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アクマ編
未確認兵器 その1
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モルゲンレーテの時はゆっくりと流れた。
皆が、特に危険に脅かされる事なく過ごしていた。
エアレザ警察署モンスター対策課は常に辺りを警戒し、モンスターの襲来に備えている。
ロウリーは相変わらず人間に混じり学校に通っているようだが、自分と何もかも違う者達と過ごす事が苦手なようだった。
ガゼルは何とかロウリーが周りに溶け込めるよう努力しているらしい。
マティウスは学校へ通うロウリーの為に毎日弁当を用意し、仕事が無い日はアルバイトをこなしている。
皆が変わらずに過ごしていた。
そのような中、ランドールは少しだけ変わった。
仕事を休み、家族と共に過ごす事が多くなった。
というのも、エルアが第2子を授かったから。
マティウスとロウリー、ガゼルは知らせを聞き、大いに喜んだ。
特にロウリーは兄弟ができた子供のように喜んだ。
その中で唯一、ランドールだけが嬉しいような、不安なような表情を浮かべていた。
「今はエルアさんの側にいてやれ。む? 仕事は大丈夫なのかだと? バカ者め、貴様らしくない。仕事なら暇な警官にでも押し付けるから大丈夫である」
とマティウスに背中を押された為、ランドールは1日のほとんどをエルアと共に過ごしていた。
そんな中での、出来事だった。
***
「ーーそれで、フェリス様はーーとーー」
ここはロウリーが通う学校の教室。
今、ちょうど担任でもあるガゼル先生による歴史の授業が行われているのだが、ロウリーは既に意識を失いそうになっていた。
やがて目の前の物がぼんやりと輪郭を失い、意識が……
警報音が教室にいた全員の耳を貫く!
意識が強制的に現実に戻されたロウリーの体がビクンと跳ねる。
生徒達がどよめく中、
「また緊急討伐か……よし、お前ら! 体育館に避難するぞ! 廊下で列を作れ!」
とガゼルが声を張り上げた。
生徒達は続々と教室から出て並び始める。
「……俺、行ってくるよ」
そのような中、唯一ロウリーだけが列に並ばず、ガゼルにこう告げた。
「多分、モンスター対策課が言っていた奴だ」
「図書館で散々調べてたやつか? ……で? 何のモンスターなのか分かったのか?」
ロウリーは悔しそうに首を横に振る。
「どのモンスターとも特徴が合わなかった」
事態は深刻だ。
これから得体の知れないモンスターを相手にしなくてはならない。
「じゃ、早く行かないといけねぇからーー」
「待て、ロウリー!」
ガゼルはロウリーの背に声を掛ける。
「絶対、無理はするなよ。一応、モンスター討伐屋の一員として、お前だけは例外として緊急討伐が起こった時は参加しても良いって事になってるけどよ……」
振り返ったロウリーの目を、ガゼルはまっすぐ捉えた。
「あくまでお前は俺の生徒なんだ。無理だと思ったら逃げるんだ」
モンスター討伐をした事がないガゼルにそのような事を言われたところで、ロウリーにとっては何の役にも立たない。
だが……「ありがとう」とだけ言っておく事にした。
***
ここはエアレザの西門だ。
堅牢な岩壁の上から街を見下ろし、モンスター対策課のレイは決意を固める。
「正義のヒーローになりたい」
子供の頃からの夢だった。
誰かを守れるような強い人間になりたいと願ったからこそ、彼は努力を重ね、この地位に就いた。
今こそ、街の人々を守るべき時。
「レイさん」
遠くから駆けて来たのは、ライフルを背負ったネクロだ。
「モンスター討伐屋も続々と西門に来ています。早速、ランドールさんが来ているのが見えましたよ」
マティウスとは違う意味で、レイはランドールの事も苦手だった。
昔、訓練としてランドールから稽古をつけてもらった事がある。
あの時は酷かった。
ある時は、ビトリーブという遠隔操作の呪文をかけられ身動きを取れなくされた上に、額に向かって木刀を投げられた。
またある時は、突然地面に蹲ったので心配して様子を見に近付いたら、木刀で頭を殴られた。
ランドール曰く「優しい奴から死んでいく」。
レイのように優しい人物は、すぐに戦場で命を落とすらしい。
確かに、奴の言い分にも一理ある。
モンスター……特に、コアを埋め込まれて造られた自律的に動くモンスターは、時々人間の意表を突くような挙動をとる事があるのだ。
だが、あまりにも卑怯な手を使うので、レイはランドールの事をあまり尊敬していない。
「ネクロ、敵の状況を確認してくれ」
ネクロは掛けていたメガネを外し、前髪を掻き上げた。
ネクロは目が悪くてメガネを掛けているのではなく、目が良すぎる為に日常に支障をきたすのでメガネを掛けているのだ。
恐ろしいが、本当の話だ。
「えー……未確認兵器との距離は約5,000。周りに飛行している小型兵器は……ざっと数えて10体」
「相変わらず凄えな」
「視力には自信ありますから。これでルーゼの顔もバッチリ見えます」
とネクロは親指を立ててサインする。
「こんな状況でそんな冗談言えるんなら、お前は大丈夫だな」
「えぇ、大丈夫ですよ。俺はいつも通りルーゼと行動します。俺らは小型兵器を狙えば良いですか?」
「そうだな……お前らは遠距離の敵を狙うのが得意だからな。頼む」
「了解」
ネクロはハシゴを降りて、地上にいるルーゼに声を掛ける。
「俺らはいつも通りやるぞ」
「うん」
「狙うのは小型兵器だ」
「遠距離から攻撃すれば良いんだね?」
「そうだ」
ネクロは小柄なルーゼの頭を優しく撫でた。
「相変わらず、ちっちゃくて可愛いな」
「『ちっちゃくて』は余計」
ルーゼは頬を膨らませる。
「って事は『可愛い』とは言って欲しいって事か? 可愛いよ、ルーゼ」
あぁ、なんでこんな奴に惚れちまったんだろう。
ルーゼはモヤモヤした感情を胸に秘めながら、彼の口付けを受け入れた。
「……ちょっぴり怒った顔も可愛いよ、ルーゼ」
「うるさい」
ルーゼはネクロの胸を軽く叩く。
***
ネクロとルーゼが出発した後の、エアレザを囲む堅牢な石壁の上にて。
「レイ、準備は良いね?」
いち早く到着していたランドールはレイに問う。
「はい。ロウリーさんの助言通り、モンスター討伐の準備を進めていましたから……武器の手入れはもちろん、日々の特訓にもより一層力を入れていました」
レイが指差した方にあるのは、等間隔に並べられた砲台。
「砲台の準備もできています。これで奴を仕留める予定です」
「最終兵器ってやつかな」
「いや……最終兵器はーー」
「待たせたな、2人とも」
黒づくめの仮面男マティウスがハシゴを登り顔を出す。
「最終兵器は、マティウスさんの魔法です」
「む? 何の話をしておるのだ?」
マティウスは小首を傾げた。
「マティウスさんは街の近隣で特大魔法の準備をお願いします」
特大魔法は、その名の通り通常の魔法より強力な効果を発揮する魔法だ。
必ず魔法陣を描かなければならない為、普通の魔法に比べ応用が効かずやや使い勝手が悪いのだが、それでもその効果に何度も救われた。
「む、あの魔法か……分かった。貴様の言う通りにしていよう」
ところで。とマティウスはレイの顔を見上げる。
「確か、貴様のところにいる魔法使いも特大魔法が使えたはずだな? 何故その者に頼まない」
「ルーゼさんですか」
レイは遥か遠方を見渡す。
「ルーゼさんは、ネクロと共に行動させた方が強いんです」
皆が、特に危険に脅かされる事なく過ごしていた。
エアレザ警察署モンスター対策課は常に辺りを警戒し、モンスターの襲来に備えている。
ロウリーは相変わらず人間に混じり学校に通っているようだが、自分と何もかも違う者達と過ごす事が苦手なようだった。
ガゼルは何とかロウリーが周りに溶け込めるよう努力しているらしい。
マティウスは学校へ通うロウリーの為に毎日弁当を用意し、仕事が無い日はアルバイトをこなしている。
皆が変わらずに過ごしていた。
そのような中、ランドールは少しだけ変わった。
仕事を休み、家族と共に過ごす事が多くなった。
というのも、エルアが第2子を授かったから。
マティウスとロウリー、ガゼルは知らせを聞き、大いに喜んだ。
特にロウリーは兄弟ができた子供のように喜んだ。
その中で唯一、ランドールだけが嬉しいような、不安なような表情を浮かべていた。
「今はエルアさんの側にいてやれ。む? 仕事は大丈夫なのかだと? バカ者め、貴様らしくない。仕事なら暇な警官にでも押し付けるから大丈夫である」
とマティウスに背中を押された為、ランドールは1日のほとんどをエルアと共に過ごしていた。
そんな中での、出来事だった。
***
「ーーそれで、フェリス様はーーとーー」
ここはロウリーが通う学校の教室。
今、ちょうど担任でもあるガゼル先生による歴史の授業が行われているのだが、ロウリーは既に意識を失いそうになっていた。
やがて目の前の物がぼんやりと輪郭を失い、意識が……
警報音が教室にいた全員の耳を貫く!
意識が強制的に現実に戻されたロウリーの体がビクンと跳ねる。
生徒達がどよめく中、
「また緊急討伐か……よし、お前ら! 体育館に避難するぞ! 廊下で列を作れ!」
とガゼルが声を張り上げた。
生徒達は続々と教室から出て並び始める。
「……俺、行ってくるよ」
そのような中、唯一ロウリーだけが列に並ばず、ガゼルにこう告げた。
「多分、モンスター対策課が言っていた奴だ」
「図書館で散々調べてたやつか? ……で? 何のモンスターなのか分かったのか?」
ロウリーは悔しそうに首を横に振る。
「どのモンスターとも特徴が合わなかった」
事態は深刻だ。
これから得体の知れないモンスターを相手にしなくてはならない。
「じゃ、早く行かないといけねぇからーー」
「待て、ロウリー!」
ガゼルはロウリーの背に声を掛ける。
「絶対、無理はするなよ。一応、モンスター討伐屋の一員として、お前だけは例外として緊急討伐が起こった時は参加しても良いって事になってるけどよ……」
振り返ったロウリーの目を、ガゼルはまっすぐ捉えた。
「あくまでお前は俺の生徒なんだ。無理だと思ったら逃げるんだ」
モンスター討伐をした事がないガゼルにそのような事を言われたところで、ロウリーにとっては何の役にも立たない。
だが……「ありがとう」とだけ言っておく事にした。
***
ここはエアレザの西門だ。
堅牢な岩壁の上から街を見下ろし、モンスター対策課のレイは決意を固める。
「正義のヒーローになりたい」
子供の頃からの夢だった。
誰かを守れるような強い人間になりたいと願ったからこそ、彼は努力を重ね、この地位に就いた。
今こそ、街の人々を守るべき時。
「レイさん」
遠くから駆けて来たのは、ライフルを背負ったネクロだ。
「モンスター討伐屋も続々と西門に来ています。早速、ランドールさんが来ているのが見えましたよ」
マティウスとは違う意味で、レイはランドールの事も苦手だった。
昔、訓練としてランドールから稽古をつけてもらった事がある。
あの時は酷かった。
ある時は、ビトリーブという遠隔操作の呪文をかけられ身動きを取れなくされた上に、額に向かって木刀を投げられた。
またある時は、突然地面に蹲ったので心配して様子を見に近付いたら、木刀で頭を殴られた。
ランドール曰く「優しい奴から死んでいく」。
レイのように優しい人物は、すぐに戦場で命を落とすらしい。
確かに、奴の言い分にも一理ある。
モンスター……特に、コアを埋め込まれて造られた自律的に動くモンスターは、時々人間の意表を突くような挙動をとる事があるのだ。
だが、あまりにも卑怯な手を使うので、レイはランドールの事をあまり尊敬していない。
「ネクロ、敵の状況を確認してくれ」
ネクロは掛けていたメガネを外し、前髪を掻き上げた。
ネクロは目が悪くてメガネを掛けているのではなく、目が良すぎる為に日常に支障をきたすのでメガネを掛けているのだ。
恐ろしいが、本当の話だ。
「えー……未確認兵器との距離は約5,000。周りに飛行している小型兵器は……ざっと数えて10体」
「相変わらず凄えな」
「視力には自信ありますから。これでルーゼの顔もバッチリ見えます」
とネクロは親指を立ててサインする。
「こんな状況でそんな冗談言えるんなら、お前は大丈夫だな」
「えぇ、大丈夫ですよ。俺はいつも通りルーゼと行動します。俺らは小型兵器を狙えば良いですか?」
「そうだな……お前らは遠距離の敵を狙うのが得意だからな。頼む」
「了解」
ネクロはハシゴを降りて、地上にいるルーゼに声を掛ける。
「俺らはいつも通りやるぞ」
「うん」
「狙うのは小型兵器だ」
「遠距離から攻撃すれば良いんだね?」
「そうだ」
ネクロは小柄なルーゼの頭を優しく撫でた。
「相変わらず、ちっちゃくて可愛いな」
「『ちっちゃくて』は余計」
ルーゼは頬を膨らませる。
「って事は『可愛い』とは言って欲しいって事か? 可愛いよ、ルーゼ」
あぁ、なんでこんな奴に惚れちまったんだろう。
ルーゼはモヤモヤした感情を胸に秘めながら、彼の口付けを受け入れた。
「……ちょっぴり怒った顔も可愛いよ、ルーゼ」
「うるさい」
ルーゼはネクロの胸を軽く叩く。
***
ネクロとルーゼが出発した後の、エアレザを囲む堅牢な石壁の上にて。
「レイ、準備は良いね?」
いち早く到着していたランドールはレイに問う。
「はい。ロウリーさんの助言通り、モンスター討伐の準備を進めていましたから……武器の手入れはもちろん、日々の特訓にもより一層力を入れていました」
レイが指差した方にあるのは、等間隔に並べられた砲台。
「砲台の準備もできています。これで奴を仕留める予定です」
「最終兵器ってやつかな」
「いや……最終兵器はーー」
「待たせたな、2人とも」
黒づくめの仮面男マティウスがハシゴを登り顔を出す。
「最終兵器は、マティウスさんの魔法です」
「む? 何の話をしておるのだ?」
マティウスは小首を傾げた。
「マティウスさんは街の近隣で特大魔法の準備をお願いします」
特大魔法は、その名の通り通常の魔法より強力な効果を発揮する魔法だ。
必ず魔法陣を描かなければならない為、普通の魔法に比べ応用が効かずやや使い勝手が悪いのだが、それでもその効果に何度も救われた。
「む、あの魔法か……分かった。貴様の言う通りにしていよう」
ところで。とマティウスはレイの顔を見上げる。
「確か、貴様のところにいる魔法使いも特大魔法が使えたはずだな? 何故その者に頼まない」
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