コレは誰の姫ですか?

月那

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「本日三年模試の為、午前中の音出しは禁止」
 という音楽室の黒板の文字に、集まった吹奏楽部の部員はがっくりと項垂れた。

 土日だって、朝九時集合の一日練習がデフォな吹奏楽部である。
 音の出せない吹奏楽部の練習なんて、ボールなしで野球やれって言われた野球部と同じである。

「……あー、まあ走り込みとか、やりたいヤツはご自由に」
 一年の統括をやっているパーカッションの青山が顧問から「基礎練しとけ」と言われたらしく、とりあえずそんなことを部員に伝えて。

 一応校庭のランニングや腹筋の筋トレという練習メニューもあるし、推奨はしているが、強制はしていない。
 他にも音を出さない練習はなくもないが、好き好んで朝からそれをやろうとする部員は殆どいないので、なし崩しに午前中はフリータイムとなった。

「涼、走る?」
「わけ、ないじゃん」
 当たり前のやりとりを二人でして笑って。

 いつもつるんでいる徹たちが、“ついでに二年も補講”なんて言われたらしく午前中は不在の為、恵那は涼を誘って土岐の練習見学をすることにした。
「第二体育館で紅白戦やってるって。面白そうだから観に行ってやろう」
「そんなの僕たちが見学しても大丈夫なの?」
「いんじゃね? 立入禁止ってわけじゃないだろうし」

 体育館は大きなものが二つ、小さい物が一つある。
 第一体育館は二階建てになっていて、一階はバドミントン部、二階のアリーナはバレー部。そして第二体育館はバスケットボール部が基本的に占拠していて、小さい体育館では他の部がローテーションで使用している。
 他にも武道場があるが、当然そちらは柔道部と剣道部が使用。
 グランドはサッカー部用の芝生グランドと野球部用の球場、更にテニス部用のテニスコートと、水泳部用の屋内プールがあり、占拠している部活に関しては学校が力を入れている強化対象となっている。
 実際、それらは県大会や全国大会などに勝ち進んでいくのが当たり前な部だから、環境を整えているのは当然で。この辺りは鶏が先か卵が先か、という話にはなるが、環境が整えば自然に強い選手も揃ってくる。

 文科系の部活に関しても同様で、吹部は第一音楽室という大きな音楽室と専用のホールがあるし、調理部も様々なコンクールで実績を上げているので、設備の整った調理室が宛がわれている。
 最近では美術部もちらほらと名を上げることが多くなってきているから、そろそろ専用の環境が整えられるだろう。

「あ、土岐と響、別チームだねえ。あの二人はどっちが強いのかなあ?」
 二階のギャラリーから試合を眺める。
「どうなんだろうな。大抵ニコイチで試合に出てることが多かったし。俺はそもそもバスケに詳しくないから」
「えな、でも運動神経いいじゃん? スポーツ、しなかったのはなんで?」

 コートの中を走り回る土岐たちは、恐らく恵那たちが観ているなんて全然気付いていないだろう。
 練習とはいえ試合形式だから、全員が真剣に場に臨んでいるわけで。
 彼らのボールさばきやシュート一本一本に涼は完全に魅了されていた。

「スポーツを選ばなかった、というよりはただ単に音楽を選んだってだけ」
 双子だからって何もかも同じなわけじゃない。
 恵那たちの親が小さい二人にいろんなことを体験させていて。
 最初は水泳。そこから派生して系列のスポーツクラブでバスケやサッカー、野球に卓球、果ては空手に器械体操まで。何かにハマればそれを続ければいいというのを前提に、体験コースを手当たり次第に体験させていたから。
 その中のバスケにハマったのが土岐だった。

 と、同時に。
 ピアノとエレクトーンの音楽教室、そして書道教室と絵画教室。それらも当然のように体験させられた双子は。
 最終的に恵那がピアノを選択したのだ。
 そして小学校三年生で二人の方向は確定した。
 恵那はピアノ以外にも音楽全般が趣味となり、バイオリンやギターも少し齧ってみたし、楽器だけではなく作曲にも興味を示すようになったから、スポーツに関しては体育の授業や友達と遊ぶくらいしかしなくなった。
 逆に土岐は体験コースから選んだバスケが、そのスポーツクラブが持っているバスケのチームに所属するまでに至り。音楽からは一切手を引くことになったのだ。

「体育の授業も楽しいし、運動会で走るのも楽しいけどさ、俺はやっぱり楽器触ったり曲作ったりする方が向いてるっつーか……まあ、好きなんだろうなー」
「で、土岐はバスケが好き、なんだね。あんなに休むことなく動き回ってるのに、すっごい楽しそう」
 たかが百メートル走るだけでぐったりする涼だから、十分以上走り続けているなんて考えられない。
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