上 下
46 / 78

046 練習、特訓、稽古の日々 その④

しおりを挟む
 「だからここはもっと早く! 表情が硬いよ、笑顔で!」



 彗夏がきつめに心に指導する、一時間程経ったので小休憩を入れる事にした、伊莉愛が彗夏を呼び出し心と離れる、俺は座り込んでいる心の側に行き話しかける。



 「演技では殆ど注意されることは無いけどダンスではだいぶしごかれているな」



 「人間得手不得手はありますよ、お芝居はつまずくことは無いのにこっちは大変です」



 「臣も心とどっこいどっこいだったのに今ではかなり上手くなっているな」



 「私がお芝居している間こっちで練習していたら上手くなるでしょう」



 「そうだな、練習量は嘘はつかないよな」



 「彗夏さんは元々ダンスが上手いから出来ない人の気持ちが分からないんですよ」



 「元々かどうかはわからないけどそれだけ躍り込んでいるんだろうな」



 「・・・・・・」



 美少女が急に黙り込む。



 「どうした?」



 「私、自分の事を棚上げしていますね、さっき車の中で言っていた事、出来ないのはプロとして失格とかやる気がないだけとか、今すごく恥ずかしいです・・・・」



 「そうか、それが分かっただけでも一つ成長した証拠じゃないかな」



 「そんなに早くは成長しません」



 落ち込んでいる美少女にアドバイスをする。



 「ダンスが好きだが上手く踊れない、そういう役を演じるような感じで練習してみろよ」



 「ダンスを踊る役ですか?」



 「そう、心じゃない人物を作りあげてその彼女が必死で練習するんだ」



 「私じゃない私・・・・そう考えると何だか面白そうですね」



 「だろ? 何事も楽しんで取り組めば上達も早いってもんだ」



 「還流さん、ありがとう、私やってみます」



 そう言うと美少女はスッと立ち上がる。



 「彗夏さーん、指導お願いします!」



 心の元気よく呼びかける声に笑顔で反応する彗夏、側にいた伊莉愛と臣も心配していたようだが心の表情を見て安心した顔をしている。



 練習再開後は先ほどとは打って変わって心の動きが変化したのが俺だけでなく教えている彗夏もわかったようだ。



 「休憩中何があったんだ? リズムとれてるぞ、テンポよく動けているじゃないか」



 「そうですか? 還流さ・・、マネージャーさんのアドバイスのおかげです」



 「・・・・へぇ~、どんなアドバイスしたんですかー、マネージャー」



 彗夏が不敵な笑みを浮かべ聞いてくる。



 「演技を楽しむようにダンスも楽しめば、的な感じかな」


 「ふーん」


 「何だよ」


 「別に~」



 その後四人で合わせて細かな点を修正し何とか来週の本番で披露できるレベルにまで到達した、そしてとうとう本番の日がやって来た。
しおりを挟む

処理中です...