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天使編
魔王討伐 その2
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「援護をお願い!」
とだけマオ・シエンに頼み、エーデルワイスはドラゴンに変化した魔王に向かい駆ける。
重たい鎧を物ともしない姿は、さすが勇者としか言いようがない。
エーデルワイスが首から下げたペンダントから水銀を思わせる液体が溢れ出し、長方形に形を変え、宙に浮かぶ足場へと変化する。
魔王との距離を詰めながら、足場から足場へと軽快に飛び乗り更に高所へ登ってゆく。
通過した足場はペンダントへ吸収され、新たな足場として形作られる。
ドラゴンはちょこまかと動くハエを目で捉え、息を吸い込む。
ただの呼吸が夜嵐のように強烈で、数多の火の粉が死者の魂の如く登る。
「援護か……良いだろう」
マオ・シエンは奴の左目へ銃口を向け引き金を引く。
巨大なドラゴンにとっては拳銃の弾など微細なゴミでしかない。目潰しなどの効果は期待できないだろう。
だが、『 变化轨道』ならば目潰し以上の事が可能。
今度は軌道ではなく弾丸の性質を変えるようイメージする。
『着弾した途端に爆破する』……と。
弾丸が見事に左目に着弾し、イメージ通りの爆破を起こした。
無防備な目にダメージを負ったドラゴンは、目から鮮やかな緑色の体液を噴き出し尋常ならざる咆哮を上げる。
「グオォォォォォォォォォ……!!」
「キャアァッ!!」
地底よりも低い叫び声を間近で聞いた勇者エーデルワイスは耳を貫かれ、その場にへたり込む。
鮮やかな赤が両耳から頬を伝い、1本の線を描く。
(いや……こんなところで負けてられない!)
魔王に敗北するなど、勇者としての矜持が許さない。
魔王は明後日の方向を向き火炎を吐き始めた。
天井が、壁が、床が。
灼熱の猛攻を受けて、焼けて、燃えて、溶けてゆく。
このまま玉座に留まれば、エーデルワイスもマオ・シエンもヴァルハラで戦友と再会する事となるだろう。
勝負は一瞬で決まる。
全ては聖剣を携えたエーデルワイスにかかっているのだ。
マオ・シエンは恐るべき銃の腕で、奴の口内へ弾丸を撃ち込む。
弾丸が爆破し魔王の顎が砕け落ちた。
口や鼻があった場所に、大小様々な3つの穴が開き、そこから滝の如く体液が溢れ出す。
奴が口を押さえ悶えている間に、エーデルワイスは奴の頭上まで登った。
鞘から抜かれた聖剣の刀身が、炎に照らされ緋に染まる。
エーデルワイスの頬から汗が伝い落ちた。そして……
足場から奴の頭を目掛けて飛び降りた!
彼女の瞳に恐怖の色は一切浮かんでいない。
全ては、この世界の人々の為に!
「ヤァーーッ!!」
勇者が慣性の法則を利用し奴の頭へ聖剣を突き刺した!
聖なる光が放たれ、閃光の如く辺りを一瞬だけ眩く照らした。
強靭であるはずの頭蓋骨を最も容易く貫く事ができたのは、聖剣の力と勇者の力量が合わさったから。
エーデルワイスは刀身を奴の頭から抜き、流麗な動作で体液を振り払い鞘へ納めた。
まるで一瞬だけ時が止められたかのような静寂を破ったのは、ドラゴンの死骸だった。
緑色の体液が、噴水のように勢い良く噴き出す。
エーデルワイスは雨の如く降る体液を浴びた。
ドラゴンの体が、ぐらり。と揺れ、倒れてゆく。
エーデルワイスは奴の頭から飛び降り、重力に逆らう事無く落ち続ける。
ペンダントから水銀の糸が現れ、編まれ、ネットを作り出し、地面スレスレでエーデルワイスの体を受け止めた。
轟音と共に砂埃が立ち登る。
ドラゴンの体が焼け爛れてゆき、やがて灰となり消えてしまった。
「……心配するまでもなかったか」
走り寄ったマオ・シエンは、ネットの上で仰臥する彼女を見下ろした。
彼の表情こそ鉄仮面のように動かないが、心の中では安堵している……そのような声色だった。
話しかけられたエーデルワイスは鼓膜が破れている為、彼が何を言っているのか聞き取れず一瞬だけ顔を顰めた。
「……ん? どうした……耳を怪我しているのか」
マオ・シエンは彼女の耳に手を伸ばす。
「あの咆哮のせいか」
何を言っているのか想像しながら、エーデルワイスはどこか得意げに微笑む。
「心配には及ばないわ。どんな傷でも治すポーションをいくつか持って来ているの」
「ぽー……?」
エーデルワイスが腰に付けている小さなバッグの中を漁る傍らで、マオ・シエンは再び聞き慣れない言葉を耳にし顎に手を当てる。
彼女が取り出したのは小瓶で、緑色の液体が中で揺らめいている。
エーデルワイスはそれを躊躇いなく一気に飲み干した。
すると、彼女の両耳が淡い光に包まれ、破れた鼓膜がみるみるうちに治った。
ようやくネットから起き上がり、辺りを見回す。
天井や壁が焼け落ちた為、あたりの景色が一望できる。
どこまでも限りなく広がる荒野。
曇天が徐々に消え、何筋もの日光が地面を照らし始めている。
それは暗澹たる時代の終焉を告げる福音のよう。
……あぁ。
これでこの世界にも平和が訪れるのだ。
エーデルワイスはこの瞬間が堪らなく好きなのだ。
世界を救ったんだ。という形容し難い感情。
達成感、安堵感、実感、疲労感……などなど。
それら全てが混ざり合い、エーデルワイスの肩にそっとのしかかる。
「……さぁ、外で待機しているあの人の所に戻りましょうか」とエーデルワイスはマオ・シエンに手を伸ばす。
マオ・シエンは彼女の手を取った。
そして、あの人に渡された転送用ボタンを押すと、2人の体が光に包まれ何処かへと消えてしまった。
とだけマオ・シエンに頼み、エーデルワイスはドラゴンに変化した魔王に向かい駆ける。
重たい鎧を物ともしない姿は、さすが勇者としか言いようがない。
エーデルワイスが首から下げたペンダントから水銀を思わせる液体が溢れ出し、長方形に形を変え、宙に浮かぶ足場へと変化する。
魔王との距離を詰めながら、足場から足場へと軽快に飛び乗り更に高所へ登ってゆく。
通過した足場はペンダントへ吸収され、新たな足場として形作られる。
ドラゴンはちょこまかと動くハエを目で捉え、息を吸い込む。
ただの呼吸が夜嵐のように強烈で、数多の火の粉が死者の魂の如く登る。
「援護か……良いだろう」
マオ・シエンは奴の左目へ銃口を向け引き金を引く。
巨大なドラゴンにとっては拳銃の弾など微細なゴミでしかない。目潰しなどの効果は期待できないだろう。
だが、『 变化轨道』ならば目潰し以上の事が可能。
今度は軌道ではなく弾丸の性質を変えるようイメージする。
『着弾した途端に爆破する』……と。
弾丸が見事に左目に着弾し、イメージ通りの爆破を起こした。
無防備な目にダメージを負ったドラゴンは、目から鮮やかな緑色の体液を噴き出し尋常ならざる咆哮を上げる。
「グオォォォォォォォォォ……!!」
「キャアァッ!!」
地底よりも低い叫び声を間近で聞いた勇者エーデルワイスは耳を貫かれ、その場にへたり込む。
鮮やかな赤が両耳から頬を伝い、1本の線を描く。
(いや……こんなところで負けてられない!)
魔王に敗北するなど、勇者としての矜持が許さない。
魔王は明後日の方向を向き火炎を吐き始めた。
天井が、壁が、床が。
灼熱の猛攻を受けて、焼けて、燃えて、溶けてゆく。
このまま玉座に留まれば、エーデルワイスもマオ・シエンもヴァルハラで戦友と再会する事となるだろう。
勝負は一瞬で決まる。
全ては聖剣を携えたエーデルワイスにかかっているのだ。
マオ・シエンは恐るべき銃の腕で、奴の口内へ弾丸を撃ち込む。
弾丸が爆破し魔王の顎が砕け落ちた。
口や鼻があった場所に、大小様々な3つの穴が開き、そこから滝の如く体液が溢れ出す。
奴が口を押さえ悶えている間に、エーデルワイスは奴の頭上まで登った。
鞘から抜かれた聖剣の刀身が、炎に照らされ緋に染まる。
エーデルワイスの頬から汗が伝い落ちた。そして……
足場から奴の頭を目掛けて飛び降りた!
彼女の瞳に恐怖の色は一切浮かんでいない。
全ては、この世界の人々の為に!
「ヤァーーッ!!」
勇者が慣性の法則を利用し奴の頭へ聖剣を突き刺した!
聖なる光が放たれ、閃光の如く辺りを一瞬だけ眩く照らした。
強靭であるはずの頭蓋骨を最も容易く貫く事ができたのは、聖剣の力と勇者の力量が合わさったから。
エーデルワイスは刀身を奴の頭から抜き、流麗な動作で体液を振り払い鞘へ納めた。
まるで一瞬だけ時が止められたかのような静寂を破ったのは、ドラゴンの死骸だった。
緑色の体液が、噴水のように勢い良く噴き出す。
エーデルワイスは雨の如く降る体液を浴びた。
ドラゴンの体が、ぐらり。と揺れ、倒れてゆく。
エーデルワイスは奴の頭から飛び降り、重力に逆らう事無く落ち続ける。
ペンダントから水銀の糸が現れ、編まれ、ネットを作り出し、地面スレスレでエーデルワイスの体を受け止めた。
轟音と共に砂埃が立ち登る。
ドラゴンの体が焼け爛れてゆき、やがて灰となり消えてしまった。
「……心配するまでもなかったか」
走り寄ったマオ・シエンは、ネットの上で仰臥する彼女を見下ろした。
彼の表情こそ鉄仮面のように動かないが、心の中では安堵している……そのような声色だった。
話しかけられたエーデルワイスは鼓膜が破れている為、彼が何を言っているのか聞き取れず一瞬だけ顔を顰めた。
「……ん? どうした……耳を怪我しているのか」
マオ・シエンは彼女の耳に手を伸ばす。
「あの咆哮のせいか」
何を言っているのか想像しながら、エーデルワイスはどこか得意げに微笑む。
「心配には及ばないわ。どんな傷でも治すポーションをいくつか持って来ているの」
「ぽー……?」
エーデルワイスが腰に付けている小さなバッグの中を漁る傍らで、マオ・シエンは再び聞き慣れない言葉を耳にし顎に手を当てる。
彼女が取り出したのは小瓶で、緑色の液体が中で揺らめいている。
エーデルワイスはそれを躊躇いなく一気に飲み干した。
すると、彼女の両耳が淡い光に包まれ、破れた鼓膜がみるみるうちに治った。
ようやくネットから起き上がり、辺りを見回す。
天井や壁が焼け落ちた為、あたりの景色が一望できる。
どこまでも限りなく広がる荒野。
曇天が徐々に消え、何筋もの日光が地面を照らし始めている。
それは暗澹たる時代の終焉を告げる福音のよう。
……あぁ。
これでこの世界にも平和が訪れるのだ。
エーデルワイスはこの瞬間が堪らなく好きなのだ。
世界を救ったんだ。という形容し難い感情。
達成感、安堵感、実感、疲労感……などなど。
それら全てが混ざり合い、エーデルワイスの肩にそっとのしかかる。
「……さぁ、外で待機しているあの人の所に戻りましょうか」とエーデルワイスはマオ・シエンに手を伸ばす。
マオ・シエンは彼女の手を取った。
そして、あの人に渡された転送用ボタンを押すと、2人の体が光に包まれ何処かへと消えてしまった。
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