49 / 52
<9>
☆☆☆
しおりを挟む
「触んじゃねーよ、このバカウナギ!」
ついにウナギにまで変化したその単語を吐き捨てるように言い、中浦は蹴られた頭を抑えている高柳の背中にもう一発蹴りを入れる。
そして、更に首に腕を絡ませ、力任せに絞め上げた。
シメ技は得意ではないが、中浦の柔道家らしい太い腕は、二発の攻撃で弱っている高柳をオとすには十分な力を持っている。
「いい加減……オちろ、馬鹿ウナギ!」
中浦のその声の後、高柳の力がかくん、と抜けた。
「中浦……」
呆然と祐斗が中浦を見上げると、彼はふう、と大きく息を吐き、
「間に合って良かった」
と笑いかけてくれた。
絞められていたせいでぼんやりしていた中浦だったが、祐斗の悲鳴にはっと我に返り、更に視界に入ってきた高柳の祐斗へとのしかかる姿に、ふらつく体をムリヤリひきずって蹴りを入れに来たのである。
「無事か、小月?」
腹を抱えながら小形も近づいてきた。
「俺は、大丈夫だけど……和巳が……」
祐斗は和巳の元へと駆け寄り、その頭を抱え起こした。
「……祐斗、大丈夫?」
焦点の合わない目で、必死で自分を見つめる和巳に、祐斗は頷いた。
そして安心したように微笑む和巳をぎゅっと抱きしめる。
「ごめん、和巳……」
「謝られても、困る。俺、おまえのこと守りきれなかったし」
和巳が苦しそうな声で言うと、
「守ってたよ、おまえはちゃんと、小月んこと」
中浦が笑った。
「とどめは俺が刺したけどね。でも、相楽はちゃんと小月んこと守ってた」
「うん。バカウナギ、小月には結局手え出せてねーしな」
小形が中浦の後ろから言い、そのまま咳き込んだ。
遠山の頭突きの威力は凄まじかったらしく、まだ腹を撫でているが、とりあえず復活したようだ。
「じゃあ、さ。負傷者抱えてそろそろ退散しますか?」
中浦が格技場を見渡すと、本庄が腕をそっと抱えながらも、
「俺、一人で歩けるそ」
と立ち上がった。
「じゃ、斎藤と相楽だけ、かな?」
「俺も、大丈夫、だ」
斎藤もゆっくりとだが起き上がる。
「おーい、バカウナギ。おまえら、この後柔道部員が部活しに来るぞ? 俺等と一緒にトンヅラしたきゃ、腕貸してやってもいいけど、どうする?」
「中浦?」
祐斗は中浦の発言に耳を疑った。
何で、こいつらを助けるようなことを?
「……今後一切小月に手を出すな。それ、条件でおまえらもこの格技場であったことを柔道部の時間外練習に混ぜて誤魔化してやる」
格技場の放課後使用については柔道部の部長である中浦が一任されている。
故に、今日の部活の時間について、独断で部員に変更させてここを自由に私用させてもらうことにしており、この後十分もすれば部員がここへやってくるだろう。
部員にはある程度の話を付けているので、ここであった一切を柔道部の時間外練習で片付けられるように手配はしているのだ。
畳が痛んでしまったことも――土足で喧嘩なんてしているのだから痛んで当然である――、部員が何とかしてくれるだろう。
それくらいの信頼があるからこそ、中浦も部長という肩書きを冠しているのだ。
暫くの間、沈黙があった。
しかし、今まで喧嘩で負けたことのない高柳にとって、この勝負の結果は屈辱以外の何者でもないだろう。
そんな勝負についてこの場以外の人間に知られるのは更なる屈辱である。
「――手を、貸せ」
商談は、成立した。
ついにウナギにまで変化したその単語を吐き捨てるように言い、中浦は蹴られた頭を抑えている高柳の背中にもう一発蹴りを入れる。
そして、更に首に腕を絡ませ、力任せに絞め上げた。
シメ技は得意ではないが、中浦の柔道家らしい太い腕は、二発の攻撃で弱っている高柳をオとすには十分な力を持っている。
「いい加減……オちろ、馬鹿ウナギ!」
中浦のその声の後、高柳の力がかくん、と抜けた。
「中浦……」
呆然と祐斗が中浦を見上げると、彼はふう、と大きく息を吐き、
「間に合って良かった」
と笑いかけてくれた。
絞められていたせいでぼんやりしていた中浦だったが、祐斗の悲鳴にはっと我に返り、更に視界に入ってきた高柳の祐斗へとのしかかる姿に、ふらつく体をムリヤリひきずって蹴りを入れに来たのである。
「無事か、小月?」
腹を抱えながら小形も近づいてきた。
「俺は、大丈夫だけど……和巳が……」
祐斗は和巳の元へと駆け寄り、その頭を抱え起こした。
「……祐斗、大丈夫?」
焦点の合わない目で、必死で自分を見つめる和巳に、祐斗は頷いた。
そして安心したように微笑む和巳をぎゅっと抱きしめる。
「ごめん、和巳……」
「謝られても、困る。俺、おまえのこと守りきれなかったし」
和巳が苦しそうな声で言うと、
「守ってたよ、おまえはちゃんと、小月んこと」
中浦が笑った。
「とどめは俺が刺したけどね。でも、相楽はちゃんと小月んこと守ってた」
「うん。バカウナギ、小月には結局手え出せてねーしな」
小形が中浦の後ろから言い、そのまま咳き込んだ。
遠山の頭突きの威力は凄まじかったらしく、まだ腹を撫でているが、とりあえず復活したようだ。
「じゃあ、さ。負傷者抱えてそろそろ退散しますか?」
中浦が格技場を見渡すと、本庄が腕をそっと抱えながらも、
「俺、一人で歩けるそ」
と立ち上がった。
「じゃ、斎藤と相楽だけ、かな?」
「俺も、大丈夫、だ」
斎藤もゆっくりとだが起き上がる。
「おーい、バカウナギ。おまえら、この後柔道部員が部活しに来るぞ? 俺等と一緒にトンヅラしたきゃ、腕貸してやってもいいけど、どうする?」
「中浦?」
祐斗は中浦の発言に耳を疑った。
何で、こいつらを助けるようなことを?
「……今後一切小月に手を出すな。それ、条件でおまえらもこの格技場であったことを柔道部の時間外練習に混ぜて誤魔化してやる」
格技場の放課後使用については柔道部の部長である中浦が一任されている。
故に、今日の部活の時間について、独断で部員に変更させてここを自由に私用させてもらうことにしており、この後十分もすれば部員がここへやってくるだろう。
部員にはある程度の話を付けているので、ここであった一切を柔道部の時間外練習で片付けられるように手配はしているのだ。
畳が痛んでしまったことも――土足で喧嘩なんてしているのだから痛んで当然である――、部員が何とかしてくれるだろう。
それくらいの信頼があるからこそ、中浦も部長という肩書きを冠しているのだ。
暫くの間、沈黙があった。
しかし、今まで喧嘩で負けたことのない高柳にとって、この勝負の結果は屈辱以外の何者でもないだろう。
そんな勝負についてこの場以外の人間に知られるのは更なる屈辱である。
「――手を、貸せ」
商談は、成立した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
15
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる