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アクマ編
死へと誘う悪魔の囁き
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ここはエアレザにある学校の屋上だ。
立ち入りを禁じられているこの場所に立つ1つの影。
ロウリーの担任であるガゼル先生だ。
彼は落下防止用の柵に手を掛けタバコを吸っている。
物憂げな瞳を澄んだ青空に向け、タバコの複雑な香りに身を任せていた。
(ランドールの葬式が終わってから、何日経ったんだっけ)
彼の心は誰にも分かるまい。
親友とも呼ぶべき2人を一気に失ったのだ。
命の恩人でもあるランドールと、初めて異性としての好意を抱いたエルア。
何故、彼らが命を奪われたのか。
1つだけ心当たりがある。
あぁ……
このまま落ちれば楽になれるのかな……
「……いやいやいやいや! 何考えてんだ俺は……!」
そもそも屋上から飛び降りた程度で死ぬ程、アクマは脆くない。
シガレットに口を付け息を吸い込むと、灰の中で真っ赤な火がホタルのように淡く光る。
屋上のドアが開かれる音が聞こえ、ガゼルは目を見開き振り返った。
「……なんだ、ロウリーか。他の先生か不良かと思ったわ」
制服を着たロウリーはガゼルの隣に立つ。
「お前、しばらく外出ない方がいいぞ」
「話が終わったらすぐ帰るよ」
西洋人形のように整った目には、泣き腫らした跡が薄らと残っている。
「何で俺がここにいるって分かったんだよ」
「何かあると屋上に逃げ込む癖があるからさ。どーせここにいると思ったんだ」
ガゼルは唸り、露骨に話題を逸らそうとする。
「さっきも言ったが、お前はしばらく家から出ない方が良い」
理由は勿論、ランドールの関係者だから。
「何故ランドール一家が殺されたのか……なかなかできる事じゃない。アクマを3人まとめて殺すなんてな」
「いや、4人だ」
恨めしげにロウリーは言い放つ。
「……悪かった。そうだな、4人だ」
ガゼルは自身の発言に後悔しながら新しいタバコに火を点けた。
「もし……もしだぞ。ランドールを狙った理由が世界大戦の事についてだったら」
生徒の顔をそっと覗き込む。
心の底からロウリーの事を思い憂色を濃くする。
「次に狙われるのはお前だ、ロウリー」
歴史の教科書にも出てくる「2人の英雄」という簡単な単語。
その陰には2人のアクマが潜んでいる。
1人はランドール。
そしてもう1人は……
ソルダードを筆頭とする恐るべき兵器の原動力であるコアを造り出した張本人は。
「そうだな、俺だ」
ロウリーは幼い頃から「魔道具」という存在に強く惹かれ、親に頼み込んで魔道具についての本を買ってもらうなどして勉強していた。
人間にとっては永遠とも呼べる時の中。飽きる事無く知識を求め続けた少年は、やがて魔導学者と同等の知識を手に入れた。
その知識が最悪の魔道具であるコアを産み出したのだ。
「だったらこんなトコにノコノコ来るんじゃねー!」
怒鳴り声に動揺する事無く、ロウリーは話し続けた。
「俺さ、しばらくエアレザから離れて実家に帰ろうと思ってんだ。その前に、どうしても先生に会いたかったんだ」
「アンタの事が心配だったんだよ」と、ロウリーは更に続ける。
「皆の後を追おうなんて考えてるんじゃねぇかと思ってさ」
「まさか」とガゼルは笑い飛ばしてみせたが、心の奥底では彼の勘の良さに怯えていた。
「俺がそんな事思う訳ないだろぉ?」
ガゼルはタバコの火を消す。
「思いそうだから言ってんだ。そうじゃないなら良いんだけどさ」
ロウリーはガゼルの側から離れ、踵を返す。
「じゃ、俺帰るから」
「待て。家まで送る」
ロウリーは立ち止まり振り返る。
「授業に間に合わなくなるぞ?」
「知ったこっちゃねー。先生の一番大切な仕事は授業をする事じゃねーんだ。生徒の安全を守る事なんだよ」
(……ガゼルらしい)
ロウリーは鼻で笑う。
「何だよ、何がおもしれーんだよ」
眉に皺を寄せたガゼルに「何でもない」とロウリーは返した。
立ち入りを禁じられているこの場所に立つ1つの影。
ロウリーの担任であるガゼル先生だ。
彼は落下防止用の柵に手を掛けタバコを吸っている。
物憂げな瞳を澄んだ青空に向け、タバコの複雑な香りに身を任せていた。
(ランドールの葬式が終わってから、何日経ったんだっけ)
彼の心は誰にも分かるまい。
親友とも呼ぶべき2人を一気に失ったのだ。
命の恩人でもあるランドールと、初めて異性としての好意を抱いたエルア。
何故、彼らが命を奪われたのか。
1つだけ心当たりがある。
あぁ……
このまま落ちれば楽になれるのかな……
「……いやいやいやいや! 何考えてんだ俺は……!」
そもそも屋上から飛び降りた程度で死ぬ程、アクマは脆くない。
シガレットに口を付け息を吸い込むと、灰の中で真っ赤な火がホタルのように淡く光る。
屋上のドアが開かれる音が聞こえ、ガゼルは目を見開き振り返った。
「……なんだ、ロウリーか。他の先生か不良かと思ったわ」
制服を着たロウリーはガゼルの隣に立つ。
「お前、しばらく外出ない方がいいぞ」
「話が終わったらすぐ帰るよ」
西洋人形のように整った目には、泣き腫らした跡が薄らと残っている。
「何で俺がここにいるって分かったんだよ」
「何かあると屋上に逃げ込む癖があるからさ。どーせここにいると思ったんだ」
ガゼルは唸り、露骨に話題を逸らそうとする。
「さっきも言ったが、お前はしばらく家から出ない方が良い」
理由は勿論、ランドールの関係者だから。
「何故ランドール一家が殺されたのか……なかなかできる事じゃない。アクマを3人まとめて殺すなんてな」
「いや、4人だ」
恨めしげにロウリーは言い放つ。
「……悪かった。そうだな、4人だ」
ガゼルは自身の発言に後悔しながら新しいタバコに火を点けた。
「もし……もしだぞ。ランドールを狙った理由が世界大戦の事についてだったら」
生徒の顔をそっと覗き込む。
心の底からロウリーの事を思い憂色を濃くする。
「次に狙われるのはお前だ、ロウリー」
歴史の教科書にも出てくる「2人の英雄」という簡単な単語。
その陰には2人のアクマが潜んでいる。
1人はランドール。
そしてもう1人は……
ソルダードを筆頭とする恐るべき兵器の原動力であるコアを造り出した張本人は。
「そうだな、俺だ」
ロウリーは幼い頃から「魔道具」という存在に強く惹かれ、親に頼み込んで魔道具についての本を買ってもらうなどして勉強していた。
人間にとっては永遠とも呼べる時の中。飽きる事無く知識を求め続けた少年は、やがて魔導学者と同等の知識を手に入れた。
その知識が最悪の魔道具であるコアを産み出したのだ。
「だったらこんなトコにノコノコ来るんじゃねー!」
怒鳴り声に動揺する事無く、ロウリーは話し続けた。
「俺さ、しばらくエアレザから離れて実家に帰ろうと思ってんだ。その前に、どうしても先生に会いたかったんだ」
「アンタの事が心配だったんだよ」と、ロウリーは更に続ける。
「皆の後を追おうなんて考えてるんじゃねぇかと思ってさ」
「まさか」とガゼルは笑い飛ばしてみせたが、心の奥底では彼の勘の良さに怯えていた。
「俺がそんな事思う訳ないだろぉ?」
ガゼルはタバコの火を消す。
「思いそうだから言ってんだ。そうじゃないなら良いんだけどさ」
ロウリーはガゼルの側から離れ、踵を返す。
「じゃ、俺帰るから」
「待て。家まで送る」
ロウリーは立ち止まり振り返る。
「授業に間に合わなくなるぞ?」
「知ったこっちゃねー。先生の一番大切な仕事は授業をする事じゃねーんだ。生徒の安全を守る事なんだよ」
(……ガゼルらしい)
ロウリーは鼻で笑う。
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