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「楽しそうだよなー、まじで。土岐はさ、涼と同じで結構人見知りが激しいんだけど、バスケに関してだけは全然違ってて。あいつ、試合で関わった人間には誰とでも親しくなるんだよ」
「それで響とも仲良くなったんでしょ?」
「ん。中学で響がウチのガッコに転校してきて、あいつと部活で会った瞬間仲良くなったらしい」
「えー、じゃあ僕もバスケやってたら土岐ってもうちょっと僕と喋ってくれるのかなあ」
「なに? あいつまだ涼に人見知ってんの?」
響からボールを奪い取り、ガードされている相手の間をすり抜けるようにドリブルをして、見事にシュートを決める土岐。に、目を向けながら恵那が眉根を寄せる。
「こないださ、えなと響がお昼にいない時があったでしょ? なんか、お互いに緊張しちゃって、変な感じだった」
「いい加減にしろよなー。あいつ、何なんだマジで」
「あ、でも僕も悪いんだけどさ。えなみたいに面白いこと、言えないし」
「誰が面白いことゆってんだよ。俺は普通のことしか喋ってねーわ」
「響とえなの会話は殆ど漫才っぽいよ? あ、ショートコントってゆーのかな?」
「んなことやった覚えはない。俺は芸人じゃねえっつの」
涼がくすくす笑うと、ホイッスルが鳴り響いた。どうやら試合終了らしい。
「土岐のチームが勝ったんだね。でも、殆ど点差ない」
カッコイイ、と涼の目が言っているから恵那としては面白くないわけで。
「土岐はさ、運動神経の塊みたいな奴で。いろんなスポーツやってて、どれも全部俺より簡単にこなしてくわけさ。俺としちゃ、生まれた時から一緒にいて隣で美味しいトコ全部持ってかれるわけだからたまんない」
くっそ、なんて毒づいている恵那に、涼はふわふわと笑顔を見せている。
「ん? なんかおかしいか?」
「だって。えなって何でも器用にさらっとやってのけるから。そのえなが土岐には敵わないって悔しがってるのは、なんか新鮮で」
――可愛い、と言いかけた涼が口ごもった。自分がいつだって言われてムカついてる“可愛い”なんて形容詞、恵那だってきっと嫌がるだろうから。
でも。
涼がそんなことを考えているなんて、恵那には全部わかるから。
ちょっとだけ拗ねた表情を見せたけれど、
「ま、逆に俺はステージで土岐唸らせてっからさ」すぐにそう言ってドヤ顔をする。
「小学校の頃はちょっとしたピアノコンクールでは大抵賞とってたし、中学の吹部でも俺らの演奏は結構受けが良かったからな」
文化祭後に吹部男子が女子からコクられるのはもう恒例行事だった。
「あいつがカッコイイのは俺に似てるからってだけだ」
「ええー、自分でそゆこと、言う?」
「自分で言わなきゃ誰が言うってんだ」
僕だって思ってるよ、と言おうとしたのに。何故かそれは言えなくて。涼は自分でもわからない感覚に戸惑ってしまう。
その一瞬の空白に恵那が疑問を持つ前に、
「おまえら何してんねん?」という響の声が聞こえた。
「部活やっとん、ちゃうん? こんなトコ来てサボってんじゃねーよ」
休憩に入ったらしい響が恵那たちの存在に気付いたようで。
「応援しに来てやってんだよ。俺はともかく、涼が応援したら活気づくヤツは何人もいるだろ?」
恵那がくふくふ笑って、涼の存在に顔を緩めている連中に目をやった。涼がちょっとしたアイドルなのは、既に学校中に知れ渡っているし、そんな涼を連れている恵那としては優越感なわけで。
「どうせなら演奏して応援しろよ。おまえ、目立つの好きだろ」
響の横で土岐がいたずらっぽく笑った。
「午前中音出し禁止令が出てんだよ。三年が模試やってっから」
「あー、なるほどね」
三年の模試、二年の補講、ということで本日どの部活も午前中は一年生だけ。
バスケ部も同様だから一年だけで紅白戦をやっているわけで。
「さっきの試合、観てたぞ。響、おまえ土岐に何回もカットされてたな。こんなヤツに圧し負けるなんて、まだまだだな」
「何をおおお! てめえ、降りてきて参加しやがれ。コテンパンにやっつけてやっから!」
「やーだね。俺たいくかんシューズないしー、スリッパだしー」
わざと舌ったらずに言って上から見下ろす。
「裸足で十分や。俺も裸足になっちゃるし、勝負や!」
「じゃあ何賭ける? 俺が勝ったら向こう一週間学食のAランチ奢らせるよ?」
「素人に負けるわけないっつの。逆に恵那が二人分支払うだけやし」
「誰がバスケなんかやるかよ。ドッジボール大会だ! ほら涼、行こうぜー。みんなで楽しもうぜー」
「それで響とも仲良くなったんでしょ?」
「ん。中学で響がウチのガッコに転校してきて、あいつと部活で会った瞬間仲良くなったらしい」
「えー、じゃあ僕もバスケやってたら土岐ってもうちょっと僕と喋ってくれるのかなあ」
「なに? あいつまだ涼に人見知ってんの?」
響からボールを奪い取り、ガードされている相手の間をすり抜けるようにドリブルをして、見事にシュートを決める土岐。に、目を向けながら恵那が眉根を寄せる。
「こないださ、えなと響がお昼にいない時があったでしょ? なんか、お互いに緊張しちゃって、変な感じだった」
「いい加減にしろよなー。あいつ、何なんだマジで」
「あ、でも僕も悪いんだけどさ。えなみたいに面白いこと、言えないし」
「誰が面白いことゆってんだよ。俺は普通のことしか喋ってねーわ」
「響とえなの会話は殆ど漫才っぽいよ? あ、ショートコントってゆーのかな?」
「んなことやった覚えはない。俺は芸人じゃねえっつの」
涼がくすくす笑うと、ホイッスルが鳴り響いた。どうやら試合終了らしい。
「土岐のチームが勝ったんだね。でも、殆ど点差ない」
カッコイイ、と涼の目が言っているから恵那としては面白くないわけで。
「土岐はさ、運動神経の塊みたいな奴で。いろんなスポーツやってて、どれも全部俺より簡単にこなしてくわけさ。俺としちゃ、生まれた時から一緒にいて隣で美味しいトコ全部持ってかれるわけだからたまんない」
くっそ、なんて毒づいている恵那に、涼はふわふわと笑顔を見せている。
「ん? なんかおかしいか?」
「だって。えなって何でも器用にさらっとやってのけるから。そのえなが土岐には敵わないって悔しがってるのは、なんか新鮮で」
――可愛い、と言いかけた涼が口ごもった。自分がいつだって言われてムカついてる“可愛い”なんて形容詞、恵那だってきっと嫌がるだろうから。
でも。
涼がそんなことを考えているなんて、恵那には全部わかるから。
ちょっとだけ拗ねた表情を見せたけれど、
「ま、逆に俺はステージで土岐唸らせてっからさ」すぐにそう言ってドヤ顔をする。
「小学校の頃はちょっとしたピアノコンクールでは大抵賞とってたし、中学の吹部でも俺らの演奏は結構受けが良かったからな」
文化祭後に吹部男子が女子からコクられるのはもう恒例行事だった。
「あいつがカッコイイのは俺に似てるからってだけだ」
「ええー、自分でそゆこと、言う?」
「自分で言わなきゃ誰が言うってんだ」
僕だって思ってるよ、と言おうとしたのに。何故かそれは言えなくて。涼は自分でもわからない感覚に戸惑ってしまう。
その一瞬の空白に恵那が疑問を持つ前に、
「おまえら何してんねん?」という響の声が聞こえた。
「部活やっとん、ちゃうん? こんなトコ来てサボってんじゃねーよ」
休憩に入ったらしい響が恵那たちの存在に気付いたようで。
「応援しに来てやってんだよ。俺はともかく、涼が応援したら活気づくヤツは何人もいるだろ?」
恵那がくふくふ笑って、涼の存在に顔を緩めている連中に目をやった。涼がちょっとしたアイドルなのは、既に学校中に知れ渡っているし、そんな涼を連れている恵那としては優越感なわけで。
「どうせなら演奏して応援しろよ。おまえ、目立つの好きだろ」
響の横で土岐がいたずらっぽく笑った。
「午前中音出し禁止令が出てんだよ。三年が模試やってっから」
「あー、なるほどね」
三年の模試、二年の補講、ということで本日どの部活も午前中は一年生だけ。
バスケ部も同様だから一年だけで紅白戦をやっているわけで。
「さっきの試合、観てたぞ。響、おまえ土岐に何回もカットされてたな。こんなヤツに圧し負けるなんて、まだまだだな」
「何をおおお! てめえ、降りてきて参加しやがれ。コテンパンにやっつけてやっから!」
「やーだね。俺たいくかんシューズないしー、スリッパだしー」
わざと舌ったらずに言って上から見下ろす。
「裸足で十分や。俺も裸足になっちゃるし、勝負や!」
「じゃあ何賭ける? 俺が勝ったら向こう一週間学食のAランチ奢らせるよ?」
「素人に負けるわけないっつの。逆に恵那が二人分支払うだけやし」
「誰がバスケなんかやるかよ。ドッジボール大会だ! ほら涼、行こうぜー。みんなで楽しもうぜー」
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