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アクマ編
月光に包まれて
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「ぜぇ……ぜぇ……」
自分の呼吸がうるさい。
これではまるで豚のようだ。
魔法の力にかまけて自らの肉体を鍛える事を忘れた代償か。
だが、ある疑惑がマティウスの体を動かす原動力となる。
(……いや、こんなのは、ただの思い過ごしなのだ)
唾棄すべき妄想。
(思い過ごしだ……ただの、ちっぽけな思い過ごし!)
自分の想像がランドールに知られれば、殴られてしまうだろう。
(あの男が守ってくれているはずなのだ!)
***
これは過去の話だ。
月光が差し込むモンスター討伐屋『黒い仮面』にて。
「何!? ……ランドールが?」
来客用ソファに腰掛けていたマティウスは、椅子を蹴るように立ち上がる。
「落ち着きたまえ、マティウス君」
手を伸ばしマティウスを宥めたのは、黒髪をオールバックにしてスーツを着こなした男ゲッペルスだ。
「だからこそ私が来たのだよ」
戸惑いを隠せず何度か足踏みするマティウスに、ゲッペルスは視線を真っ直ぐ向ける。
マティウスを値踏みしているかのような、鋭い視線。
「まさかこの世界で暮らしている天使がいるとは思っていなかったよ……マティウス君」
マティウスは鼻を鳴らしソファに再びドカリと腰を降ろす。
この男は、アクマではない。
仲間にすら正体を隠した偽りの天使。それがマティウスだ。
「悪魔狩りはランドールを危険だと考えておるのか?」
ゲッペルスは頷く。
「人間と悪魔を繋いだんだ……狙われるのも無理はない」
マティウスは嗤笑する。
「あの男が人と悪魔を繋いだキッカケを教えてやろうか? あの男はな、自分の妻を人間から守る為だけに、かつて国だったモルゲンレーテと手を組んだのだ」
「1人を守る為だけに! 千人もの人間を殺したのだ!」とマティウスは吐き捨てた。
「貴様にも分かるであろう? 生前、1人くらいは大切な者がいたのだろう? もし、大切な人1人と千人の他人の命……どちらを救うかを選ばされた時。貴様ならどうする?」
ゲッペルスは一考してからゆっくりと口を開く。
「……私だったら大切な人を選ぶよ。それが人として正解なのかは分からないが、私ならば……そうするだろう」
正義の味方としては、大人数を助ける事が正解なのかもしれない。
(だが、そうだとしても)
ゲッペルスの脳裏に最も大切だった人の笑顔が浮かぶ。
「ランドールも貴様と同じ答えを出した。その結果が今のモルゲンレーテだ。モンスターはいるが、この世界は平和そのものである。……これ以上口を出すと容赦せんぞ」
マティウスの背後から魔法で作り出した禍々しい霧のようなオーラが現れる。
「口どころか手を出される一歩手前なのだよ。とにかく、落ち着きたまえ」
長い話し合いの結果、2人の間で協力関係が結ばれる。
対悪魔狩りとしてチームを組んだのだ。
ゲッペルスは聖域から悪魔狩りを監視する。
マティウスはモルゲンレーテで仲間を守る。
マキタを仲間として迎えた時、ゲッペルスはこう思った。
『よし、これで2人目の仲間だ』
マキタの前に仲間になった者こそマティウスだったのだ。
***
「ぜぇ……ぜぇ……」
『今、街を襲っているのは陽動作戦の為に造られた大型兵器』
もし、その仮説が本当だったとしたら?
『いくら世界大戦時代の資料を漁っても、この兵器の特徴と合う兵器は見つからなかった』
もし、奴がこの世界の兵器ではなかったら?
もしも。
単に皆の注意を引く為だけに、悪魔狩りが用意した兵器だったなら?
そうなると1番危険なのは、ランドールの身内だ。
彼がいない今、彼女達には頼れる存在がいない。
だからこそ、口にするにも悍ましい下衆な考えが頭に浮かぶのだ。
ランドールがいないうちに、彼女達を攫ったのではあるまいか。
そして、彼女達と引き換えにランドールの命を要求するのではあるまいか。
(……いや、モルゲンレーテの神フェリスならば……そのような暴挙に出るはずはない……そうであってくれ、フェリス)
自分の呼吸がうるさい。
これではまるで豚のようだ。
魔法の力にかまけて自らの肉体を鍛える事を忘れた代償か。
だが、ある疑惑がマティウスの体を動かす原動力となる。
(……いや、こんなのは、ただの思い過ごしなのだ)
唾棄すべき妄想。
(思い過ごしだ……ただの、ちっぽけな思い過ごし!)
自分の想像がランドールに知られれば、殴られてしまうだろう。
(あの男が守ってくれているはずなのだ!)
***
これは過去の話だ。
月光が差し込むモンスター討伐屋『黒い仮面』にて。
「何!? ……ランドールが?」
来客用ソファに腰掛けていたマティウスは、椅子を蹴るように立ち上がる。
「落ち着きたまえ、マティウス君」
手を伸ばしマティウスを宥めたのは、黒髪をオールバックにしてスーツを着こなした男ゲッペルスだ。
「だからこそ私が来たのだよ」
戸惑いを隠せず何度か足踏みするマティウスに、ゲッペルスは視線を真っ直ぐ向ける。
マティウスを値踏みしているかのような、鋭い視線。
「まさかこの世界で暮らしている天使がいるとは思っていなかったよ……マティウス君」
マティウスは鼻を鳴らしソファに再びドカリと腰を降ろす。
この男は、アクマではない。
仲間にすら正体を隠した偽りの天使。それがマティウスだ。
「悪魔狩りはランドールを危険だと考えておるのか?」
ゲッペルスは頷く。
「人間と悪魔を繋いだんだ……狙われるのも無理はない」
マティウスは嗤笑する。
「あの男が人と悪魔を繋いだキッカケを教えてやろうか? あの男はな、自分の妻を人間から守る為だけに、かつて国だったモルゲンレーテと手を組んだのだ」
「1人を守る為だけに! 千人もの人間を殺したのだ!」とマティウスは吐き捨てた。
「貴様にも分かるであろう? 生前、1人くらいは大切な者がいたのだろう? もし、大切な人1人と千人の他人の命……どちらを救うかを選ばされた時。貴様ならどうする?」
ゲッペルスは一考してからゆっくりと口を開く。
「……私だったら大切な人を選ぶよ。それが人として正解なのかは分からないが、私ならば……そうするだろう」
正義の味方としては、大人数を助ける事が正解なのかもしれない。
(だが、そうだとしても)
ゲッペルスの脳裏に最も大切だった人の笑顔が浮かぶ。
「ランドールも貴様と同じ答えを出した。その結果が今のモルゲンレーテだ。モンスターはいるが、この世界は平和そのものである。……これ以上口を出すと容赦せんぞ」
マティウスの背後から魔法で作り出した禍々しい霧のようなオーラが現れる。
「口どころか手を出される一歩手前なのだよ。とにかく、落ち着きたまえ」
長い話し合いの結果、2人の間で協力関係が結ばれる。
対悪魔狩りとしてチームを組んだのだ。
ゲッペルスは聖域から悪魔狩りを監視する。
マティウスはモルゲンレーテで仲間を守る。
マキタを仲間として迎えた時、ゲッペルスはこう思った。
『よし、これで2人目の仲間だ』
マキタの前に仲間になった者こそマティウスだったのだ。
***
「ぜぇ……ぜぇ……」
『今、街を襲っているのは陽動作戦の為に造られた大型兵器』
もし、その仮説が本当だったとしたら?
『いくら世界大戦時代の資料を漁っても、この兵器の特徴と合う兵器は見つからなかった』
もし、奴がこの世界の兵器ではなかったら?
もしも。
単に皆の注意を引く為だけに、悪魔狩りが用意した兵器だったなら?
そうなると1番危険なのは、ランドールの身内だ。
彼がいない今、彼女達には頼れる存在がいない。
だからこそ、口にするにも悍ましい下衆な考えが頭に浮かぶのだ。
ランドールがいないうちに、彼女達を攫ったのではあるまいか。
そして、彼女達と引き換えにランドールの命を要求するのではあるまいか。
(……いや、モルゲンレーテの神フェリスならば……そのような暴挙に出るはずはない……そうであってくれ、フェリス)
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