善と悪は紙一重

オキテ

文字の大きさ
上 下
25 / 40
アクマ編

月光に包まれて

しおりを挟む
「ぜぇ……ぜぇ……」

 自分の呼吸がうるさい。

 これではまるで豚のようだ。

 魔法の力にかまけて自らの肉体を鍛える事を忘れた代償か。

 だが、ある疑惑がマティウスの体を動かす原動力となる。

(……いや、こんなのは、ただの思い過ごしなのだ)

 唾棄すべき妄想。

(思い過ごしだ……ただの、ちっぽけな思い過ごし!)

 自分の想像がランドールに知られれば、殴られてしまうだろう。

(あの男が守ってくれているはずなのだ!)

   ***

 これは過去の話だ。

 月光が差し込むモンスター討伐屋『黒い仮面』にて。

「何!? ……ランドールが?」

 来客用ソファに腰掛けていたマティウスは、椅子を蹴るように立ち上がる。

「落ち着きたまえ、マティウス君」

 手を伸ばしマティウスを宥めたのは、黒髪をオールバックにしてスーツを着こなした男ゲッペルスだ。

「だからこそ私が来たのだよ」

 戸惑いを隠せず何度か足踏みするマティウスに、ゲッペルスは視線を真っ直ぐ向ける。

 マティウスを値踏みしているかのような、鋭い視線。


「まさかこの世界で暮らしている天使がいるとは思っていなかったよ……マティウス君」


 マティウスは鼻を鳴らしソファに再びドカリと腰を降ろす。

 この男は、アクマではない。

 仲間にすら正体を隠した偽りの天使。それがマティウスだ。

「悪魔狩りはランドールを危険だと考えておるのか?」

 ゲッペルスは頷く。

「人間と悪魔を繋いだんだ……狙われるのも無理はない」

 マティウスは嗤笑ししょうする。

「あの男が人と悪魔を繋いだキッカケを教えてやろうか? あの男はな、自分の妻を人間から守る為だけに、かつて国だったモルゲンレーテと手を組んだのだ」

 「1人を守る為だけに! 千人もの人間を殺したのだ!」とマティウスは吐き捨てた。

「貴様にも分かるであろう? 生前、1人くらいは大切な者がいたのだろう? もし、大切な人1人と千人の他人の命……どちらを救うかを選ばされた時。貴様ならどうする?」

 ゲッペルスは一考してからゆっくりと口を開く。

「……私だったら大切な人を選ぶよ。それが人として正解なのかは分からないが、私ならば……そうするだろう」

 正義の味方としては、大人数を助ける事が正解なのかもしれない。

(だが、そうだとしても)

 ゲッペルスの脳裏に最も大切だった人の笑顔が浮かぶ。

「ランドールも貴様と同じ答えを出した。その結果が今のモルゲンレーテだ。モンスターはいるが、この世界は平和そのものである。……これ以上口を出すと容赦せんぞ」

 マティウスの背後から魔法で作り出した禍々しい霧のようなオーラが現れる。

「口どころか手を出される一歩手前なのだよ。とにかく、落ち着きたまえ」


 長い話し合いの結果、2人の間で協力関係が結ばれる。

 対悪魔狩りとしてチームを組んだのだ。

 ゲッペルスは聖域から悪魔狩りを監視する。

 マティウスはモルゲンレーテで仲間を守る。

 マキタを仲間として迎えた時、ゲッペルスはこう思った。


『よし、これで2の仲間だ』


 マキタの前に仲間になった者こそマティウスだったのだ。

   ***

「ぜぇ……ぜぇ……」

 『今、街を襲っているのは陽動作戦の為に造られた大型兵器』

 もし、その仮説が本当だったとしたら?

 『いくら世界大戦時代の資料を漁っても、この兵器の特徴と合う兵器は見つからなかった』

 もし、奴がこの世界の兵器ではなかったら?


 もしも。

 単に皆の注意を引く為だけに、悪魔狩りが用意した兵器だったなら?


 そうなると1番危険なのは、ランドールの身内だ。

 彼がいない今、彼女達には頼れる存在がいない。

 だからこそ、口にするにも悍ましい下衆な考えが頭に浮かぶのだ。

 ランドールがいないうちに、彼女達を攫ったのではあるまいか。

 そして、彼女達と引き換えにランドールの命を要求するのではあるまいか。

(……いや、モルゲンレーテの神フェリスならば……そのような暴挙に出るはずはない……そうであってくれ、フェリス)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)

幻田恋人
恋愛
 夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。  でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。  親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。  童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。  許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…  僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…

処理中です...