コレは誰の姫ですか?

月那

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「恵那! おまえ、それ卑怯やで! うわっ……くそ、死ね!」
 響が口汚く罵っているのは、双子の家のリビングである。
「ふ、俺がおまえなんぞに負けるわけがねーだろ。死ぬのはおまえだ!」
 画面の中、それぞれが操るムキムキマッチョなオトコ達がバトっている様子を、涼と土岐がソファで眺めているわけで。

「わ、ちょ、待て待て待て! あ……だあもう!」
 最後の一撃が決まり、コントローラーを投げ捨てた響が頭を抱えて悔し気にへたりこんだ。
「だから言ったろ。負けるわけがねーって」
 ドヤ顔で次のファイトへと操作しながら恵那がくふくふ嗤う。

 最近部活終わりに四人が集まるのが習慣になってきていて、本日も既に瑞浪家の食卓には高校生男子の大好物であるところの鶏の唐揚げがキロ単位で堆く積まれている。
「キリがイイトコで食べちゃいなさいよー」
 と、双子の母が言うと、
「はーい」なんて四人揃って可愛い返事が上がる。

「待って、もっかい! もっかいやらせて! 俺、こいつ倒さん限り死んでも死に切れん」
 響が未練たらしく言うから、「しょーがねえ。もっかい殺してやろう」と恵那が殺伐としたセリフを意気揚々と放ち。

「涼。先、食おうぜ。あいつら待ってたら、肉が冷める」
 土岐が促して、再びバトルを始めた二人を放って、リビングと繋がるダイニングテーブルへ向かった。
 対戦している様子を見ながら、先に食事を始めることにする。

 土岐もこの格闘技ゲームが嫌いなわけではないが、恵那のハマりっぷりが激し過ぎてイマイチついていけない。だから響がいない時は大抵恵那が一人でやっている。

「うっわ。超美味しいんだけど、この唐揚げ」
 いいのかなーなんて思いながらも、恵那の母が「先食べてていいよ」と御飯まで出してくれたから遠慮なく口へと運び、目を丸くして舌鼓。
「だろ? ウチに誰か来る、つったらいつもコレ出してるけど、外したことないからね」
 土岐がドヤると、母も嬉しそうに笑って。

「こんな男ばっかの家だからさ、肉出しときゃ基本文句ないんだろうけど、コレは人気だからウチじゃあしょっちゅう作ってんのよ。涼くんにも食べさせないとね」
 何度か食事を出してもらい、最近では当たり前のようにここで夕食を済ませるようになってしまっていた涼としては、なんだか申し訳なくて。

「いいのよ。二人が仲良くしてるのは、響くんや涼くんのおかげなんだから」
 唐揚げの山を更に高くしながら母が言う。

「もおねー、小学校ん時なんて喧嘩、凄かったんだから、この二人」
 山を崩さないように気を付けながら、土岐と二人で唐揚げを頬張る。母が双子の過去を面白そうに語るのを、土岐はもう聞き飽きたとばかりに素知らぬ顔をしているし、涼は興味津々で耳を傾けた。

「双子だけあって、顔、そっくりでしょ? 今でこそ体格が全然違うけど。小さい頃は二人とも同じような背格好だったから結構見分けつかないって言われてたのよ。でもあたしから見たらさ、基本的に顔に傷があるのが土岐なの」
「え? それってどういう意味ですか?」
「いっつも恵那が土岐に殴りかかって、土岐はボコボコにやられて泣いてんの。だから傷があるのが土岐で、つるつるなのが恵那」
 どういう見分け方だよ、とツッコミたい。がツッコミどころはそれだけじゃなくて。
「えな、殴るの?」
 涼が唖然とした表情で恵那を見る。

 いや、実際今響――のキャラ――をフルボッコしてるわけだけれど。
 涼の知るリアルの恵那は虫も殺せないような柔和な表情で、いつでも誰にも優しいから。
「もお殴るわ蹴るわ。壁を壊すわ。どうしてくれよう、このクソガキってヤツ」
 恵那の部屋には殴ってできた穴が今も残っており、毎年カレンダーでそれを隠しているという。

「信じらんない……」涼が呟くと。
「でしょ? 喧嘩っ早いから土岐だけじゃなくてお友達にも殴りかかってたし。そのくせ、ピアノを弾かせたらめっちゃ繊細な音で聴かせるからもう、ほんとにわけわかんないコでねえ」
 でも。そんな話をしながらも母は笑っていて。
「さすがにあたしに手を上げたら百倍にして返してたけど、それはしなかったし。兄弟喧嘩なんていいぞやれやれって思ってたしね。お友達に怪我させた時だけはブチ切れたけど、基本的にあたしは放任主義だから」
「ええー……」
「土岐がやり返さないコだったから、あたしとしてはそれも心配だったわ」
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