうけど、佐竹のファンはもっと怒り狂ってると思うぞ?」
奏に言われ、周囲を見ると。
嫉妬に狂った男の冷たい視線があった。
……うん、確かに。俺が悪かったです。
と一応その辺りの連中には心の中で謝って。
後で涼見つけて、ちゃんと謝らないとなーと反省。
けれど、はっきり言って今日の恵那は、そんな悠長なことをしていられる立場ではない。
次から次へとエントリーしている競技で走りまくり、その合間を縫うように応援ブラスバンドで演奏して。
デカいバリトンを抱えて屋外で演奏なんてしていられないから、久しぶりにアルトサックスを借りていて。
身軽になったことで、踊りを交えて演奏しているから、体力の消耗はかなり激しい。
それでもブラス隊の演奏は評判が良くて、当然場を盛り上げるし奏たちパーカッションも派手目な演出で目を引くし。
その結果元々演奏する予定ではなかった競技中も演奏することになったので、恵那が涼と接触することは昼休憩までなかった。
「おまえ、ペアが佐竹なんて最高じゃねーか」奏がニヤつく。
その目が“佐竹ファンに見せつけてんなよ”と言っているから。
「ふ。いいだろ。コレ、俺んだから」
恵那がドヤった瞬間、周囲にいた数人の男たちが殺気立つ。
「僕、えなのじゃないし!」涼が睨むから、舌を出してふふーんと目を逸らす。
「佐竹、ついでに恵那の足踏ん付けてやれ」という辰巳の声には、
「涼はイイコだからそんなことしませんって」と返して。
「これは負けらんねーな。恵那だけはぶっ潰そうぜ」
「言われなくても。奏、全力で走るぞ」
「もち」
そんな二人を恵那も睨みつけて。
涼はこの時点で嫌な予感はしていた。
この競技にエントリーした時の「ゆっくり、引っ張らない、コケても怒らない」という約束が今の恵那の中にあるとは思えなくて。
そして得てしてそれは現実のものとなるわけで。
最初の五歩くらいは涼に併せてくれた恵那だったが、辰巳たちが横をすり抜けていった瞬間スイッチが入ったらしく、腰からぐっと涼を抱え上げると、ほぼ小脇に抱える形でそのまま全力疾走したのだ。
「え、えなあー!」
「掴まってろよ、涼。このままゴールまで突っ走るぞ」
完全に、涼はただの荷物である。
足がくっついているだけで、軽い涼を横に抱えた恵那が何の負荷もない勢いで走り抜け、当然のように一位でゴールした。
「参ったか! 俺の勝ちだ!」
辰巳達に、涼を抱えたままガッツポーズしているから。
「えなのばか!」と顔を両手で隠しながら涼が怒り狂う。
「やだもう、だからヤだったんだ! ちょーぜつ恥ずかしいじゃん、こんなの! 何コレ、もう、最悪!」
とっとと降ろせよ、と暴れながら言って。
「えなのばかばかばか!」
慌てて足を結んでいたゴムバンドを外すと、涼は逃げ出した。
「あーあー、泣ーかしたー。恵那ってば最悪ー。佐竹、カーワイソー」
奏が腹を抱えて笑っていて、その横で辰巳が棒読みで歌ってくれる。
「ええー。なんでー? 一位でゴールしたじゃん。何で泣くかなあ?」
「ほんっと、無神経っつーかなんつーか。普通、あんな幼児扱いされたらそりゃ、怒るんじゃねーの?」
辰巳に言われ、やっと自分のしたことに気付き。
「やべ。あれ、まじ怒ったかなあ?」
「知らね。まあ、佐竹も怒ってるだろうけど、佐竹のファンはもっと怒り狂ってると思うぞ?」
奏に言われ、周囲を見ると。
嫉妬に狂った男の冷たい視線があった。
……うん、確かに。俺が悪かったです。
と一応その辺りの連中には心の中で謝って。
後で涼見つけて、ちゃんと謝らないとなーと反省。
けれど、はっきり言って今日の恵那は、そんな悠長なことをしていられる立場ではない。
次から次へとエントリーしている競技で走りまくり、その合間を縫うように応援ブラスバンドで演奏して。
デカいバリトンを抱えて屋外で演奏なんてしていられないから、久しぶりにアルトサックスを借りていて。
身軽になったことで、踊りを交えて演奏しているから、体力の消耗はかなり激しい。
それでもブラス隊の演奏は評判が良くて、当然場を盛り上げるし奏たちパーカッションも派手目な演出で目を引くし。
その結果元々演奏する予定ではなかった競技中も演奏することになったので、恵那が涼と接触することは昼休憩までなかった。
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