コレは誰の姫ですか?

月那

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「なんかね。久々に挑んだらあっさり躱されたから“俺はこれからあいつの倍食ってあいつの倍筋トレしてあいつよりデカくなる”って変に意気込んでたよ?」
 くすくす笑いながら恵那の口真似をする涼を見て、土岐が黙り込んでしまう。

「ん? どした? 土岐、まじで恵那がデカなる思ってビビっとんのか? アリ得へんで、そりゃ。もーあいつはどんだけ食ってもほっそいまんまやわ」
 ムリムリ、と響が鼻で笑う。
「だよねー。僕も思う。まあでも筋トレとか体幹鍛えるのって楽器演奏するのにもいいから、僕も見習わなきゃなーとは思うけど、食べるのはどうかと思うんだよねー。ただでさええな、見た目からは考えらんないくらい食べるのに。あれ以上食べたら横に伸びて太っちゃうよね」
「デブった恵那も想像できひんけどな」
 二人してけらけら笑っていると。

「涼。よかった、ココにいたか。委員長が探してたぞ。教室にいるから、戻ろう」
 背後から突然恵那が声をかけてきて。

「あ……」
 肩を抱かれて涼が固まった。

「今日は練習、もう終わったんか?」
「一応ねー。部活ん時にちょっとだけ合わせるつもりだけど。なんか実行委員会でエントリーの調整が上手く行ってないらしくてさ。人集めしてるらしくて、それの手伝い頼まれたんだよ」
「吹部は走れる文化部やもんなあ。そりゃ、足りんトコには駆り出されるよな」
「俺、クラス代表でスウェーデンにも出るんだけどさ、あれの直前の綱引きで演奏するの決まってんだよなー。結構ハードだぜー」
 ムカデ競争に千メートルリレー、借り物競争に障害物リレー、という走る関係にかなりエントリーしている恵那である。
 楽器演奏するから騎馬戦や棒倒しなどの接触系は吹部にはご法度であるため、やたらと走らされる羽目になったのだ。

「おーい、涼。何ぼやっとしてんだよ。もう……悪い、響。涼の食器片してくれるか? 委員長にキれられる」
「ああ、かまへんかまへん。置いとき」
 固まったままの涼の腕を掴むと、そのまま引っ張って歩こうとして。
「放して。一人で、歩けるし」
 やっと我に返った涼が言って。

「ああ、ごめんごめん。じゃな、響、土岐」
 いつにも増してぼんやりしている涼を連れて教室へと向かった。

「どうした? 何かあった?」
 足早に教室に向かいながら涼に問うと。
「んーん。何もないよ。それよか、委員長の話ってもしかして、エントリー種目増やせってこと?」
 ふるふる、と首を振って。イヤそうな表情で問うから。
「そ。俺と二人で二人三脚、出て欲しいって」
「……やだ」
「やだじゃねーよ。涼、玉入れだけじゃん、エントリーしてんの。一個くらい増やしてもいいだろ」
 口を尖らせて、むーとムクれるから。

「殆ど俺が引っ張ってやっから」
「やだよそんなの、みっともない」
「んじゃ、ゆっくり走ってやる」
「えなのゆっくりは全然ゆっくりじゃないもん」
「もーめんどくせーなー。じゃあ他のヤツと出るか?」
「…………やだ」
 一瞬の間の後で、更にへの字口になる。

 くそ、こんな顔してんのも無駄に可愛いな、と思ったけど、さすがに口にはしない。
 ここでそれを言ったら余計に機嫌を損ねるのはわかっている。

「涼、ね? 委員長、困ってんだよ。俺がおまえに併せて走ってやるから、エントリーしてやろ?」
「……うー……」
「うーって。唸ってないで」
「ビリになっても、いい?」
「構わん、構わん」
「コケても怒んない?」
「怒んない、怒んない」
「……引っ張んない?」
「引っ張んないよ。ちゃんとおまえに併せる」
 ように努力する。けど、ひょっとしたら引っ張るかもしれない、ってことは黙っとく。

「……わかった。出る」
 渋々、涼が頷くと同時に教室に着いていて。
「っしゃ。いいんちょー! 涼、OKってー」
 数人が固まって「あーだこーだ」とエントリー表とにらめっこしているところへ、恵那がそう言うと。

「お、ナイス恵那。とりあえずそれは片が付いた。じゃあ残るは騎馬戦だな。佐竹、馬の上に乗ってちょっとだけハードな乗馬体験しよっか?」
 委員長がニヤリ、と嗤うから。

「ぜっっったい、ヤだ!!!」
 渾身の力で涼が否定した。
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