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060 怪しい雲行き

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 翌日、昨日のリハーサルが完璧だった事もあり何の心配もなく現場に入った。

 日曜夕方6時の本番に向けての準備、俺やスタッフ、カメラマンは午前中の内から現場に入っていて最終チェックをする。

 社長も本番は顔を出すとの事だったが急な用が入ったとかで来られない。

 「還流よ、すべてはお前にかかっているぞ」

 なんてプレッシャーの言葉だけ置いていくもんだから参ったよ。

 「雨木川さん、おはようございます、今日はよろしくお願いします」

 こちらこそよろしくお願いします、社長は来ないかわりに強力な助っ人が来てくれた、挨拶を交わしたのはこのネットを使っての生放送の話を持ってきてくれた劇団の団長でもある三島さんだ、彼がいることでプリフォーの演出など細かなところをサポートしてくれるので心強い、頼りになる存在だ。

 「今回はプリフォー主演のミュージカル風演劇は流れましたがあきらめてませんからね、内の団員と絡めて20名以上のキャストでいずれ挑戦しましょう」

 「ええ、その時はまたお世話になります」

 三島さんに今日の段取りを説明する、彼も社長同様最初にする教えてリル先生が今回の成功するかどうかの鍵を握っているという、久しぶりの人気番組の復活、それを見たさに視聴者が集まる、その後朗読、ダンスと繋ぎ新曲披露、この一連の流れが大切だと言うのだ。

 昨日のリハを見せたかったな、そうこうしているうちに時計の針も13時を指していたので昼食を摂りその後一息ついた辺りでリルとプリフォーが現場入りをする。

 「おーい、かえるー来たよー」

 臣が右手を振って駆け足で近づいてくる。

 「生徒役の皆はいつ頃来るんだっけ?」
 「16時過ぎだな、早い子は後二時間くらいしたら来るんじゃないのか?」
 「今日のタイムスケジュール教えて」

 臣に時間割が書かれた一枚紙を渡す。

 「本番一時間前に観覧者の方々が入って来るんだよね? 早くあいちゃんと香里奈ちゃんに会いたいなぁ」

 「わかったからここにいる関係者の皆さんに挨拶してきなさい」

 分かってる、そう言うとリルたちと共に数名のスタッフ、三島さんに挨拶を交わす。

 「還流、今日はよろしくね、セットも立派だし本番が楽しみだ」

 「ああ、しかし腹話術をやりながら生徒とのやり取りをするってのも大変だよな?」

 リルは腹話術用の環ちゃん人形を動かしながら
 「そんなことは無いでちゅ、ぼくちゃんが付いているから平気でちゅ」
 
 余裕の表情を見せてくれるので安心する。

 「マネージャー、時間まで新曲の振り付けなど再チェックしておきますね」

 リーダーの彗夏が最終チェックをしようと三人に声をかける。

 本番まで三時間を切ったか、こちらの準備は万端だ、後はぼちぼちリル先生の生徒が一人くらい来ても良い頃なんだがな・・・・。


 何だか嫌な予感がした、その思いが的中することになる、そう、本番が始まっても生徒達が全員集まることは無かったんだ。
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