恋月花

月那

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「あ……ああっ……やっ、いやっ!」
 和巳は祐斗の腕の中で暴れた。
 自分を蹂躙する腕がまだ、記憶のそれと重なっていて。

「和巳! 和巳、俺だから! 大丈夫だから!」
 祐斗が宥めるように力強く抱きしめる。
 強いけれどそれは優しく、暖かくて。
 大丈夫だと言う声は、和巳を現実へと引き戻す。

 自分を包み込むその手の暖かさに、和巳は強張っていた体が少しずつ和らいでくるのを感じた。

 一番知られたくなかった。
 高柳たちにされた事は、今までのどんなことよりも屈辱的で、だからこそ祐斗には……祐斗にだけは知られたくなかったのに……。

「ごめんな、和巳……」
 祐斗はただひたすら謝るのだ。
 謝るようなことなど、何もしていないのに。
 シーツの上から優しく抱きしめ、体中を撫でながら「ごめん、和巳」と繰り返す。

 そんな祐斗の声に、少しずつ冷静さが戻ってくる。
 そして、和巳は自分の中にあった微かな安堵感に気付く。

 それは……。
 自分で良かった、と。
 彼等の矛先が自分で良かったと、それだけが和巳の救いだった。

 こうして汚され、辱められたのが自分であって良かった。
 この愛しい存在である祐斗が、同じ目に遭うことを想像するよりも、この事実はどれだけ安心できることだろう。

「……ゆう、と……?」
 声の主へと意識が焦点を合わせ始めると、体の震えは収まり、力いっぱい握り締めていたシーツがするりと手の中から落ちた。

「和巳?」
 そうして顔を出してきた和巳の表情は、まだぼんやりとはしていたものの、自分を見ていると祐斗は気が付いた。
「ごめん、な、和巳」
 目を併せて祐斗が言うと、和巳は力無く笑った。

「あやまるな、よ」
 何度も悲鳴を上げたせいで掠れた声で、けれど小さく首を振りながら和巳は言う。
「俺が、油断した、だけだから」
 強がる台詞が痛々しくて、祐斗は再びぎゅっと抱きしめた。

「ばか……」
 今度は、はっきりとわかる。
 自分を、“和巳”を抱きしめてくれている手が誰のものか。
「……やっと、呼んでくれた」
 まだ、顔がひきつってしまう。
 けれど、この愛しい人を安心させようと、この人がもう謝らなくて済むように、安心させたいと、和巳はムリヤリに笑顔を作った。

「和巳……」
 泣きそうな表情をしている祐斗がかわいそうで、和巳はシーツの中から力の入りきらない腕を出し、指を伸ばした。
「おまえじゃなくて、良かった……」
 祐斗の頬にそっと触れると、掠れた声で呟き、その胸の中にすっと倒れこんで意識を失ったのだった。
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