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「まあ、さ。でも仕事以外じゃったらぶっとい声ってええんじゃないん? 俺声変わりまだじゃし、羨ましいかも」
「祐斗はその声の方が似合ってるよ」
笑いながら言われ、少しムっとする。暗に“かわいい”とからかわれたようで。
しかしそこで怒るのも、和巳が自分のことを綺麗だと認めているのがオトナっぽいだけに、自分の子供っぽさを強調するようで、ただムクれるくらいしかできない。
黙りこんだ祐斗の横で和巳は笑っていたけれど、その雰囲気はしかし全然嫌味な感じではなく、打ち解けてきたからこそのくだけた空気を作り出すのに十分適していた。
そうして二人がただの同級生として会話をしてみると、和巳が母親の言いつけを守って喋らないというのはただの言い訳で、元来然程お喋りなタチではないのだろうと祐斗にもすぐわかった。
祐斗のくだらないお喋りもちゃんと聞いているように相槌をくれるし、その様子は話の聞き役としての役割を上手にこなしているのだ。
「……斎藤、だっけ?」
当たり障りのない会話を続けながら校舎を離れて校門まで来ると和巳がグランドに目を向けながら言った。
自分から話を振る、というのは珍しいが、その話題が視界に入った状況からだと祐斗にもすぐわかった。
「ん?」
校舎とグランドの間には国道があり、校門の辺りまで来てようやくグランドが見えるのだ。
そのグランドの片隅には弓道部が使用する的が設置されていて、数人がそれに向けて矢を放っていた。
「結構モテそうだな」
真剣な目で的を睨み、姿勢よく矢を射ている姿は他を寄せ付けない彼の性格がしっかりと現れており、その様子は女子生徒、特に下級生からは憧れの存在となっても不思議ではない。
「そうじゃね。背も高いし運動神経いいし、顔はそうでもないけどモテる男っぽい感じじゃけなあ」
実際にそんな感想を抱いたのは祐斗としては初めてである。
今まで気にして見たことなどなかったから。
「でも斎藤はあんまり愛想はよくないそ。むなっちはあいつの近所じゃけよう喋るけど、俺らは話しかけにくい。一匹狼って感じかなあ?」
「無口な男だな」
朝も目礼のみで、そういえばまだ声も聞いていない。
「おまえもああいうのんがタイプ?」
祐斗は思わず呟いて、
「はあ?」
と和巳に呆れ返られることになる。
「おまえ、ばか? オトコ相手にタイプもくそもあるかよ?」
ぶっとい――でも綺麗な低音の声で言われ、祐斗は少し赤くなった。
だめだ。初恋の子である、という事実が突然ひらめいてしまい、自分みたいな“かわいい”なんて形容詞を付けられてしまう男よりも、斎藤のようにいかにも男らしいオトコの方がいいのだろうか、なんてことを考えてしまった。
「おまえこそ、あのテの男には結構モテるんじゃないのか?」
「へ? 何で?」
きょとんと祐斗が首を傾げると、和巳は大きくため息を吐いた。
「……イヤミも通じないのか、このばかは……」
ぼそっと呟いた言葉を聞いて、ようやく祐斗はさっきの切り替えしなのだと気付く。
「も、いいさ。それより、今日は明日からの舞台の通し稽古やるんだけど、見に来るか?」
そんなボケから話を切り替えてくれた和巳に、祐斗は喜んで頷いたのだった。
「祐斗はその声の方が似合ってるよ」
笑いながら言われ、少しムっとする。暗に“かわいい”とからかわれたようで。
しかしそこで怒るのも、和巳が自分のことを綺麗だと認めているのがオトナっぽいだけに、自分の子供っぽさを強調するようで、ただムクれるくらいしかできない。
黙りこんだ祐斗の横で和巳は笑っていたけれど、その雰囲気はしかし全然嫌味な感じではなく、打ち解けてきたからこそのくだけた空気を作り出すのに十分適していた。
そうして二人がただの同級生として会話をしてみると、和巳が母親の言いつけを守って喋らないというのはただの言い訳で、元来然程お喋りなタチではないのだろうと祐斗にもすぐわかった。
祐斗のくだらないお喋りもちゃんと聞いているように相槌をくれるし、その様子は話の聞き役としての役割を上手にこなしているのだ。
「……斎藤、だっけ?」
当たり障りのない会話を続けながら校舎を離れて校門まで来ると和巳がグランドに目を向けながら言った。
自分から話を振る、というのは珍しいが、その話題が視界に入った状況からだと祐斗にもすぐわかった。
「ん?」
校舎とグランドの間には国道があり、校門の辺りまで来てようやくグランドが見えるのだ。
そのグランドの片隅には弓道部が使用する的が設置されていて、数人がそれに向けて矢を放っていた。
「結構モテそうだな」
真剣な目で的を睨み、姿勢よく矢を射ている姿は他を寄せ付けない彼の性格がしっかりと現れており、その様子は女子生徒、特に下級生からは憧れの存在となっても不思議ではない。
「そうじゃね。背も高いし運動神経いいし、顔はそうでもないけどモテる男っぽい感じじゃけなあ」
実際にそんな感想を抱いたのは祐斗としては初めてである。
今まで気にして見たことなどなかったから。
「でも斎藤はあんまり愛想はよくないそ。むなっちはあいつの近所じゃけよう喋るけど、俺らは話しかけにくい。一匹狼って感じかなあ?」
「無口な男だな」
朝も目礼のみで、そういえばまだ声も聞いていない。
「おまえもああいうのんがタイプ?」
祐斗は思わず呟いて、
「はあ?」
と和巳に呆れ返られることになる。
「おまえ、ばか? オトコ相手にタイプもくそもあるかよ?」
ぶっとい――でも綺麗な低音の声で言われ、祐斗は少し赤くなった。
だめだ。初恋の子である、という事実が突然ひらめいてしまい、自分みたいな“かわいい”なんて形容詞を付けられてしまう男よりも、斎藤のようにいかにも男らしいオトコの方がいいのだろうか、なんてことを考えてしまった。
「おまえこそ、あのテの男には結構モテるんじゃないのか?」
「へ? 何で?」
きょとんと祐斗が首を傾げると、和巳は大きくため息を吐いた。
「……イヤミも通じないのか、このばかは……」
ぼそっと呟いた言葉を聞いて、ようやく祐斗はさっきの切り替えしなのだと気付く。
「も、いいさ。それより、今日は明日からの舞台の通し稽古やるんだけど、見に来るか?」
そんなボケから話を切り替えてくれた和巳に、祐斗は喜んで頷いたのだった。
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