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出会い
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しおりを挟む出会ってからしばらくの純と元樹は、高校が同じのいわゆる友達という関係だった。性格は違うけれど、お互いそれなりに容姿に恵まれていたからか、どちらも女に不自由しないという意味では話が合い、気持ちの上でも対等でいられる気兼ねのない友人だったように思う。
純が女より男の方がと自覚したのは、高校2年の頃。
それまで、彼女をとっかえひっかえしていた純だったけれど、ずっと何かが違うと感じていた。どうして自分は女を抱いているのか、どうして女の中から相手を選ばなければいけないのか。小さな疑問はあっても、これが普通なのだからと初めは気にもしていなかった。
ただ、小さな疑問も積み重なれば大きくなる。
女の胸と、男の胸の違いが純にはいまいちわからず、どちらも欲情の対象だと気付いたとき、そういうことかと理解出来た。
性の対象は男でも女でもいい。だけど、1人を選ぶだとか、常に一緒にいることを考えると男の方がいいとなると答えは簡単だった。そうか、自分は女も抱けるけど、本来は男が好きなのだと。
だからといってどうすればいいかなどすぐにわかるわけもなく、しばらくはそのままの生活を続けていた。その生活に変化が起きたのは、3年も終わりに近づいた頃。元樹が、長く付き合っていた女と別れたと純に言って来たときだった。
「俺、あいつよりおまえといる方がいい」。そう言った元樹に、自分も実はそう思っていて、もしかすると女より男が好きなのかもと軽い気持ちで打ち明けたのだ。
若さというのは恐ろしく無責任で、好奇心だけは旺盛なものなのかもしれず。どちらが言い出したのか今になると思い出せないほどの軽いノリで、元樹との関係が始まった。
元樹は見た目によらず情に厚いところがあり、これと決めるとそれ以外は興味がなくなるのか、高校、大学、社会人になった今でも純との関係を続けている。それはそれでいいと純は思っているし、そのことを不満に思っているわけではない。
何より、大学の頃から共に暮らし始め、すでに8年を過ぎている。今さら元樹と別の道を歩くなど、想像も出来ない話だ。
ただ時々、本当にこれでいいのかと疑問もよぎる。元樹と純の間にあるのは紛れもなく愛だろう。互いに信頼し合い、共に過ごしていて心地いい。自分は元樹を愛している。そこに嘘はない。
だけど、最近思うことがある。
その愛は、どの愛なんだ?
「おい、何してんだよ」
シャワーを浴びてベッドで眠りにつこうとしていると、シャワー終わりの元樹が笑いながら純のシャツを捲くりあげた。
「さっき、誘っただろ」
「誘ってねえよ」
「んじゃ、俺が誘うってことで」
胸に手を這わし、後ろから抱きしめるような体勢の元樹が、純の首筋に何度も口づける。
「なあ、純。怒らねえから正直に言えよ。あの子を抱いてみたいとか思ったんだろ?」
「そんなんじゃねえよ」
「おまえが入れたいなら、俺はいいぞ。抱かれてやるよ」
胸にあった元樹の手が下へと降りて行くのを純は無意識に止めた。何言ってんだと思うと笑えた。
「後ろは使わねえって、最初に決めたんじゃなかったのかよ」
「まあ、あの頃はさすがにそこまですると、冷めるとこあったしな」
元樹の言う通りだった。
女が絶対に無理なわけではない純と元樹にすると、どれだけ男の方が居心地がいいからといって、セックスに関してはやはり抵抗があった。何より、女と違い濡れることもないのだ、どう考えても痛いだけの行為になるだろう。
「だったら今も同じだろ」
「今なら、痛みもスパイスってことで」
どこまで本気なのかわからない元樹が、純の下着の中へ手を入れる。
今日、何度目になるのかわからない「そうじゃない」が、純の頭をよぎった。
元樹と純は典型的なカップルではない。抱いて、抱かれて、という世間一般の感覚とは違い、どちらも対等で平等で、お互いを尊重し合える関係。ある意味、理想の。
元樹の手が純の反応し出した欲望を擦り上げる。快感を追う純が目を閉じると、先ほどのパーティー会場での煌びやかな明かりが瞼の裏に甦った。
生まれながらに持つ、隠しきれない気品溢れる自信に満ちた態度。裏腹な不遜な対応。可愛いはずの恋人を見る、どこか冷めたような視線。
咲久は、明らかに男に抱かれている。ということは、あの男が抱いているのだ。
純の性感を熟知する元樹が、さらなる高みへと押し上げるため手の動きを強くする。
「元……樹っ……」
無意識に恋人の名前を口走りながらも、純の瞼の裏には、鬼塚に強引に組み敷かれている自分の姿が写っていた。
そういうことなのだ。なにも難しくはない。単純な話だ。
自分は男に抱かれたいのだと、純は最近になって気付き始めていた。
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