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ここに、朋之と二人でいたら三人はどう思うのだろう?
そう、思ったのだ。
自分でも不思議だけれど、元の世界だったらきっと今思い浮かぶのは紀子だろう。
なのに今、ひかるが思い出しているのは朋之なのである。
同性の朋之という人間に惚れられ、そして惚れてしまっているあきら。
その事実はひかるにほんの少しの同情心と、そして微かながらも嫉妬心が芽生えていることに気付いた。
つまり、朋之に愛されている“あきら”のことが、ほんの僅かではあるけれど羨ましいと思ってしまったのである。
「何だ、それ?」
思わず声に出して呟いてしまっていたひかるに、母が「どうしたの?」と問い掛けてきた。
「いや、何でもない」
何で、羨ましいんだ?
ひかるは自問する。
だって、おかしいではないか。
自分の愛しているのは他の誰でもなくあの“紀子”で、六月になれば結婚するし、勿論そのことは他の誰でもなく自分が望んだこと。
なのに、何故か。
ひかるは朋之に“愛されてたい”なんてことをちらっとでも考えてしまっている自分に気がついたのだ。
深い愛情を湛えた瞳で“明”を見る眼差し。
“明”を傷つける総てのものから護ろうとするその強い意志。
何物にも左右されず、ただただ“明”を愛しているという強い想い。
その“明”が自分ではないことへの、これは嫉妬心なのだろう。
ひかるはそれに気付いて愕然とした。
「……ありえねー……」
「明、何ぶつぶつ言ってるの? ほら、そろそろ御飯できるから、テーブルの上を拭いてちょうだい」
母親に言われるが、ひかるは気が付いた事実のあまりの衝撃に、ただぼんやりとテーブルに置かれた台拭きを見つめることしかできなくて。
「もお、何もしないんだから。最近はね、何もできない男の子より、家事を手伝ってくれる男の子の方がモテるのよ? 明も料理くらいできるようになって、早く彼女の一人でも連れて来なさいよね」
「あら、季里子。そんなこと言ってられるの? 明が彼女連れてきたら、ヤキモチやいてイジワルするんじゃないの?」
「やだもう、母さんってば。私はそんなことしません」
「どうかしら? かわいいかわいい一人息子の明だもん、そんなこと言ってられないんじゃない?」
「大丈夫よお。それよりも、こんな年になるって言うのに彼女の一人も連れて来ないことの方が私は心配よ。ほら、私なんか明の年の時には明を幼稚園に入れてたのよ? なのにどうよ、この子ったら」
「あら、季里子に黙ってナイショのコイビトがいるんじゃないの?」
祖母に言われ、ひかるは苦笑するしかなかった。
ナイショにしかできない恋人であることには間違いないけれど、ここで「うん、いるよ」なんて言うわけにもいかないのだから。
「いるならいるでちゃんと紹介して欲しいわよ。かげでコソコソやって子供できたーなんて言ったら、それこそおじいちゃんに怒られるわよ?」
「親父じゃないんだから、そんなことしねーよ」
「どうだかねえ? 血は争えないって言うし」
母さんあなたがそれを言うのかよ?
「だーもう、うるさいな。じゃあ今からそのコイビトんトコ行ってくるよ」
「え?」
やけくそ、というヤツである。
さっきから朋之のことが気になって仕方ないのだ。
こうなったら会いに行ってやる。
「ちょい、まじで出かける。晩飯パスね」
「明? ちょっと、どういうことよ? ほんとに彼女がいるの?」
飲んでしまっているので車には乗れないが、バスが動いている時間だから足に困ることはない。
「さあて、どうだかね。じゃ、行ってくる」
「泊まるの?」
「たぶん」
母親が心配そうな顔で玄関先までついてくる。
「今度ちゃんと紹介してね?」
「やだ」
「明!」
イヤだ、というよりできない、と言った方が正解であるが、とりあえずひかるは母親の声を無視して外に出たのだった。
そう、思ったのだ。
自分でも不思議だけれど、元の世界だったらきっと今思い浮かぶのは紀子だろう。
なのに今、ひかるが思い出しているのは朋之なのである。
同性の朋之という人間に惚れられ、そして惚れてしまっているあきら。
その事実はひかるにほんの少しの同情心と、そして微かながらも嫉妬心が芽生えていることに気付いた。
つまり、朋之に愛されている“あきら”のことが、ほんの僅かではあるけれど羨ましいと思ってしまったのである。
「何だ、それ?」
思わず声に出して呟いてしまっていたひかるに、母が「どうしたの?」と問い掛けてきた。
「いや、何でもない」
何で、羨ましいんだ?
ひかるは自問する。
だって、おかしいではないか。
自分の愛しているのは他の誰でもなくあの“紀子”で、六月になれば結婚するし、勿論そのことは他の誰でもなく自分が望んだこと。
なのに、何故か。
ひかるは朋之に“愛されてたい”なんてことをちらっとでも考えてしまっている自分に気がついたのだ。
深い愛情を湛えた瞳で“明”を見る眼差し。
“明”を傷つける総てのものから護ろうとするその強い意志。
何物にも左右されず、ただただ“明”を愛しているという強い想い。
その“明”が自分ではないことへの、これは嫉妬心なのだろう。
ひかるはそれに気付いて愕然とした。
「……ありえねー……」
「明、何ぶつぶつ言ってるの? ほら、そろそろ御飯できるから、テーブルの上を拭いてちょうだい」
母親に言われるが、ひかるは気が付いた事実のあまりの衝撃に、ただぼんやりとテーブルに置かれた台拭きを見つめることしかできなくて。
「もお、何もしないんだから。最近はね、何もできない男の子より、家事を手伝ってくれる男の子の方がモテるのよ? 明も料理くらいできるようになって、早く彼女の一人でも連れて来なさいよね」
「あら、季里子。そんなこと言ってられるの? 明が彼女連れてきたら、ヤキモチやいてイジワルするんじゃないの?」
「やだもう、母さんってば。私はそんなことしません」
「どうかしら? かわいいかわいい一人息子の明だもん、そんなこと言ってられないんじゃない?」
「大丈夫よお。それよりも、こんな年になるって言うのに彼女の一人も連れて来ないことの方が私は心配よ。ほら、私なんか明の年の時には明を幼稚園に入れてたのよ? なのにどうよ、この子ったら」
「あら、季里子に黙ってナイショのコイビトがいるんじゃないの?」
祖母に言われ、ひかるは苦笑するしかなかった。
ナイショにしかできない恋人であることには間違いないけれど、ここで「うん、いるよ」なんて言うわけにもいかないのだから。
「いるならいるでちゃんと紹介して欲しいわよ。かげでコソコソやって子供できたーなんて言ったら、それこそおじいちゃんに怒られるわよ?」
「親父じゃないんだから、そんなことしねーよ」
「どうだかねえ? 血は争えないって言うし」
母さんあなたがそれを言うのかよ?
「だーもう、うるさいな。じゃあ今からそのコイビトんトコ行ってくるよ」
「え?」
やけくそ、というヤツである。
さっきから朋之のことが気になって仕方ないのだ。
こうなったら会いに行ってやる。
「ちょい、まじで出かける。晩飯パスね」
「明? ちょっと、どういうことよ? ほんとに彼女がいるの?」
飲んでしまっているので車には乗れないが、バスが動いている時間だから足に困ることはない。
「さあて、どうだかね。じゃ、行ってくる」
「泊まるの?」
「たぶん」
母親が心配そうな顔で玄関先までついてくる。
「今度ちゃんと紹介してね?」
「やだ」
「明!」
イヤだ、というよりできない、と言った方が正解であるが、とりあえずひかるは母親の声を無視して外に出たのだった。
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