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待ち合わせ場所は駅前。集合メンバーはいつもの四人。
五月も既に後半ともなれば日差しはかなりきつく、祐斗も和巳も半袖である。
小形と中浦が来るまで、二人は木陰のベンチでぼんやりと待ちぼうけ。
そう、珍しく日曜日の午後和巳の時間が空いたのである。
本来なら夜の公演に向けて準備なのだが、勉強を教えてもらうのだと和巳が座長である父親に言い張り、公演二時間前である午後五時まで自由にしていいとお許しが出たのだ。
「遅い!」
おはよー、という声と共に二人が現れ、祐斗はちょっと膨れて言った。
「五時までしか空いてないんぞ、相楽は! わかっちょるんかよ?」
「ごめんってばー。で、相楽は何したいんか決めた?」
小形が手を合わせながら聞く。
おわびのシルシと中浦は缶ジュースを四本抱えており、和巳は「さんきゅ」と既にそれを呷っていた。
「んー。映画とゲーセン」
駅前から十分も歩けばわりと大きなショッピングモールに辿り着く。
そこにはシネコンも入っているし、ちょっと大きなゲームセンターもある。
というよりは、このショッピングモール以外に遊び場所なんて殆どないというのがこの田舎町の現状ではあるのだが。
「今何やりよーるっけ? おい小形。おまえの分は払えよ。遅れたんはおまえのせいなんじゃけな」
中浦は聞きながら、ジュースを飲んでいた小形にしっかりと請求する。
「えー! けちー。いいじゃんかー」
「いくないんじゃ、ボケ。待ち合わせが十二時ジャストなのに、何で十一時半まで寝とるんじゃ? おまえ、俺が電話せんかったら永遠に寝とったじゃろうが!」
「だーって昨日ねーちゃんがレンタル半額じゃったけーゆーてDVD六枚も借りてきよったんじゃもん。それ観よったら三時半過ぎとったそ」
言いながらおおあくびをした小形に、和巳は、
「お姉さんいるんだ?」
と振った。
「おう。二人おるで」
「小形のねーちゃんは二人ともちょー背が高いんよ。キレイじゃし豪快じゃし、かっこえーよね?」
祐斗が嬉しげに言い、小形も頷く。
「うん、かっこえー。おまけに強い。俺が柔道の技かけようとしても絶対返される。技の練習もさしてくれん」
「小形は下手じゃしな」
「うるせ。中浦だって姉貴には絶対敵わんもん。姉貴はねーちゃんよか十倍は強いぞ」
「へえ。小形、おねーさんたち二人と仲いいんだ?」
小形の言葉には愛情が溢れていたから、和巳も微笑ましく思えて。一人っ子だから、羨ましい。
「うん。ねーちゃんは好き。姉貴は怖いけど」
「ねーちゃんってのが下のお姉さんで綾子さん。姉貴さんってのが上で祥子さん。どっちも美人だから小形とは全然似とらん」
中浦が説明すると、小形が横で頷いた。
中浦と小形は家が近いせいか仲がいい。
中学入学と同時に小形が中浦の近所に越して来たのだ。
「中浦は弟くんだよな?」
祐斗が振ると、
「小六でさ、すっげー生意気なくそがき。その点小月はいいよなー。三歳だっけ、花香ちゃん。かわいいよな」
逆に返されてしまう。
「まあ、今のトコはかわいいよ。そのうち生意気になるんじゃろうけど」
まだまだ片言くらいしか喋れないけれど、女系家族の長女だからきっと母親に似てしっかりした娘に育つだろう妹に、兄としては既に将来の自分の立場を危うんでいたりする。
「あの頃の祐斗に似ててかわいいよ、花香ちゃんはすごく」
和巳が目を細めながら言うと、小形が嬉しそうに、
「あの頃って?」
しっかりと拾う。
焦ったのは祐斗である。
あの頃といえば出逢った時のことであり、自分としてはしっかりと隠しておきたい事実でもある。
「昔ここで公演やったことあるんだよ、うちの座。で、そん時祐斗は俺の踊り観て嬉しそうに近付いて来てさ。花香ちゃんも衣裳来た俺にはすっげー懐いてくれるし」
思ったよりあっさりと妹の話にすり替えてくれたのでほっとする。
「花香はキレイなもんが好きじゃけなー」
「そいえば和巳は一人っ子なん?」
祐斗のことよりもどちらかというと和巳に興味がある中浦が問う。
「ん。ま、両親共に全国津々浦々転々としているわけだし、そんなに余裕はないんじゃないかな? それに俺が当たりだっただけに次に外れる可能性考えると怖いだろうしね」
「おーお、言う言う。相楽って相当自信過剰だよなー」
小形が呆れ返って言うと、祐斗も横で笑った。
「こういう仕事してるとイヤでも自信は過剰になるんだよ。それよか昼飯くおーぜ」
ショッピングモールに入ってすぐの場所にあるファーストフード店を指差した和巳に、三人も従ったのだった。
五月も既に後半ともなれば日差しはかなりきつく、祐斗も和巳も半袖である。
小形と中浦が来るまで、二人は木陰のベンチでぼんやりと待ちぼうけ。
そう、珍しく日曜日の午後和巳の時間が空いたのである。
本来なら夜の公演に向けて準備なのだが、勉強を教えてもらうのだと和巳が座長である父親に言い張り、公演二時間前である午後五時まで自由にしていいとお許しが出たのだ。
「遅い!」
おはよー、という声と共に二人が現れ、祐斗はちょっと膨れて言った。
「五時までしか空いてないんぞ、相楽は! わかっちょるんかよ?」
「ごめんってばー。で、相楽は何したいんか決めた?」
小形が手を合わせながら聞く。
おわびのシルシと中浦は缶ジュースを四本抱えており、和巳は「さんきゅ」と既にそれを呷っていた。
「んー。映画とゲーセン」
駅前から十分も歩けばわりと大きなショッピングモールに辿り着く。
そこにはシネコンも入っているし、ちょっと大きなゲームセンターもある。
というよりは、このショッピングモール以外に遊び場所なんて殆どないというのがこの田舎町の現状ではあるのだが。
「今何やりよーるっけ? おい小形。おまえの分は払えよ。遅れたんはおまえのせいなんじゃけな」
中浦は聞きながら、ジュースを飲んでいた小形にしっかりと請求する。
「えー! けちー。いいじゃんかー」
「いくないんじゃ、ボケ。待ち合わせが十二時ジャストなのに、何で十一時半まで寝とるんじゃ? おまえ、俺が電話せんかったら永遠に寝とったじゃろうが!」
「だーって昨日ねーちゃんがレンタル半額じゃったけーゆーてDVD六枚も借りてきよったんじゃもん。それ観よったら三時半過ぎとったそ」
言いながらおおあくびをした小形に、和巳は、
「お姉さんいるんだ?」
と振った。
「おう。二人おるで」
「小形のねーちゃんは二人ともちょー背が高いんよ。キレイじゃし豪快じゃし、かっこえーよね?」
祐斗が嬉しげに言い、小形も頷く。
「うん、かっこえー。おまけに強い。俺が柔道の技かけようとしても絶対返される。技の練習もさしてくれん」
「小形は下手じゃしな」
「うるせ。中浦だって姉貴には絶対敵わんもん。姉貴はねーちゃんよか十倍は強いぞ」
「へえ。小形、おねーさんたち二人と仲いいんだ?」
小形の言葉には愛情が溢れていたから、和巳も微笑ましく思えて。一人っ子だから、羨ましい。
「うん。ねーちゃんは好き。姉貴は怖いけど」
「ねーちゃんってのが下のお姉さんで綾子さん。姉貴さんってのが上で祥子さん。どっちも美人だから小形とは全然似とらん」
中浦が説明すると、小形が横で頷いた。
中浦と小形は家が近いせいか仲がいい。
中学入学と同時に小形が中浦の近所に越して来たのだ。
「中浦は弟くんだよな?」
祐斗が振ると、
「小六でさ、すっげー生意気なくそがき。その点小月はいいよなー。三歳だっけ、花香ちゃん。かわいいよな」
逆に返されてしまう。
「まあ、今のトコはかわいいよ。そのうち生意気になるんじゃろうけど」
まだまだ片言くらいしか喋れないけれど、女系家族の長女だからきっと母親に似てしっかりした娘に育つだろう妹に、兄としては既に将来の自分の立場を危うんでいたりする。
「あの頃の祐斗に似ててかわいいよ、花香ちゃんはすごく」
和巳が目を細めながら言うと、小形が嬉しそうに、
「あの頃って?」
しっかりと拾う。
焦ったのは祐斗である。
あの頃といえば出逢った時のことであり、自分としてはしっかりと隠しておきたい事実でもある。
「昔ここで公演やったことあるんだよ、うちの座。で、そん時祐斗は俺の踊り観て嬉しそうに近付いて来てさ。花香ちゃんも衣裳来た俺にはすっげー懐いてくれるし」
思ったよりあっさりと妹の話にすり替えてくれたのでほっとする。
「花香はキレイなもんが好きじゃけなー」
「そいえば和巳は一人っ子なん?」
祐斗のことよりもどちらかというと和巳に興味がある中浦が問う。
「ん。ま、両親共に全国津々浦々転々としているわけだし、そんなに余裕はないんじゃないかな? それに俺が当たりだっただけに次に外れる可能性考えると怖いだろうしね」
「おーお、言う言う。相楽って相当自信過剰だよなー」
小形が呆れ返って言うと、祐斗も横で笑った。
「こういう仕事してるとイヤでも自信は過剰になるんだよ。それよか昼飯くおーぜ」
ショッピングモールに入ってすぐの場所にあるファーストフード店を指差した和巳に、三人も従ったのだった。
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