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「ああっと、小月君教室帰るん?」
例によって例の如く、帰ってきたテストを片手に職員室を訪れていた祐斗であったが、要件が終わったので帰ろうとその扉に手をかけた途端、数学の小林教諭に呼び止められた。
昼休憩も半ば過ぎた時間なので、教諭の中には机の上に足を投げ出して昼寝を貪っている者もおり、かなり寛いだ空気が室内を漂っている。
「はい?」
くるりと振り返ると、恰幅がよく黒縁のメガネをかけた目つきの鋭い小林教諭が、プリントを抱えて追いかけてきた。
彼女はこの学校の女性教師の中で生徒たちに最も恐れられている教諭である。
もともと数学教諭は数学の苦手な生徒には嫌われやすいものだが、彼女の場合はその鋭い目つきと厳しい授業のせいで、受け持ってもらった生徒はみな声を揃えて“怖い”という。
勿論祐斗にとっても逆らうなんて真似は間違ってもできない相手である。
「ごめんけど、これ高柳君に渡してくれん? さっきの授業で返しそびれとった課題プリントなんじゃけど、私今から会議なんよ」
そう言われて見れば、欠伸をしながらも教諭陣がわらわらと奥の部屋へと向かっている。
「彼はやればできるんじゃけど、やることが遅いんよねえ。今度からちゃんと締め切りまでに出すように言うちょってね」
雰囲気は笑っているようだが、目が笑っていないように見え、祐斗は「はあ」と返して職員室を出たのだった。
このプリントを渡さなければならない相手が、あの高柳であることが祐斗にため息を吐かせる。
身長百八十センチ弱、体重九十キロ強。どこからどう見ても中学生とは思えない体躯。
その上いつも斜に構えた様子で人を見下ろし、数人の取り巻きに囲まれている高柳修三。
喧嘩が強いどころか喧嘩好きという噂は祐斗も耳にしていたし、一番タチの悪い連中の中心人物であることは生徒全員が知っているだろう彼に、近づく機会がなかった祐斗は今まで一度も話したことがない。
けれどもクラスメイトであることには違いないわけであるし、こうして小林教諭から直々に頼まれたのだから、ここでこのプリントを抱えたまま渡さないでいられるはずもなく。
祐斗は憂鬱な気分を抱えながら教室へと向かった。
例によって例の如く、帰ってきたテストを片手に職員室を訪れていた祐斗であったが、要件が終わったので帰ろうとその扉に手をかけた途端、数学の小林教諭に呼び止められた。
昼休憩も半ば過ぎた時間なので、教諭の中には机の上に足を投げ出して昼寝を貪っている者もおり、かなり寛いだ空気が室内を漂っている。
「はい?」
くるりと振り返ると、恰幅がよく黒縁のメガネをかけた目つきの鋭い小林教諭が、プリントを抱えて追いかけてきた。
彼女はこの学校の女性教師の中で生徒たちに最も恐れられている教諭である。
もともと数学教諭は数学の苦手な生徒には嫌われやすいものだが、彼女の場合はその鋭い目つきと厳しい授業のせいで、受け持ってもらった生徒はみな声を揃えて“怖い”という。
勿論祐斗にとっても逆らうなんて真似は間違ってもできない相手である。
「ごめんけど、これ高柳君に渡してくれん? さっきの授業で返しそびれとった課題プリントなんじゃけど、私今から会議なんよ」
そう言われて見れば、欠伸をしながらも教諭陣がわらわらと奥の部屋へと向かっている。
「彼はやればできるんじゃけど、やることが遅いんよねえ。今度からちゃんと締め切りまでに出すように言うちょってね」
雰囲気は笑っているようだが、目が笑っていないように見え、祐斗は「はあ」と返して職員室を出たのだった。
このプリントを渡さなければならない相手が、あの高柳であることが祐斗にため息を吐かせる。
身長百八十センチ弱、体重九十キロ強。どこからどう見ても中学生とは思えない体躯。
その上いつも斜に構えた様子で人を見下ろし、数人の取り巻きに囲まれている高柳修三。
喧嘩が強いどころか喧嘩好きという噂は祐斗も耳にしていたし、一番タチの悪い連中の中心人物であることは生徒全員が知っているだろう彼に、近づく機会がなかった祐斗は今まで一度も話したことがない。
けれどもクラスメイトであることには違いないわけであるし、こうして小林教諭から直々に頼まれたのだから、ここでこのプリントを抱えたまま渡さないでいられるはずもなく。
祐斗は憂鬱な気分を抱えながら教室へと向かった。
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