コレは誰の姫ですか?

月那

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 可もなく不可もなく、という演奏を終え、恵那たちが解散になったのは午後六時を過ぎていた。
 大きなコンクールにはまだ時間があるから、とりあえず今日の演奏は一年生を交えたこのメンバーでどんな音になるのかを試した、という状態で。
 監督である指揮の先生からは特に指示もなく――翌日の部活ではいろいろあるだろうが――、それぞれが楽器の搬出作業を終えると勝手に帰宅するという形になったのだ。

「涼。俺んち、来る?」
 様子がおかしいまま、口を堅く閉ざしたままの涼を恵那が誘うと。
「…………」うるうるな目で見て来たから。
「大丈夫、俺の部屋で話、聞いてやっから」
 やっと小さく頷いた涼を連れて、そのまま部屋まで連れ込んだ。

 後でメシ一緒に食うから、と恵那が母親に告げるだけ告げて。リビングにいた土岐も訝しげに見ていたが、とりあえず無視。

「さあどっからでもかかってこい。泣くなら俺が慰めてやるし」
 ベッドに座らせて、椅子を引っ張ってきて真正面に涼を見て。
 十中八九、話の内容なんて予想しているから。

「……中学の時にね。ずっと、好きだったコがいたんだ。同じ吹部でフルート吹いてたんだけど、少人数のアンサンブルやる時に組んでからずっと……ずっと片想い、してて」
 ぽつり、ぽつりと話始めた。

 涼の中学の吹奏楽部では、フルメンバーの合奏以外に、どうやら当たり前に行われていたのがアンサンブルコンサートだそうで。しっかり人数のいた部活らしく、普通の編成以外にもオリジナルの楽器編成でアンサンブルを組んでいた。
 自由編成のアンサンブルは楽譜も自分達で編曲しないといけないし、そのハーモニーがどうなるかなんて未知数だから、年間を通していろいろ試して年末にクリスマスコンサートをするというのが恒例行事だったらしい。

 涼とその子は一年生の時に一番しっくりくるとお互いに思っていたから、結局三年間ずっと一緒に演奏していて。最後のクリスマスコンサートが終わって告白、なんて涼としてはもうベタ中のベタなシチュで真っすぐに想いを伝えたというのに。

「ごめんね。私、涼くんのことはお友達としか見れない」
 という、無残な返事に打ちひしがれた。
 三年生の大ラスのコンサートだから、割とカップルは成立するという話は先輩から聞いていただけにあまりにもショックで。

 少人数のアンサンブルなんて気持ちを合わせて演奏するのが大事だから、いつだって彼女とは通じ合っていると思っていて、だからきっと大丈夫だと半分信じていただけに。
「も、顔を合わせるのも気まずいし」
 クラスこそ違っていたからまだ良かったけれど、同じ高校に進むことも視野に入れていただけに、自分の中ではかなりの出来事になってしまって。
「元々、この学校が第一志望だったし、全然いんだけど。でも、彼女と付き合えるなら、公立も受けてみようかなって思ってたから」
「で、受けなかったのか?」
「……受けたけど、落ちた」
「えー。中央よか、ウチのが偏差値上じゃね? ウチ受かって中央落ちるって……」
「だって、願書とか出してたから受けなきゃダメだっただけだし」

 まあ、私立の方が基本先に受験なんて終わってるし。惰性で受けただけならもう、やる気なんてないわけで。
「今日、彼女、ソロやってた。すごい上手くて。……やっぱ、可愛くて」
 入ったばかりでソロを貰うくらい上手、という事実にも感心したけれど、舞台からはける時に隣に並んだ上級生らしき男子生徒と微笑み合っていたのを目にした瞬間、奈落の底に落ちた気がした。
 聴かなければ良かった、見なければ良かった。恵那と一緒にサボってた方が良かった。
 そう思って地の底に沈み込んでしまった涼だったから、隣の三宅に何を問いかけられても答えることなんてできなくて。

「あー……そか」
 大体予想通りの話だっただけに、恵那としては黙って傍にいてやることしかできない。
 きっと何を言っても今は無駄で。
 失恋の傷を、まだ乾ききっていない瘡蓋カサブタを引っぺがされたような状況なだけに、そりゃー痛いし血が出るのもわかるから。
 よしよし、と頭を撫でてやる。
 ま、泣きたいなら泣けばいいし。
 なんて思いながら。
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