42 / 231
<1>
☆☆☆
しおりを挟む
「なんかね。久々に挑んだらあっさり躱されたから“俺はこれからあいつの倍食ってあいつの倍筋トレしてあいつよりデカくなる”って変に意気込んでたよ?」
くすくす笑いながら恵那の口真似をする涼を見て、土岐が黙り込んでしまう。
「ん? どした? 土岐、まじで恵那がデカなる思ってビビっとんのか? アリ得へんで、そりゃ。もーあいつはどんだけ食ってもほっそいまんまやわ」
ムリムリ、と響が鼻で笑う。
「だよねー。僕も思う。まあでも筋トレとか体幹鍛えるのって楽器演奏するのにもいいから、僕も見習わなきゃなーとは思うけど、食べるのはどうかと思うんだよねー。ただでさええな、見た目からは考えらんないくらい食べるのに。あれ以上食べたら横に伸びて太っちゃうよね」
「デブった恵那も想像できひんけどな」
二人してけらけら笑っていると。
「涼。よかった、ココにいたか。委員長が探してたぞ。教室にいるから、戻ろう」
背後から突然恵那が声をかけてきて。
「あ……」
肩を抱かれて涼が固まった。
「今日は練習、もう終わったんか?」
「一応ねー。部活ん時にちょっとだけ合わせるつもりだけど。なんか実行委員会でエントリーの調整が上手く行ってないらしくてさ。人集めしてるらしくて、それの手伝い頼まれたんだよ」
「吹部は走れる文化部やもんなあ。そりゃ、足りんトコには駆り出されるよな」
「俺、クラス代表でスウェーデンにも出るんだけどさ、あれの直前の綱引きで演奏するの決まってんだよなー。結構ハードだぜー」
ムカデ競争に千メートルリレー、借り物競争に障害物リレー、という走る関係にかなりエントリーしている恵那である。
楽器演奏するから騎馬戦や棒倒しなどの接触系は吹部にはご法度であるため、やたらと走らされる羽目になったのだ。
「おーい、涼。何ぼやっとしてんだよ。もう……悪い、響。涼の食器片してくれるか? 委員長にキれられる」
「ああ、かまへんかまへん。置いとき」
固まったままの涼の腕を掴むと、そのまま引っ張って歩こうとして。
「放して。一人で、歩けるし」
やっと我に返った涼が言って。
「ああ、ごめんごめん。じゃな、響、土岐」
いつにも増してぼんやりしている涼を連れて教室へと向かった。
「どうした? 何かあった?」
足早に教室に向かいながら涼に問うと。
「んーん。何もないよ。それよか、委員長の話ってもしかして、エントリー種目増やせってこと?」
ふるふる、と首を振って。イヤそうな表情で問うから。
「そ。俺と二人で二人三脚、出て欲しいって」
「……やだ」
「やだじゃねーよ。涼、玉入れだけじゃん、エントリーしてんの。一個くらい増やしてもいいだろ」
口を尖らせて、むーとムクれるから。
「殆ど俺が引っ張ってやっから」
「やだよそんなの、みっともない」
「んじゃ、ゆっくり走ってやる」
「えなのゆっくりは全然ゆっくりじゃないもん」
「もーめんどくせーなー。じゃあ他のヤツと出るか?」
「…………やだ」
一瞬の間の後で、更にへの字口になる。
くそ、こんな顔してんのも無駄に可愛いな、と思ったけど、さすがに口にはしない。
ここでそれを言ったら余計に機嫌を損ねるのはわかっている。
「涼、ね? 委員長、困ってんだよ。俺がおまえに併せて走ってやるから、エントリーしてやろ?」
「……うー……」
「うーって。唸ってないで」
「ビリになっても、いい?」
「構わん、構わん」
「コケても怒んない?」
「怒んない、怒んない」
「……引っ張んない?」
「引っ張んないよ。ちゃんとおまえに併せる」
ように努力する。けど、ひょっとしたら引っ張るかもしれない、ってことは黙っとく。
「……わかった。出る」
渋々、涼が頷くと同時に教室に着いていて。
「っしゃ。いいんちょー! 涼、OKってー」
数人が固まって「あーだこーだ」とエントリー表とにらめっこしているところへ、恵那がそう言うと。
「お、ナイス恵那。とりあえずそれは片が付いた。じゃあ残るは騎馬戦だな。佐竹、馬の上に乗ってちょっとだけハードな乗馬体験しよっか?」
委員長がニヤリ、と嗤うから。
「ぜっっったい、ヤだ!!!」
渾身の力で涼が否定した。
くすくす笑いながら恵那の口真似をする涼を見て、土岐が黙り込んでしまう。
「ん? どした? 土岐、まじで恵那がデカなる思ってビビっとんのか? アリ得へんで、そりゃ。もーあいつはどんだけ食ってもほっそいまんまやわ」
ムリムリ、と響が鼻で笑う。
「だよねー。僕も思う。まあでも筋トレとか体幹鍛えるのって楽器演奏するのにもいいから、僕も見習わなきゃなーとは思うけど、食べるのはどうかと思うんだよねー。ただでさええな、見た目からは考えらんないくらい食べるのに。あれ以上食べたら横に伸びて太っちゃうよね」
「デブった恵那も想像できひんけどな」
二人してけらけら笑っていると。
「涼。よかった、ココにいたか。委員長が探してたぞ。教室にいるから、戻ろう」
背後から突然恵那が声をかけてきて。
「あ……」
肩を抱かれて涼が固まった。
「今日は練習、もう終わったんか?」
「一応ねー。部活ん時にちょっとだけ合わせるつもりだけど。なんか実行委員会でエントリーの調整が上手く行ってないらしくてさ。人集めしてるらしくて、それの手伝い頼まれたんだよ」
「吹部は走れる文化部やもんなあ。そりゃ、足りんトコには駆り出されるよな」
「俺、クラス代表でスウェーデンにも出るんだけどさ、あれの直前の綱引きで演奏するの決まってんだよなー。結構ハードだぜー」
ムカデ競争に千メートルリレー、借り物競争に障害物リレー、という走る関係にかなりエントリーしている恵那である。
楽器演奏するから騎馬戦や棒倒しなどの接触系は吹部にはご法度であるため、やたらと走らされる羽目になったのだ。
「おーい、涼。何ぼやっとしてんだよ。もう……悪い、響。涼の食器片してくれるか? 委員長にキれられる」
「ああ、かまへんかまへん。置いとき」
固まったままの涼の腕を掴むと、そのまま引っ張って歩こうとして。
「放して。一人で、歩けるし」
やっと我に返った涼が言って。
「ああ、ごめんごめん。じゃな、響、土岐」
いつにも増してぼんやりしている涼を連れて教室へと向かった。
「どうした? 何かあった?」
足早に教室に向かいながら涼に問うと。
「んーん。何もないよ。それよか、委員長の話ってもしかして、エントリー種目増やせってこと?」
ふるふる、と首を振って。イヤそうな表情で問うから。
「そ。俺と二人で二人三脚、出て欲しいって」
「……やだ」
「やだじゃねーよ。涼、玉入れだけじゃん、エントリーしてんの。一個くらい増やしてもいいだろ」
口を尖らせて、むーとムクれるから。
「殆ど俺が引っ張ってやっから」
「やだよそんなの、みっともない」
「んじゃ、ゆっくり走ってやる」
「えなのゆっくりは全然ゆっくりじゃないもん」
「もーめんどくせーなー。じゃあ他のヤツと出るか?」
「…………やだ」
一瞬の間の後で、更にへの字口になる。
くそ、こんな顔してんのも無駄に可愛いな、と思ったけど、さすがに口にはしない。
ここでそれを言ったら余計に機嫌を損ねるのはわかっている。
「涼、ね? 委員長、困ってんだよ。俺がおまえに併せて走ってやるから、エントリーしてやろ?」
「……うー……」
「うーって。唸ってないで」
「ビリになっても、いい?」
「構わん、構わん」
「コケても怒んない?」
「怒んない、怒んない」
「……引っ張んない?」
「引っ張んないよ。ちゃんとおまえに併せる」
ように努力する。けど、ひょっとしたら引っ張るかもしれない、ってことは黙っとく。
「……わかった。出る」
渋々、涼が頷くと同時に教室に着いていて。
「っしゃ。いいんちょー! 涼、OKってー」
数人が固まって「あーだこーだ」とエントリー表とにらめっこしているところへ、恵那がそう言うと。
「お、ナイス恵那。とりあえずそれは片が付いた。じゃあ残るは騎馬戦だな。佐竹、馬の上に乗ってちょっとだけハードな乗馬体験しよっか?」
委員長がニヤリ、と嗤うから。
「ぜっっったい、ヤだ!!!」
渾身の力で涼が否定した。
0
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる