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結末の先にあるもの

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 目的の場所に辿たどり着くとタストの予想通り、彼女はそこにいた──が、そこは少女にはあまりに危険な場所だった。

 その場所は大きな丸い岩がかさなり、まるで塔のように立って見えることから村人から“丸塔岩がんとういわ”と呼ばれている場所だった。
 ユーリカは丸塔岩の頂上付近にいた──
 岩にしがみついて腕を伸ばし、頂上へ登ろうと必死に試みている。

……丸塔岩の真下の地面には、ユーリカの魔法道具である神楽鈴が落ちていた。

「なるほどね。あれを“大きな木”と見たのか。ユーリカくんはセンスがある」

「落ち着いて語ってる場合か! なんとかして助ける方法考えないと……」

 だが、そこへもう一つの危険なものがあらわれた。
 ハイボルグだ──

「グギャオオオオオンッ!!」

「ちっ、これは本格的にまずいかもな……!」

 ハイボルグは臨戦態勢に入り、今にも突進してきそうな構えを取っている。

「グルルル……!」

 タストはなるべくハイボルグの注意をユーリカかららすようにして、ハイボルグとにらみ合いを続けるなか、どうやってやり過ごすか必死に考えた。
……厄介なのはハイボルグだけではない。丸塔岩の“特殊な地形”もさらに厄介だった。

 丸塔岩は周りに大きな岩が横につらなり合っていて、まるで塔を囲むへいのような形状になっている。
──もしも、ハイボルグが突進してどこかの岩にぶつかれば、その衝撃で岩は崩れかねない。間違いなくユーリカは落下死する事になる。

──すると、シトリが呟いた。

「僕に一つ、考えがある……」

──シトリの提案はこうだ。

1.まず一人が囮になり、ハイボルグの注意をらす。

2.もう一人がハイボルグの後ろに回って神楽鈴を拾い、素早く登る。

3.ユーリカに神楽鈴を渡し、彼女の転移魔法で三人脱出する。

……という作戦だ。

「この作戦で救助する対象がユーリカという時点で、長年絆を深めたチームじゃないとできない難易度だぞ……」

「そう。息を合わせて互いに信頼しないと間違いなく失敗するね」

「淡々と言うけどさ、あんたの仲間なんだろ? もっと不安とか心配とかしないのか?」

「こんな所で死ぬようじゃ世界は飛べないよ」

 すました顔でつぶやくシトリにタストはますます彼の考えが読み取れない。

(ほんとにこいつと息を合わせられるのか……?)

「──それじゃあ、いくよ」

 シトリの合図でタストはコクリと頷くと、おとり役としてハイボルグと目を合わせたままジリジリと横に移動していった。

「グルルルル……」

 計画の通り、ハイボルグの視界からシトリの姿がだんだんと離れていく。
 シトリはハイボルグの視界から消えると、風のような素早さで走り、神楽鈴をさっと手に取った。

 と、その途端──

 シャリンシャリン……と、シトリが神楽鈴をひろった瞬間、鈴の音が小さく鳴ってしまった。

「ガルルル……?」

 ハイボルグが神楽鈴を持つシトリの方へと振り向いた──

(まずい……!)

「──タストくん、ごめん。君が代わりにのぼってくれない?」

「……え?」

「僕がこの子の注意をらすから、君はできるだけ早く登ってほしいんだ。……頼めるかな?」

「……わかった!」

 シトリはタストがすぐさま岩の塀を登る様子を確認したのち、ハイボルグに向き直り、神楽鈴を鳴らして注意を引きつけた。

(なんでおれ、こんな命懸けの事をやってんだ……)

 岩の塀の上に立ち上がったタストは、ユーリカを助けに来たことを後悔しながら、丸塔岩まで向かって突っ走る。

(あともうすぐに死ぬってのに……)

 丸塔岩に辿り着くとタストは勢いよく岩に飛びつき、時おり落ちそうになりながらも必死に登っていく。
 その拍子に小石が転がり落ちてしまい、ハイボルグが反応を示すが、すかさずシトリが神楽鈴を鳴らして気を引き続けた。

(馬鹿みたいに元気で、明るくて、うっとおしいのに、なんでこんなに必死になる?)

──岩を登るタストが見上げると、ユーリカの姿が間近まぢかに見えてきた。

「……あと、もうちょい……!」

(あいつを助けてしまったら、無理矢理仲間にされた挙句あげく、さらに面倒な事に付き合わされる毎日だぞ……最悪じゃないか!)

 後ろで何度も落ちてくる小石にハイボルグはついに神楽鈴の音に興味をくし、タストが登っている丸塔岩にめがけて突進を仕掛けた──

「タストくん! もう限界だ! 投げるよっ!」

(毎日酷い目に遭って、毎日バカみたいに騒いで……)

──ドドドドッ!

 ハイボルグが岩に激突し、丸塔岩が大きく揺れ始める。
 その衝撃でタストは足がすべり落ち、片手だけで体を支え、宙吊ちゅうづりの状態になってしまった。

「タストくん! 投げるから受け取って!」

 シトリがタストにめがけて思いっきり神楽鈴を投げ飛ばした。中空ちゅうくうを舞う神楽鈴がタストの目には、ゆっくりとこちらに舞う黄金おうごんちょうのように見えた。

(仲間と笑って、怒って、そんな毎日過ごしたら……)

 タストは神楽鈴を片手すれすれのところでつかみ取ると目一杯めいっぱいの声をはらから振りしぼった。

「ユーリカ!!」
「……?」

 ユーリカがこちらに気がついて振り返る──タストは力いっぱい神楽鈴をユーリカにめがけてぶん投げた。

(──生きたくなるじゃんかっ……!)

 神楽鈴を受け取ったユーリカは崩れ落ちる岩を目にすると、すかさず目を閉じ、魔法陣を呼び出した。
 三人は足元に浮かんだ魔法陣に吸い込まれ、またたにその場から消え去ると、誰もいなくなったその場所では、崩れ落ちた沢山の岩がハイボルグを巻き込んで地面に叩きつけられ、土煙が空高く巻き上がる光景が広がり、周辺の動物たちはその光景を奇異きいの目で見つめるのだった──……。


 * * *


──タストが目を覚ますと、自分の体は自宅のベッドの上に横たわっていた。
 ベッドのそばにはタストの母親が頬をびっしょりと濡らしてタストを見つめている。

「お母さ……っ!」

 タストは母親に強く抱きしめられた。久しぶりに感じる母の優しさとぬくもりにタストは今まで心のどこかでせき止めていた涙をありったけこぼした。





──……あれから数日後。

「あらタスト。どうしたの? どこに行く気?」

 タストの母親が彼の部屋を不思議そうに覗きこむ。タストは自分の私物と貯金箱と本を袋いっぱいに詰めんでいた。
 心配そうにその様子を見つめる母親に対し、タストは告げた。

「──俺、旅にでるよっ!」



『戦争も人生も結果がすべてだ』と誰かは言った──

 だとしたら、この戦争がもたらした“結果”は何を生んだのだろう。

 彼らの生きた時間が『不幸せだった』と誰が決めるのか。

 私は“ただの記録者”。
 彼らの日々を見つめることしかできない存在。


 P.S.
──どうやら、彼らの“記録”はこれから騒がしくなりそうだ。
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