コレは誰の姫ですか?

月那

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 恵那が楽しそうに涼を引っ張ると。
「待たんか、こら。んなことやってる暇はねーんだよ。下らないことやってねーで、響も練習再開するぞ」
 響の頭をはたいた土岐が仁王立ちになっていて。
 先輩たちがいない現状、どうやら土岐が統括役を担っているらしい。
「恵那、バカを煽るんじゃないよ。涼困らせてないで、そこで黙って観てな」
 ふざけていた兄を土岐がばっさり切り捨てた。

 舌を出して「つまんねーの」とギャラリーの手すりに寄りかかる。
 口ではそんなことを言っているけれど、土岐たちを眺めている目はただただ楽しそうで。
「どうする、涼。まだ観てる? それともそろそろ戻る?」
「試合じゃないなら観ててもイマイチ、わかんないし。お茶しに行こっか」
「だな」
 バスケだけでなく、スポーツ全般あまり得意ではない涼だから、土岐達が頑張っているのはわかるけれど、それだけで。体育会系のガチ練習なんて理解不能である。

 ギャラリーを降りて、体育館の入口で靴に履き替える。
 練習を再開していた部員は皆、当たり前に二人なんて気にしないでパス練習やシュート練習を始めていた。
 市内どころか県内でも強豪とされるバスケ部だけに、一年生とは言え初心者なんて誰もいないから。
 既にインターハイ地区予選も始まっているから、一年だって機会があれば試合に出たいと思っているし、練習にも余念はない。
 恵那たちに対してはふざけていた響だって、練習が始まれば真剣にそれに取り組んでいるので、入口にいた二人には目もくれない。

 と、その瞬間、
「危ない!」
誰かのパスミスでボールが飛んできた。
 バスケットボールなんて結構な硬さがあるし、それなりにスピードもある重いボールだけに、何気なくぶつかればそこそこのダメージがあるのは当然で。

「おっと」
 涼の頭部を直撃しそうになったそれに気付いた恵那が、咄嗟に涼を抱き寄せた。
 二人の反射神経には格段の差があるわけで。
 ただでさえいつだって薄ぼんやりしている涼だから、気付いた時には既に恵那の胸に包まれていた。

「っぶねーなー。誰だよお。暴投してんじゃねーよ」
「悪い、恵那。大丈夫か?」
 土岐が慌てて二人に駆け寄ってきた。
 監督的立場だけに、ケガをさせたとあれば責任は土岐の肩にかかる。
 瞬時にそれに気付いた恵那が、
「いや、まあ気を抜いてた俺らも悪いから」と首を振った。
 立入禁止ではないが、勝手に入り込んでいたのは自分達だから。

「…………」
「涼? 大丈夫か?」
 突然の出来事に恵那の胸の中で茫然としていた涼が、心配して覗き込んだ恵那と目が合った瞬間丸い目を更に丸くした。
「ん? どした? ボール、もしかしてカスった?」
 ぶつかる前に引き寄せたつもりだったけれど、とりあえず涼の頭を撫でて怪我がないか確かめる。

「大丈夫? ごめん、ミスったの俺っす」
 名前は知らないが、土岐よりもガタイのいい部員が申し訳なさそうに寄ってきて謝るので、
「いやいや、まじで気にすんな? 俺らが勝手にココうろついてんのが悪いだけだし。こっちこそ練習の邪魔して悪かったよ」
 恵那が綺麗な笑顔で軽く頭を下げる。

「リキの球なんか当たったら、涼っちだったらひとたまりもないしなあ」
「大丈夫だよ。こいつは俺が護る」
 当然のように何気なく恵那が言い切ると、土岐が一瞬だけ苦い表情をした。
「うちでもリキのパスのキレはかなりレベル高いしな。恵那、お姫さん護ったってなあ」
「……姫じゃ、ないし」
 やっと自分を取り戻した涼が響に反論すると、
「はいはい。じゃ、行こ行こ」と恵那が涼を促した。
 驚いていただけらしく、ショックからは立ち直ったらしい。

「リキ、ごめんな。さっきのことは気にしないで、代わりに響に思クソぶつけといて」
 暴投してしまったことを気にしている様子のリキにウィンクしながらそれだけ言うと、響には目で合図だけしておいた。
 これ以上ここにいれば他の部員たちの邪魔になるだけだし、何より涼は怪我もなにもないようだから。
 そんな恵那の真意には、付き合いの長い響はちゃんと気付いて。
「俺、最近スリーポイントのキレがイマイチなんやわ。リキ、ちょいコツ教えてんか?」
 リキを促してコートへと戻って行った。
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