5 / 231
<1>
☆☆☆
しおりを挟む
☆☆☆
部活が終わると腹が減る。
そんなの運動部だけではないから、恵那と涼は学校帰りにファストフード店に寄り道していた。
「ホルン、どーよ?」
ポテトとコーラという最強の組み合わせを頬張りながら恵那が問う。
「先輩はね、めっちゃ優しい。三年の雪野先輩と真中先輩でしょ、で二年の新田先輩と大橋先輩」
涼が出す名前は、でも恵那にはまだわからない。
木管セクションの先輩は殆ど覚えたが、ホルンを含む金管セクションとはまだあまり接触がない。
「僕、中学ではずっとガイヤー使ってて、でもこの学校ガイヤーは二本しかないんだよね。雪野先輩と新田先輩が使ってるから空いてなかったんだけど、雪野先輩が譲ってくれたの。自分はどっちでも気にならないからって」
ちょお優しくない? とシェイクのストローをグサグサやりながら言う。
まあ、涼に対してならほぼ誰でも同じ対応してくれそうだと、恵那は思うけれど。
というか何のことやらさっぱりわからん。
金管楽器には触れてこなかった恵那なので、専門用語を出されると曖昧に笑うしかない。
「一年は? 仲良くなった?」
「……ビミョー……」
こちらの問には、表情が曇る。
「何? 変なヤツ、いるのか?」
「変なヤツはいないよ。僕が話しかけらんないだけ」
「あー、人見知りなー」
「僕もいちお、努力はしてるよ? どこ中って、訊いてみたし」
「お、いいじゃん」
「でも、目、合わせてくんない」
シェイクをずずっと啜って目を伏せる。
睫毛なげーな。なんて、恵那はそっちに感心してしまう。
大きな丸い目を縁取るバサバサの睫毛が、涼の可愛さに一役買っているのは確かだろう。
「なんでかなあ? えな、いつも初対面の人にどーやって話しかけてる?」
「知らん。そんなん、考えたことねーし」
「えー。だって、えな誰とでも話するじゃん」
「うん、だから何も考えてねー。涼にはなんつったっけ?」
入学して、教室入って、隣の席だった。
きっかけなんてただそれだけ。
そして恵那は左隣りではなく、右隣りの涼に声をかけた。
特に何のこだわりもなく「なんか、書類めっちゃ多くね?」と。
「あー、だっけ? 覚えてねーわそんなんいちいち」
「だよね、えなのことだから。てことは、思いついたこと、口に出してるだけ?」
「たぶん」
基本的に、単純なんで。
思い出したけど、その後目が合った瞬間思わず「うわ、可愛い」と口にして涼に嫌な顔をされたんだった。
「涼、構え過ぎ。ちなみにどこ中出身だか答えてくれた?」
「すっごいちっちゃい声でなんとか山中ってゆってたけど、もっかい訊き返す勇気はなかった」
「この辺で山って付くなら多分三田山中じゃね? 涼、知らない?」
「僕この辺詳しくない」
確かに、地元じゃないならわからなくても仕方ないだろう。
恵那は自転車を二十分も漕げば自宅に帰り着く超地元出身だが、涼はバスで市を跨いで通学している。
私立高校だからそんな人間はザラにいるし、同じ中学出身の者が誰もいないなんて当たり前の世界だから。
人見知りの激しい自分が、まだ入学して大して時間も経っていないのに、放課後一緒に寄り道できる友達がいるなんて、奇跡みたいだと涼は思う。
まあそれも、恵那という誰彼構わず声をかけてはタらし込んでる人たらしにたまたま引っ掛けてもらったから、なだけで。
そんな恵那のマネなんて、簡単にできるわけがない。
部活が終わると腹が減る。
そんなの運動部だけではないから、恵那と涼は学校帰りにファストフード店に寄り道していた。
「ホルン、どーよ?」
ポテトとコーラという最強の組み合わせを頬張りながら恵那が問う。
「先輩はね、めっちゃ優しい。三年の雪野先輩と真中先輩でしょ、で二年の新田先輩と大橋先輩」
涼が出す名前は、でも恵那にはまだわからない。
木管セクションの先輩は殆ど覚えたが、ホルンを含む金管セクションとはまだあまり接触がない。
「僕、中学ではずっとガイヤー使ってて、でもこの学校ガイヤーは二本しかないんだよね。雪野先輩と新田先輩が使ってるから空いてなかったんだけど、雪野先輩が譲ってくれたの。自分はどっちでも気にならないからって」
ちょお優しくない? とシェイクのストローをグサグサやりながら言う。
まあ、涼に対してならほぼ誰でも同じ対応してくれそうだと、恵那は思うけれど。
というか何のことやらさっぱりわからん。
金管楽器には触れてこなかった恵那なので、専門用語を出されると曖昧に笑うしかない。
「一年は? 仲良くなった?」
「……ビミョー……」
こちらの問には、表情が曇る。
「何? 変なヤツ、いるのか?」
「変なヤツはいないよ。僕が話しかけらんないだけ」
「あー、人見知りなー」
「僕もいちお、努力はしてるよ? どこ中って、訊いてみたし」
「お、いいじゃん」
「でも、目、合わせてくんない」
シェイクをずずっと啜って目を伏せる。
睫毛なげーな。なんて、恵那はそっちに感心してしまう。
大きな丸い目を縁取るバサバサの睫毛が、涼の可愛さに一役買っているのは確かだろう。
「なんでかなあ? えな、いつも初対面の人にどーやって話しかけてる?」
「知らん。そんなん、考えたことねーし」
「えー。だって、えな誰とでも話するじゃん」
「うん、だから何も考えてねー。涼にはなんつったっけ?」
入学して、教室入って、隣の席だった。
きっかけなんてただそれだけ。
そして恵那は左隣りではなく、右隣りの涼に声をかけた。
特に何のこだわりもなく「なんか、書類めっちゃ多くね?」と。
「あー、だっけ? 覚えてねーわそんなんいちいち」
「だよね、えなのことだから。てことは、思いついたこと、口に出してるだけ?」
「たぶん」
基本的に、単純なんで。
思い出したけど、その後目が合った瞬間思わず「うわ、可愛い」と口にして涼に嫌な顔をされたんだった。
「涼、構え過ぎ。ちなみにどこ中出身だか答えてくれた?」
「すっごいちっちゃい声でなんとか山中ってゆってたけど、もっかい訊き返す勇気はなかった」
「この辺で山って付くなら多分三田山中じゃね? 涼、知らない?」
「僕この辺詳しくない」
確かに、地元じゃないならわからなくても仕方ないだろう。
恵那は自転車を二十分も漕げば自宅に帰り着く超地元出身だが、涼はバスで市を跨いで通学している。
私立高校だからそんな人間はザラにいるし、同じ中学出身の者が誰もいないなんて当たり前の世界だから。
人見知りの激しい自分が、まだ入学して大して時間も経っていないのに、放課後一緒に寄り道できる友達がいるなんて、奇跡みたいだと涼は思う。
まあそれも、恵那という誰彼構わず声をかけてはタらし込んでる人たらしにたまたま引っ掛けてもらったから、なだけで。
そんな恵那のマネなんて、簡単にできるわけがない。
0
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる