恋月花

月那

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 教室の窓側の片隅にかたまっている高柳、遠山、渡辺の三人組に目をやり、大きく息を吐いた。

 彼等に特に何かされたわけでもないのに、こんな気持ちで接するのは良くない。
 思考回路からして完全に優等生である祐斗だから。ふるふると首を横に振って気を取り直すと、平静な自分を懸命に取り戻しながらその塊に近づいて行く。

「高柳」
 祐斗がそう呼んだ声は然程大きくはなかったが、昼休憩を思い思いの場所で過ごす人間が出払っているせいで教室内にはあまり人がおらず、またあまりにも意外な人物が意外な人物の名を呼んだせいもあって、室内が一瞬静まり返ったのだった。

 そして、何事かと固唾を呑んで見守っているクラスメイトの中には、一人で文庫本を片手に席に着いていた斎藤もいた。

「これ、小林先生から」
 祐斗に呼ばれて驚いていたのは当人もであり、差し出されたプリントを高柳はぼんやりと素直に受け取る。
「今度は締め切りまでに出せって、言うとったそ」
 内心恐々としながらではあったけれど、表情はあくまでも自然に、喧嘩を売るつもりはないということを表すためにほんの少しだけ微笑を浮かべながら、祐斗は高柳の目を見ながら言った。

「……」優等生からの真っすぐな目に、何も言えない。
「じゃ」
 呆然としたままだった高柳も、軽く手を上げて背を向けかけた祐斗に、はっと我に返る。
 そして、
「締め切りまでに出すんじゃったら、おまえに教えてもらわんとムリじゃ」
と、冗談とも本気とも取れないような声色で引き止めた。

「え?」
「小月はさ、いーっつも相楽んお守りばっかじゃん? たまには俺らーにもベンキョー教えてーや」
 高柳の台詞は予想だにしていなかったもので、祐斗はその真意を掴みかねた。
 そのままきょとんとした表情で首を傾げる祐斗に、高柳はにやにやとした表情を見せる。
 遠山と渡辺も同じような表情をしている。

「高柳、数学苦手なん? でも小林先生、高柳はやればできるって言いよったそ?」
「相楽には教えてやるのに、俺らには教えてくれんのん?」
 遠山が、シナを作ったように言い、さすがに祐斗も怪訝な表情になる。

「それともやー、相楽ちゃんだけは特別なん?」
 たたみかけるように言った渡辺に、祐斗はふう、と息を一つ吐いた。
「そんなことはないけど、本当に教えて欲しいんじゃったらそういう言い方しとらんこう、ちゃんと頼むのが筋じゃないん? ただ、さっきプリント見たけど、俺は高柳とおんなじくらいのレベルじゃと思うよ?」

 困る姿を見るのが楽しいのだろう、と解釈した祐斗ははっきりと言い、三人から離れようとした。
 が、その瞬間窓の外の光景が目に入り、祐斗の動きがふと止まる。

 何となれば、窓の外では和巳が誰だかわからない女子生徒に腕を絡め取られ、いつもの綺麗な笑顔で彼女の小さな頭をくしゃっと撫でたのである。

 和巳の細く長い綺麗な指が、彼女の髪にさらりと絡みつく。
 その光景が何を意味しているのかはわからない。
 和巳が女子生徒に囲まれている姿は今まで何度も見てきたけれど、こんな風にじゃれている姿は……。

「……かずみ……」
 ふと、思い至る。
 和巳が自分を避けているように思えた理由の一つに。
 コンパのことを隠していた、という事実よりもそのことの方が祐斗にはよりショックだった。

 それは……最近和巳は自分に触れてこない。という、こと。

 だから、あの時ほんの少し掠るように触れた指に驚いたのだ。
 和巳は、ここのところずっと肩を叩くことすら、なかったのだから。
「……」

 一人ショックを受けている祐斗の横で、高柳が無言で祐斗の視線の先の人物への怒りを膨らませていることに、しかしながら祐斗は気付くことができなかった。
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