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天使編
密談
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ダイモニアでの戦闘から離脱したゼトワールが、聖域に戻ったところから話が始まる。
「モルゲンレーテですか」
聖域のとある会議室にて。
ウォルナットの円卓に腰掛けたゼトワールは、顎に手をやり渡された写真に視線を落とす。
「えぇ。平等を司るフェリス様が治める世界です」
彼女の隣に腰掛けているのはヴェーラだ。秀美な印象を受ける瞳を瞬かせながらゼトワールの問いに答えた。
「貴女には、この世界が変わるきっかけを作った悪魔のランドールを討伐していただきたいのです」
「この男が……悪魔なのですか」
写真に写っているのは3人の男達。
小さく新しい建物を背にしている。
左にいる男は、全身黒づくめで、人の顔を模した悪趣味な仮面を身に着けていた。
腕を組み堂々としている為か、一際存在感を放っている。
真ん中の男が恐らくリーダーなのだろう。
肩甲骨まで伸びる白髪をそのまま下ろした彼は、飄々とした笑みを浮かべていた。
右側にいる幼い少年は、まるで精巧に作られた人形のようだ。
写真に慣れていないのか、ずいぶんと表情が堅苦しい。
ゼトワールは疑問に思ったのだ。
姿形も人間。
表情も人間。
彼らは本当に悪魔なのだろうか……
正気を戻す為、ヴェーラは軍人の肩に手を置く。
「騙されてはいけませんわ。この悪魔は戦争で数多の人間を死に追いやったのです」
ヴェーラはモルゲンレーテの人々について話し始める。
かつて、モルゲンレーテの人々は悪魔を嫌悪していた。
神の名の下に集い、悪魔の絶滅を目的とした組織を立ち上げていた程だ。
それが……世界大戦をきっかけとして全て変わってしまった。
ランドールという悪魔が変えてしまったのだ。
大国モルゲンレーテの軍に入り、当時の人間にとって未知の力であった魔法の力を使い戦況を大きく変えた。
そして、モルゲンレーテは勝利し世界統一を果たす。
ランドールの活躍を認めた当時のモルゲンレーテ王が、彼の願いを聞き入れた。
『人間と対等な地位』……それがランドールの望み。
それ以降、モルゲンレーテの人間と悪魔は手を結び、共存している。
同じ街に住み、同じ仕事をしているのだ。
「……恐ろしい話ですわ」
ヴェーラは机の下で手を祈るように組む。
「人間との対等な地位が願い……ですが、それが奴の本当の願いなのでしょうか? 当時のモルゲンレーテ王は、何も考えず悪魔と手を結んだのでしょうか?」
『悪魔は醜悪な生き物』
ヴェーラがかつて人間だった頃に身に付いた思想。恐らく彼女が完全に消滅するまで、この考えは消えないだろう。
「早急に人間と悪魔の仲を裂かなければなりませんわ」
ヴェーラはゼトワールの前に小瓶を差し出した。
茶色い小瓶の中で液体が揺らぐ。
「これは毒薬。私がとある世界で手に入れたものですわ。これを使い、誰にも知られぬように奴を殺して欲しいのです」
つまり暗殺。
影に潜む事ができるゼトワールにとっては、楽な仕事だろう。
奴が寝込んでいる時に、影の中へ潜り込み毒を塗ったナイフでひと突き。
しかも話題には出ていなかったが、モルゲンレーテの悪魔には驚異的な治癒力がある。
恐らく毒が全身に回り死に至るまでに治癒が完了し、殺した痕跡も消えるだろう。
しかも、他の世界で手に入れた毒なのだ。
そもそも毒で死んだのかどうかすら分からないだろう。
「……承知しました。ランドール討伐は、私が必ずやり遂げてみせます」
「頼もしいですわゼトワール様。どうか奴を倒し、モルゲンレーテの真の平和を取り戻してください」
ヴェーラはゼトワールの手を取り、誰もが見惚れるような笑みを浮かべた。
***
一方、聖域のとある部屋にて。
「……すまないな、ヴェーラ君にゼトワール君」
盗聴器を用い全てを聞いていた男が、一言呟いた。
「ランドールを殺させる訳にはいかないのだよ」
椅子から立ち上がり、どこかへ電話をかける。
『……もしもし?』
「マキタ君。ゲッベルスだ」
『あぁ、おめぇさんか。珍しいな? おめぇさんから電話してくるなんてよ……んで? 何の用だい?』
「頼まれてくれるかね? 実はーー」
「モルゲンレーテですか」
聖域のとある会議室にて。
ウォルナットの円卓に腰掛けたゼトワールは、顎に手をやり渡された写真に視線を落とす。
「えぇ。平等を司るフェリス様が治める世界です」
彼女の隣に腰掛けているのはヴェーラだ。秀美な印象を受ける瞳を瞬かせながらゼトワールの問いに答えた。
「貴女には、この世界が変わるきっかけを作った悪魔のランドールを討伐していただきたいのです」
「この男が……悪魔なのですか」
写真に写っているのは3人の男達。
小さく新しい建物を背にしている。
左にいる男は、全身黒づくめで、人の顔を模した悪趣味な仮面を身に着けていた。
腕を組み堂々としている為か、一際存在感を放っている。
真ん中の男が恐らくリーダーなのだろう。
肩甲骨まで伸びる白髪をそのまま下ろした彼は、飄々とした笑みを浮かべていた。
右側にいる幼い少年は、まるで精巧に作られた人形のようだ。
写真に慣れていないのか、ずいぶんと表情が堅苦しい。
ゼトワールは疑問に思ったのだ。
姿形も人間。
表情も人間。
彼らは本当に悪魔なのだろうか……
正気を戻す為、ヴェーラは軍人の肩に手を置く。
「騙されてはいけませんわ。この悪魔は戦争で数多の人間を死に追いやったのです」
ヴェーラはモルゲンレーテの人々について話し始める。
かつて、モルゲンレーテの人々は悪魔を嫌悪していた。
神の名の下に集い、悪魔の絶滅を目的とした組織を立ち上げていた程だ。
それが……世界大戦をきっかけとして全て変わってしまった。
ランドールという悪魔が変えてしまったのだ。
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そして、モルゲンレーテは勝利し世界統一を果たす。
ランドールの活躍を認めた当時のモルゲンレーテ王が、彼の願いを聞き入れた。
『人間と対等な地位』……それがランドールの望み。
それ以降、モルゲンレーテの人間と悪魔は手を結び、共存している。
同じ街に住み、同じ仕事をしているのだ。
「……恐ろしい話ですわ」
ヴェーラは机の下で手を祈るように組む。
「人間との対等な地位が願い……ですが、それが奴の本当の願いなのでしょうか? 当時のモルゲンレーテ王は、何も考えず悪魔と手を結んだのでしょうか?」
『悪魔は醜悪な生き物』
ヴェーラがかつて人間だった頃に身に付いた思想。恐らく彼女が完全に消滅するまで、この考えは消えないだろう。
「早急に人間と悪魔の仲を裂かなければなりませんわ」
ヴェーラはゼトワールの前に小瓶を差し出した。
茶色い小瓶の中で液体が揺らぐ。
「これは毒薬。私がとある世界で手に入れたものですわ。これを使い、誰にも知られぬように奴を殺して欲しいのです」
つまり暗殺。
影に潜む事ができるゼトワールにとっては、楽な仕事だろう。
奴が寝込んでいる時に、影の中へ潜り込み毒を塗ったナイフでひと突き。
しかも話題には出ていなかったが、モルゲンレーテの悪魔には驚異的な治癒力がある。
恐らく毒が全身に回り死に至るまでに治癒が完了し、殺した痕跡も消えるだろう。
しかも、他の世界で手に入れた毒なのだ。
そもそも毒で死んだのかどうかすら分からないだろう。
「……承知しました。ランドール討伐は、私が必ずやり遂げてみせます」
「頼もしいですわゼトワール様。どうか奴を倒し、モルゲンレーテの真の平和を取り戻してください」
ヴェーラはゼトワールの手を取り、誰もが見惚れるような笑みを浮かべた。
***
一方、聖域のとある部屋にて。
「……すまないな、ヴェーラ君にゼトワール君」
盗聴器を用い全てを聞いていた男が、一言呟いた。
「ランドールを殺させる訳にはいかないのだよ」
椅子から立ち上がり、どこかへ電話をかける。
『……もしもし?』
「マキタ君。ゲッベルスだ」
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