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サファイアは凛として眩く輝く

サファイアは凛として眩く輝く

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 サファイアは凛として眩く輝く

 サファイア家の長女であるサファイア・ルス・ヴィーズ
 彼女は何故、公爵としてマリーの近くに入れるのか
 イアの物語です。

 イア 女性 サファイア家の長女
 マリー 女性 ローズマリー家の長女
 ザック 男性 サファイア家の長男 イアの兄
 ヴェルガー 男性 騎士見習いに来ている 平民出身
 第三王子 性別不明 金髪のショートヘアで青い目の少年








 イア「(私(わたくし)、サファイア・ルス・ヴィーズはサファイア公爵家の長女として生まれました)」

 イア「サファイア家はノクス王国の中でも3番目に広い領地を持つ家です。『弱き者を助け、強さを武器に』これが我が家の家訓です。武術に優れ、国や民を守る「剣」として名を残してきた家でした。」

 イア「前当主であったお父様までは」





 SE:扉をノックする





 ザック「入れ」

 イア「失礼します。お兄様」

 ザック「はぁ、またお前か何の用だ」

 イア「お兄様、また税を上げましたね。先月より、1.2倍にもなっています。ただでさえ、作物が取りにくい時期にこんな事をしては、民が飢えてしまいます!元に戻してください」

 ザック「またその話か」

 イア「それだけではありません。先月起きた道路の陥没の復興もできていないですし、清潔な水の確保、さらには、謎の病が流行しそうになっているのですよ」

 ザック「だからどうした」

 イア「………はい?」

 ザック「だからどうしたと聞いているのだ。この家が存続出来ているのは、俺が金を回しているからだろ。奴らはその道具に過ぎない」

 イア「何をおっしゃるのです!民がいてこその我々でしょう!民無くしては何も回りません!それに、いま広がっている感染症の対策も早く手を打たなければ…!」

 ザック「放っておけ」

 イア「な…!」

 ザック「自分の身すら守れない無能は、我が領地にはいらん」

 イア「そんな…!それでは民は…!」

 ザック「うるさいぞ!!女のくせに、運営にいちいち口を挟むな!お前は身内だから話を聞いてやってるだけだ!」

 イア「お兄様!」

 ザック「だまれ!!」





 イアの頬を叩く




 イア「…!」

 ザック「ふん、泣き言の一つも言わないとはな。そんなんだから、お前に縁談が来ないのだ」

 イア「………ッ」

 ザック「とっとと出てけ!自室でレッスンでも受けていろ!」




 ザック、イアを蹴り外へ追い出す
 SE:乱暴に扉が閉まる





 イア「………本当、我が家の恥ですわ」




 イア、自室へ向かう




 イア「(私には兄がおり、名はサファイア・クロート・ザック。私より2つ上です。幼い頃から一緒に父から、我が家の家訓と共に学びを深めていました。正直、最初から私に対する態度はよくなく、話しかけても無視をしたり、物を隠されたりしていました。そして、ある日を境に、私に対する当たりが強くなり、終いには暴力をふるう始末)」

 イア「(それを見たお父様は、私と距離を取らせるために4年前、王都の王立学園へ入学させました。一先ず、様子を見ようとのことで落ち着きました。暫く、平和が続いており、兄からは何もありませんでした。ところが、兄が入学してから2年後に悲劇がありました)」

 イア「(両親が心臓の病気で亡くなったのです。余りにも突然の事でした。)」

 イア「(葬儀は領地内で静かに終わりました。ですが、周囲は「この先、どうしようか」と言う事しか考えていなかったのです。腹立たしい気持ちになりましたが、私は女、このままでは家が続かなくなってしまうと考えていた矢先に、今まで連絡の一つも無かった兄が突然王都から戻ってきました。「家督を継ぐのは男」とこの国は決まっているため、あっという間に兄が家督を継ぐことになりました。私は兄の性格をよく知っていた為反対しましたが、その反論も虚しく、兄が当主となってしまいました)」

 イア「(領民は当主が戻ったことで安堵しましたが、私はこれが悪夢の始まりであると確信しました)」

 イア「(そして、予想通り、民を奴隷の様にこき使うようになったのです)」






 イア「せめて…、私に何かできれば……」






 イア「(この国では、女は政治の道具として扱われる。実に古い。古すぎる。周辺諸国は女性の国王もいるというのに)」

 イア「(以前、視察で訪問した際には隣国は働く女性たちで溢れていた)」

 イア「(私の国は、そんなことも無く、女は男の装飾品の様に扱われる。それは度を越しており、貴族であっても「美しくない」と判断されれば、未来など容易く消されてしまうのだ)」

 イア「(生まれてから17年。一体私は、何のために生きているのか…)」




 イア「ハァ、いけませんね。サファイア家の公女たる者がこんなのでは…。ふぅ、切り替えましょう。この後はあの時間です」




 イア「(その中でも私には楽しみにしている事がある)」





 イア、ドレスを脱ぎ、シャツとズボンに着替える





 イア「後は、目の色と、髪型、そして胸もつぶして…」

 イア「よし、できた」



 鏡には短髪の凛々しい姿が映る



 イア「さあ、早く行かなくては、稽古に遅れてしまう」



 イア「(私にはこれがあるから、鬱屈した気持ちを少しだけ明るくできるのです)」





 ノクス王国
 騎士団訓練施設にて



 イア「ヤー!!」





 SE:金属音(剣をはじく音)





 ヴュルガー「うわあ!!」

 団長「そこまで!!」

 騎士2「うわ!またイアンの勝かよ!」

 騎士3「あいつ本当に強いなー」

 ヴュルガー「いってて…」

 イア「立てるか?」

 ヴュルガー「ああ、大丈夫だ。しっかし、お前本当に強いな。一体どんだけ訓練しているんだよ」

 イア「このくらい出来なきゃ、国を守る事などできないだろ?訓練に関しては、僕が楽しんでいるのもあるけどね」

 ヴュルガー「はー、今年の「王冠の剣(バンガード)」はお前に決まりかもな」

 イア「そう、気を落とすな。お前こそ、さっきの一太刀は鋭かったぞ」

 ヴュルガー「そりゃどーも。決まったと思ったのにな~…」

 イア「アハハ。次も僕が勝つよ」

 ヴュルガー「あ!そりゃねーよ!次こそは俺が勝つ!!」





 イア「(私は幼いころからダンスや読書よりも剣術が大好きでした。ですが、女であるためにその道は諦めなくてはならないと、幼少期に教えられました。それでも我慢できなかった私はこっそりと訓練場へ行っては、騎士たちが行っている訓練を見て覚え、練習していたのです。)」




 ヴュルガー「それにしても、最近嫌なうわさが流れているのをしってるか?」

 イア「噂?」

 ヴュルガー「ああ、なんでもサファイア公爵家の方で、領民たちが次々と病気にかかっているだとよ」

 イア「…そうなのか」

 ヴュルガー「しかも、領主様は何もせずに、毎日遊びまわってるそうだ。あれじゃ、近頃多発している暴動が起きるのも時間も問題って話だぜ」

 イア「…それは何とも、悲しいな」

 ヴュルガー「なー、しかもサファイア家のお嬢様も、毎晩男をとっかえひっかえしてるって噂だぜ」

 イア「なっ…!んだその噂は!」

 ヴュルガー「うぉ!!な、なんだよ!」

 イア「その噂!どこで聞いた!」

 ヴュルガー「いや…たまたま王宮内を警護していた時に、貴族たちの会話から聞こえたんだよ…。あ、さてはあれか?!お前、サファイア家のお嬢様に恋をしてるのか?!」

 イア「ち、違うよ!ただ、どこでそんな噂が立ったのかが気になって…」

 ヴュルガー「まー、俺も本人を見たわけではないし、現場を見たわけじゃないからなー。ま、あくまでも噂だからよ」

 イア「…そうだといいがな」

 ヴュルガー「ん?」

 イア「あ、いや…どこでもそんな噂があるんだなって」

 ヴュルガー「まーなー、お、休憩終わりだ。よし!行くぞイアン!」

 イア「望むところだ!!」






 稽古後、王級内を歩くイア




 イア「(あの噂…よくありませんね…。あの愚兄にしてやられましたか。まあ、それも仕方ありませんね。お茶会や夜会よりも剣の稽古が楽しいこともありますし、この後はだいたい、領地の方に出向いていますから)」




 角から出てきた人物とぶつかる




 イア「ッ!」

 マリー「キャッ!」

 イア「すみません!お怪我はありませんか」

 マリー「いいえ、こちらこそ、前を見ていなくて申し訳ありません。」

 イア「いいえ、わ、僕も考え事をしていたので…」

 マリー「あら、その恰好は、騎士団の方かしら?」

 イア「え、あ、はい。と、言いましてもまだ見習いです」

 マリー「まあ、あの厳しい試験を通過しただけでも凄いですわ!ああ、申し遅れました。私、ローズマリー家のローズマリー・デーア・エーデルシュタインと申します」

 イア「…!!こちらこそ、名乗りが遅くなり申し訳ありません!!イアン・アイルと申します」

 マリー「イアン様ですね。もしかしたらまたお会いする機会があるかもしれません。その時はよろしくお願いします」

 イア「こちらこそ、ローズマリー様にお会いできて光栄でございます。是非、貴女様の剣としてお使いください」




 マリー、一礼して去る




 イア「(あれがローズマリー家の御令嬢だったとは…私の言葉は、大丈夫でしたでしょうか…?)」

 イア「(…今は考えるのやめましょう。まずは、領民を何とかしなくては…!)」








 数日後、自室で作業をしているイアの部屋に、ザックがいきなり入って来る
 SE:扉が勢いよく開く音



 イア「お兄様…!ノックもせず、いきなりなんですか!」

 ザック「5日後、ノクス城にて第3王子の誕生日パーティーが開かれる」

 イア「…ええ、存じておりますが…。」

 ザック「王子はまだ、婚約者が決まっていない為、そのパーティーで候補を決められるそうだ」

 イア「ええ、そのようですね」

 ザック「お前、行ってこい」

 イア「…はい?」

 ザック「丁度いいではないか。婚約し、次期王妃にでも慣れればこの家もますます発展していく。これ以上無い事だ。」

 イア「そんな…!第3王子はまだ6歳ですよ!私ではあまりにも歳が…!」

 ザック「うるさい!」




 イアの頬を叩く




 イア「…!!」

 ザック「これと言って能も無く、婚約者すら作れないお前の利用価値がようやく見つかったんだ!顔と体しか取り柄が無いくせに、口を挟むな!!」

 イア「…。」

 ザック「ふん。分かったらさっさと王子を誘惑する為の準備でもするんだな!」





 ザック、イアの部屋から出て行き乱暴に扉を閉める





 イア「(深呼吸をする)5日後…ですか…。」

 イア「(このままでは、本当にまずい。私は公爵令嬢…。間違いなく候補に入ってしまう。せっかく第1王子と第2王子の時は回避できたのに…)」

 イア「(しかも、こんな状態になっているのに城から視察が来ないと言う事は、私の密告が渡っていないか、揉み消されか…)」

 イア「(このまま、あの愚兄の道具になるのは嫌。ああ、でも…。どうすれば…)」




 イア「私は答えが出ないまま、5日が過ぎ、とうとうパーティーの日になってしまいました。」






 ノクス王国城内にて
 煌びやかな装飾と豪勢な料理が振舞われる
 優雅な演奏が鳴り響き、女性たちはより気合を入れておしゃれをしていた。






 イア「(流石は、王子の誕生日。明らかに規模が違いますね。そして、視線が痛いですね)」

 イア「(私の容姿は女性の中ではかなり背が高く、ヒールを履いてしまうと男性をゆうに超えてしまう。更に黒髪は強さを象徴するものになる。そして、あの愚兄が流した噂。そのお陰で、私に話しかける人は居ません。まあ、ご令嬢たちからは分かりやすく嫌味を言われますが…。私は、ここでこんな事をしている暇など無いのに…。)」





「第3王子の御到着です!」





 イア「(国王両陛下とともに降りて来た第3王子はまだ、小さな子供。早速、貴族たちが陛下に媚びを売っている)」

 イア「(とんだ茶番ですわね)」

 イア「(私は目立たないように端の方に立っていましたが、それが許されるわけは無かった)」




 貴族の男「…見つけたぞ!この売女め!!」

 イア「…!!」





 イア、いきなり手を掴まれる





 イア「…なんですか!私は貴方の事など知りません!」

 貴族の男「ふざけるな!うちの私財を根こそぎ盗みやがって!!観念しやがれ!!」

 イア「ですから…!私は何も知らないと!!だ、誰か!!」





 イア「(周囲から声が聞こえる)」



 貴族の女「やっぱり、噂は本当だったのね」

 貴族の中年「何と言う事だ…兄はとても優秀な人物だと言うのに…」

 貴族の男2「これで、あの女も終わりだな」



 イア「…!」

 イア「(やられた。真の目的はこれ…!うるさい私を追い出そうとして…!)」





 貴族の男「そら!兵が来た!大人しくしろ…!」

 イア「私は…!やっていません…!!」






 イア「(ここまでかと思ったその時)」







 マリー「騒がしいな。やめたまえ」








 イア「(あたりに威厳溢れる声が響く)」





 イア「…!」

 貴族の男「あぁ?!」







 マリー「第3王子の誕生パーティで何をしている。無礼極まりないぞ」

 貴族の男「お前…、いきなりなんだ!」

 イア「(薔薇のような鮮やかなピンクの髪をなびかせ、真っ白なフリルのドレスを着た女性が、現れた)」

 イア「ローズマリー様…?」

 マリー「おや、私をご存じでしたか。初めまして。サファイア家第1公女、サファイア・ルス・ヴィーズ様」

 貴族の男「ロ、ローズマリーだと…?」

 マリー「全く、先ほどから聞いていればなんだ。くだらないな」

 貴族の男「なっ!」

 マリー「その程度で財が奪われてしまうなど、貴様の管理の問題であろう。それに、さっきからサファイア様は「知らない」と話しているが?」

 イア「…!」

 貴族の男「っ…!見間違えるはずがない!この汚い黒髪に青い瞳…!この女で間違いない」

 マリー「それだけか?」

 貴族の男「あたりを見てみろ!こいつしかいないだろ!!」

 マリー「ふむ、確かに、見ただけではいないな」

 貴族の男「そら見た事か!分かったら邪魔を…」

 マリー「だが、その髪が本当に黒色だったら、の話だが」

 貴族の男「はぁ…?」

 マリー「おいおい、まさか「この国の優秀な貴族様」が髪の色を変えるものは知らない、なんてことは無いだろう?」





 マリー、とある女性の元へ歩き出す





 マリー「まぁ、そうだとしても盗むことは立派な犯罪だ。それについてはきちんと罰しなければならんな」





 マリー、女性の頭を掴む





 貴族の女「キャッ!」





 マリー、女性の髪の毛の束を取る




 貴族の男「なッ!!」

 イア「あ…」





 貴族の女「ちょっとアンタ!!」

 マリー「ほら、この通り、髪の毛を変える事など造作も無い事だぞ」

 貴族の男「その泣き黒子…」

 貴族の女「あ…!」

 貴族の男「貴様…!俺を騙したのか…!」

 貴族の女「い、いいえ!私では…」

 マリー「お嬢さん、そういえば最近妙に賭け事に関する金額が多くなっていましたね?」

 貴族の女「な!なんでそれを!!」

 マリー「困りましたねぇ、国で許可しているもの以外の賭博は、立派な違法だ」

 貴族の女「あ、あれは、ほんの出来心で…!」

 マリー「その割には、三千と言う大きな金額を賭けていましたね」

 貴族の女「うぅ…!」

 貴族の男「こいつ…!」





 男が女の髪を掴む






 貴族の男「許さねぇ!二度と使い物に出来ないようにしてやる!」

 貴族の女「いやぁ!!やめて!!」





 マリー「おい、やめろと言ったのが聞こえなかったのか」





 当たりが静かになる






 マリー「はぁ、この国の男はどうして女性に対する敬意が微塵も無いのだろうな。我々は皆母から、女から生まれていると言うのに」




 貴族の男「貴様…!さっきから何なんだ!!」

 マリー「力でしか威張る事の出来ないクズに教育をしているだけさ」

 貴族の男「この…!言わせておけば!!」






 男、マリーに襲い掛かろうとした時






 ルディア「…いい加減にしたまえ」





 ルディア、男の手を掴む




 貴族の男「…!ル、ルディア宰相様!!」





 男、慌てて離れる






 ルディア「お怪我はありませんか」

 マリー「ええ、大丈夫です」





 貴族の男「さ、宰相様が…何故…!」

 ルディア「さて、皆さま、本日は王子の誕生日パーティー起こし頂きありがとうございます。そして、王子からのご厚意で、今、ここに宣言をする。今日より、ローズマリー・デーア・エーデルシュタイン嬢は、正式にローズマリー公爵として爵名する!」





 当たりがざわつく




 マリー「さて、もうこの重苦しいのを脱いでもいいか」




 マリーがドレスを脱ぐと、軍服のような恰好になり、髪を一つに後ろに括る





 貴族の男「あ、ああ…」





 マリー後ろを向き、王子の前に膝まづく





 マリー「生誕の日に、このような騒ぎを起こしてしまった事を深くお詫びいたします」

 王子「よい!これは我の悲願でもあった。感謝するよローズマリー公爵」

 マリー「ありがとうございます。この場は、私にお任せいただいてもよろしいでしょうか」

 王子「構わん!我も見てみたい!」

 マリー「ありがとうございます。では」






 マリー前を向く





 マリー「その件に関しては、「双方」様々な事情があるだろう。連れていけ」

 兵士「ハッ!」






 マリー「ふむ、これで一段落かな」






 マリー、イアの元へ歩いて行く





 マリー「大丈夫ですか?サファイア様」

 イア「ええ、これはいつもですから…」

 マリー「それはいけません。貴女はこんなにも美しいと言うのに」

 イア「え?」

 マリー「自信を持ってください。貴女は、とても素晴らしいものをお持ちでは無いですか。王宮でお会いした時に私は確信しましたよ」

 イア「…!!」





 その瞬間、ザックが酒瓶をもってマリーを殴りかかりに来る





 ザック「貴様ーー!!」

 イア「危ない!」






 イア、マリーを突き飛ばす
 イアの頭に酒瓶が当たり、瓶が割れる






 イア「ウッ!」

 マリー「ヴィーズ様!」

 イア「…っ」

 ザック「チッ、またお前か!いつもいつも邪魔ばかりしやがって!!この愚図が!!」




 ザック、イアを蹴る
 SE:蹴る音



 イア「!!」



 イア、お腹を押さえて膝をつく
 周囲から悲鳴が上がる
 SE:悲鳴声




 マリー「ヴィーズ様!!」




 マリー、イアの近くに駆け寄る



 イア「わ、私は大、丈夫です…。」

 マリー「サファイア・クロート・ザック公爵殿、でしたか。一体、何の真似でしょうか」

 ザック「貴様がローズマリーか。よくも…!私の商売の邪魔をしてくれたな!」

 マリー「商売…?」

 ザック「とぼけるな!!先日うちが取引していた野菜を『この草は全て違法植物だ』と全部ゴミにしやがって!!」

 ザック「そのせいで俺はとんでもない額の借金を背負う事になったんだぞ!!」

 マリー「…。なるほど。貴君が元締めか。」

 イア「なんの、話ですか?お兄様…?」

 マリー「東の国の方にマタン・カーラと言う植物があってな。葉と茎は食べれるが、根の方には1グラムでも摂取すれば死に至らす毒があるんだ。」

 マリー「実際、我が国で数名程この毒で亡くなっている事もあり、国には入れないようにと、各貿易商には伝えてあったはずだが…?」

 マリー「何故か最近になって見つかり始めてな。調べてみたら、「野菜」と偽って国に運んで来ていた事が分かった。」

 マリー「それが、貴君の船だったとは」

 ザック「黙れ!!あと少し…!あと少しで!俺の計画は完璧に終わるはずだったのに!俺が、この領地を統一するための計画を…!」

 イア「え…?マ、マリー様!その、毒の作用は…!一体、なんですか…?」

 マリー「…心臓発作と似た症状がでる。しかも厄介なことに、毒とは気づかれにくい。」

 イア「あ、ああ!な、なんてことを…!!」

 マリー「ヴィーズ様…?どうされました?」

 イア「に、2年前、珍しくお兄様がワインを持って家族に振舞ったのです…。その翌朝に、父と母が共に心臓発作を起こして亡くなった…」

 マリー「まさか、サファイア卿がお亡くなりになられた原因が…!」

 イア「…っ、遺体もありませんし、確信を得る事はできません…!ですが!!」

 ザック「チッ、今更気付いたのかよ愚図が!大体!お前も死ねば良かったんだ!」

 ザック「未成年だから酒が飲めねぇとか、甘ったれたことを抜かしやがって!」

 マリー「言うも愚かだな。我が国では20歳までは飲酒は禁止となっている。ヴィーズ様は当然の事をしてただけだろ」

 ザック「…!これだから女は!!」

 マリー「ほう…?どうやら全て図星の様だな。さっきから「貴様」「お前」「女」しか喋れなくなっているぞ」

 イア「なるほど…、貴方は、全てが自分の意のままに操れるように、只々貪っていただけ…と言う事ですか」

 イア「残念です。幼き頃から員に備わるのみの存在でしたが、さっさと切り捨てればよかったですわね」

 ザック「…!!だ、黙まれぇぇぇぇ!!」

 マリー「ヴィーズ様!!!」






 ザック、イアに向かって襲い掛かる






 イア「スゥ…、フッ!!!!!!」






 SE:蹴る音
 ザックの顔にイアの後ろ回し蹴りが入る






 ザック「ガ…!」

 マリー「おおっ」






 ザック、そのまま飛ばされて料理が並んでるテーブルに突っ込む
 SE:机に物が当たり、お皿などが割れる音







 イア「(深呼吸をする)そこの警備隊の方?剣を貸してくださるかしら?」

 ヴェルガー「は、はい!どうぞ」






 イア、ザックに近づく
 SE:靴音(コツコツコツのような)




 剣先をザックに向ける




 ザック「ッ!!ひぃ!!」

 イア「クロート・ザック。選ばせてあげます。今ここで肉片になるか大人しく捕縛されるか」

 ザック「ッ!こ…のぉ!」



 ザック、手元にある皿を投げる
 イア、剣で弾じき、そのまま前にでて、ザックの四肢を切る




 ザック「ウガアアアア!!」

 マリー「ほう、見事だな」

 イア「慈悲も無用です。連れて行ってください」






 ザック、力なく警備隊に連れていかれる






 イア、マリーに跪いて


 イア「ローズマリー様、愚兄が申し訳ありませんでした」

 マリー「いや、こちらは大丈夫だ顔を上げてくれ」

 イア「此度の件いかなる処分をお付けください」

 マリー「そんな事はしない。貴女は被害者ではないか」






 第三王子「その通りだ。顔をあげてくれ」





 全員が驚き、声の方を見る




 マリー「第三王子」





 第三王子が歩いてくる
 全員跪づく




 イア「第三王子…!この度は大変…」

 第三王子「サファイア・ルス・ヴィーズ」

 イア「は、はい」

 第三王子「我が国の重要参考人かつ、容疑者であったサファイア・クロート・ザックの捕縛を賞して、我から感謝を述べる」

 マリー「!」

 イア「!」

 イア「な、なんと勿体なきお言葉…!」

 第三王子「だが、そなたの身内が犯した罪と言う事も有る為、全てに目を瞑ることは出来ない。すまないな」

 イア「いいえ、お言葉を頂けるだけで私の今までは救われました」

 第三王子「うん、その様子なら大丈夫だな。ローズマリー・デーア・エーデルシュタイン」

 マリー「はっ」





 マリー、第三王子の横に着く





 第三王子「これを」





 マリーにバッジを渡す




 マリー「かしこまりました」

 第三王子「サファイア・ルス・ヴィーズ、面を上げよ」

 イア「はっ」

 マリー「ヴィーズ様、失礼いたします」




 マリー、バッジをイアのドレスの胸元に付ける





 イア「こ、これは…?」





 イア、マリーの方を見る
 マリー、優しく微笑む





 第三王子「宣言しよう。今日よりサファイア・ルス・ヴィーズ嬢は、正式にサファイア公爵として爵名する!」



 イア「!!」



 第三王子「勿論、今日起こった出来事については貴女が背負わなくてはならない。だが、今までの報告を聞いていると、直ぐに名誉挽回も出来るだろう。これからの活躍を期待する」

 イア「ありがとうございます。ノクスの名の下精進してまいります」

 第三王子「うむ、さあ、これで今日の大切な事は済んだ。皆、大いにパーティーを楽しんでくれ」





 第三王子、自分の玉座に戻る





 マリー、イアの前に手を差し出す




 マリー「ヴィーズ様これで、私達は同士だ。私の事はマリーと呼んでくれ」

 イア「…!では、私の事はイアとお呼びください」

 マリー「勿論だ」











 パーティー終了後
 城の廊下にて









 第三王子「(鼻歌を歌う)」





 部屋のドアを開ける
 部屋のベッドに少年が眠っている





 第三王子「ふう、小さい男の子と言うのは難しいな」




 髪の束を取った途端、声が変わる




 エーレ「ま、全て上手く行ったから良しとするか」




 不敵に微笑むとそのまま姿を消した










 後日、サファイア家にて




 ヴェルガー「まさか、イアンがヴィーズ様だったとは…」

 イア「騙していてごめんなさい。令嬢が剣を習うにはあれしか方法が無かったのです」

 ヴェルガー「それで、あの強さですが…凄まじいですね」

 イア「ウフフ、ヴェルガー、そんなにかしこまらなくて大丈夫ですよ」

 ヴェルガー「そんなわけにはいきませんよ。貴女様はこの家の主で、俺は雇われているんです。まさか、引き抜かれるとは思いませんでしたよ…心臓止まるかと思いました」

 イア「そうですねぇ、私に関する噂も実際会うまでず~と信じていましたものねぇ」

 ヴェルガー「は、はい…すみませんでした…」

 イア「ウフフ、冗談です。」

 ヴェルガー「…でも、本当に宜しかったのですか?俺は、平民です。俺がいる事で、ヴィーズ様に迷惑がかかるのではないのでしょうか」

 イア「…そうですね。そもそもですが、貴族と平民、一体何が違うのでしょうか?」

 ヴェルガー「え?」

 イア「私達、同じ人間ですよね?でしたら全く問題などありませんよ。必要なのは実力や自分の能力を最大限発揮して務めを果たす事じゃありませんか?」

 ヴェルガー「それは、そう…ですが」

 イア「とはいえ、そう簡単にはいきませんよね。ですが私は貴族が国や民を守るものと心得ています。我々が偉い訳ではありません。」

 イア「貴族という物は、国をよくするために働き、国の為にその命を捧げる物。本来は私達が盾であり剣なのです」

 ヴェルガー「…!」

 イア「最近は、権力と言う魔物に憑りつかれた汚物が大量に蔓延っていますね。だからこそ、私とマリー様が選ばれたのでしょう。女が爵位を授かることなど歴史上初となります」

 ヴェルガー「ヴィーズ様…」

 ヴェルガー「そう言えば、投獄された前当主様は…?」

 イア「今頃、醜い自分をみて嘆いているんじゃないですかね?どうでもいいです。王命、王律に逆らっています。死罪は確定です」

 ヴェルガー「…ッ、承知しました」

 イア「(にっこり笑って)私は戦います。最後の最期まで。ですから、力を貸してください」

 ヴェルガー「勿論です。貴女の手足となり仕えさせて頂きます」

 イア「では、始めて行きましょう。まずは腐った汚物の始末からです」






 終わり









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