恋月花

月那

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 和巳はふと息苦しさを感じて目を開けた。
「……!」
 目の前にあるニヤついた表情の、見たくない顔がそこにあったことに驚き、目を見開く。
 そして声を上げようとして、口を何かでふさがれていることに気付いた。

「静かにしてろ」
 息だけの声で言ったのは、本当に見たくもない顔であるところの高柳修三である。
 何故か自分の上に載りかかり、見下ろしている彼の存在が理解できず、和巳は呆然とその目を見つめた。

「おっけー」
「鍵は?」
「かけたそ」
「よしよし。準備はできたな」

 白いカーテンが開いて顔を見せたのは遠山と渡辺。
 そしてこの三人が何故ここにいるか。
 それは自分が身動きの取れない状態、つまり両腕をベッドの柵に縛りつけられ、更に両足も高柳の大きくごつごつとした手にがっちりと押さえつけられているという最悪な状態から鑑みるに、恐らく暴行を加えられるのだろうということが判る。

 判りたくなどないが。

「大丈夫、顔は傷つけんそ。仕事があるんじゃろうけえな」
 それはありがたい。
 和巳は目でそう語り、そして顔以外のこれからについては諦めることにした。

 とりあえず顔さえ無事ならば仕事に支障はない。
 どこをどう痛めつけられようとも、自分は這ってでも舞台に上がるだろう。
 どうせ痛みさえ我慢すれば、体はすべて衣裳の下に隠れてしまうのだから。
 痛いのはヤだけど、まあしょうがない、か。
 ここで抵抗して余計な傷、たとえばこの縛り付けられている紐の摩擦が残す跡だとか、そういったものが増えるよりは、おとなしくばかすかと体を殴られた方がましである。
 幸い寝て起きたせいか空腹を訴えている腹からは、吐瀉物の欠片も出てきはしないだろう。
 胃液を吐くのは苦しいが、吐瀉物を詰まらせて死ぬなんてコトの方がイヤだ。

 さあ殴りたいだけ殴れ、と言わんばかりに和巳はおとなしく体中の力を抜いた。
 自分でも不思議なくらい、諦念している。
 だってしょうがない。体格差があまりにも明らか。抵抗するだけばかばかしい。
 とりあえず、体のどこかに来る痛みに対しての覚悟だけ、決める。

「……本当に、キレイなツラしてやがる」
 高柳の生ぬるい息が首筋にかかり、和巳はその不快感を表情に出した。
 顔を殴らないという宣言はありがたいが、この中途半端な気色の悪さは、痛みよりも不快である。

「ふん。どうせ小月ちゃんはマジメだから、抱いてもらってなんかねーんだろ?」
「?」
「俺らが代わりにかわいがってやるさ」
 三人の目が妖しく光り、和巳はその言葉から、想像していた“暴行”の方向性をすっかり変えさせられることになる。

「俺たちも最近ヤってねーしな」
 イヤらしく下卑た嗤い顔で三人が和巳の足を開いた。
 ――つまり。強姦、というヤツである。
 和巳は体中の血が引いて行くのを感じた。
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