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七鍋目。肉屋の悩みとひきこもりの少女
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チギリと出会ってから、ちょうど一週間が経った。
新たにチギリの相方のペット、モモが加わって、私たちのパーティーは一層賑やかになった。
今は正午前。ちょうど今、賑わいを極めている街のマーケットに出かけている。変な目で見てくる人が未だにいるが、気にしない、気にしない。
ちなみに私たちがお出かけしているのは、ラーユが「お肉たべたい」と言いだしたからである。いいお肉屋さん、あるかな。
店を探すこと十分ほど、目の前にこぢんまりとした雰囲気の精肉店が見えた。
吊るされた羊の開きに、奥の台に並んだ牛刀包丁。そして何より、豪快に腕毛を生やし腕組をした店長らしき男の人が、「人を選ぶ」肉屋のような味わいを感じさせていた。
試しに立ち寄ると、彼は白い歯を見せて会釈をした。
「おう、嬢ちゃんたち。肉買ってくかい。今日は羊が大特価だぜ」
「おー!羊さん!」
ラーユが拍手を送った。お肉の話をしているときは、着ぐるみのアリゲーターまでもが生き生きしている。今日は、ラムがメインかな。
「じゃあ、羊肉一塊で」
「あいよっ」
「アン姉、コレ!これも!」
一押しを見つけたらしい。こんなにぴょんぴょんされたら、お財布が緩んじゃうよ。
ラーユが着ぐるみ越しに指さすのは、ヴァイスウルスト――いわゆる白い腸詰だ。
「モモがね、これ食べたいって!」
「モモが?」
ラーユの襟の隙間から顔をのぞかせるモモンガ。プクプク鳴らしながらまん丸の黒い瞳を輝かせていた。あれ、君って草食じゃなかったっけ。
「ヴァイスウルストか、いいチョイスだ。二本おまけ追加しておくぜ」
「わーい」
うん。ラーユとモモが良いなら、私は何も文句はないよ。
他にも買い物をしておきたいから、支払いを済ませて立ち去ろうする私。そのとき、肉屋のおじさんがぼそっと言葉を零した。
「……きょうだいの一人や二人がいりゃ、フライも変わってたのかもな」
「?」
何か事情がありそうだ。とはいえ人の家のお話に首を突っ込むのも無礼――そう思って私はラーユの手を取った。
「おじさん、『ふらい』ってだあれ?」
「ん?ああ……嬢ちゃんには聞こえちまったか」
「困ってるの?」
彼は目を伏せた。包丁を丁寧に拭きながら、がたいに似合わぬ小さな声で「まあな」と呟いた。
「ねえね、おじさん。お話きかせて!アン姉とラーユがね、力になるから!」
安請け合いはよくない。……そうわかっていつつも、ついつい私も頷いてしまった。
「ありがとうよ。優しいんだな」
「えへへ。ラーユたちね、『ぷろ』だから」
「本当か!」
「だから、お話聞かせて?」
何だか勘違いをされてしまった気がする。
それはともかく、おじさんの方は完全にラーユの純粋な瞳にやられていた。家庭のお話なので、彼はいったん看板を下ろしてから私たちを作業場に招いた。
椅子に腰かけるなり彼は両手を編み合って、沈むようにしてうつむいた。肉付きのいい身体が、肉売りの時と比べて二回りくらい小さく見えた。
「実は……俺の娘がな、部屋から出ねぇんだ」
苦し気に打ち明けながら、彼は今に至る経緯を話してくれた。
彼の名前は「ロンド」。
奥さんとの間に娘がおり、名前を「フライシェ」という。
彼が先ほど呟いていた「フライ」というのは、フライシェの愛称だ。
奥さんは獣人の方で、一年前に難病で亡くなってしまった。
突然のショックに父娘ともに人生のどん底に陥ったが、さすがに食べていくためには気を取り戻して働かねばならない。
そういうわけで店舗規模は一旦縮小させつつも、再び運営を始めた精肉屋。
もともと常客がそれなりにいたため、家計も間もなくして正常に戻った。
しかしそんな中、不可解なことが起きた。
愛娘のフライシェが、部屋から一切出てこなくなったのだ。
ちょうど奥さん「カルネ」の死から、一週間が経った頃のことだった。
フライシェは大人しいが、決して物怖じしないタイプの女の子だった。
普段は父ロンドにべったりで、彼の帰りが遅くなった日の夜に、ドアの前でじっと待ってくれていたこともあったという。
「それなのに……閉じこもっちまって。三食の飯だけはしっかり食っているみたいだが、それすらも部屋の中なんだ。毎回俺が視界からいなくなってからようやくドアを開けてさ。……俺、嫌われるようなことをしたっけなぁって」
女の子はわかんねぇや、と零すロンドさん。
正直、私にも理解ができなかった。話を聞く限りフライシェちゃんはラーユと同い年くらいだから、まあ確かに「パパ嫌だ」となってもおかしくない年齢だ。……しかし。
――引きこもるほど嫌うことがあるだろうか?
目の前のロンドさんもかなり温和な良いお父さんっぽいし、悪い習慣も特にないという。
そうなるとやはり鍵となるのは彼女のお母さん、カルネさんだろうか。彼女の死へのショックのあまり、引きこもったとか。あれ、でも亡くなってから一週間はむしろロンドさんを励まして元気を分けていたんだっけ。
「……今更ですが、いいんですか、そんなお話私たちが聞いちゃって」
「え。お嬢ちゃんは探偵なんじゃないのか?」
「え。あー……」
なるほど。やっぱり勘違いされてしまったらしい。
ラーユはおそらく本心本気でロンドさんを助けたいのだろう。実際に今、一生懸命に唸っているし。
しかし彼女の認識としては、ナビゲーターの「プロ」も探偵の「プロ」も、同じプロなんだからお互いに通用するのだ。「専門性」と言う単語は、まだまだラーユには難しいのである。
私が一通り自分たちの紹介をすると、ロンドさんは苦い顔で「すまんな、愚痴を言っちまった」と謝ってきた。
むしろ謝りたいのはこっちだ。
お詫びとはいかないが、少なくとも私たちにできることを考えたいな。
――何にしろ、フライシェちゃんに何かがあったことに変わりはない。
英雄になるつもりはないが、ラーユと同い年くらいの子供が似合わない重石を抱えていると、胸が苦しくなる。何とかしてあげたくなるのだ。
カルネさんが亡くなって、フライシェちゃんが閉じこもるまでの一週間。
その間に、何が起きたのか。
「アン姉、アン姉」
「どうしたの」
ラーユが、まじめな顔で私の袖を摘まんでいた。何かを思いついたのかな。
「アン姉は、お肉、好き?」
「ん?好きだよ。なんで?」
「なんでもない。でも――この家すごくいい匂いする」
ラーユとモモがそろって、鼻をひくひくさせた。よほど、お肉が食べたいらしい。
今にも乾燥中の手羽先に食らいつきそうだ。
そんなお二人を宥めようと、言葉をかけたその時。
――隙間。
「フライ!」
ロンドさんが勢いよく立ち上がった。見れば奥のドアの隙間から、一人の女の子が目をのぞかせていた。フライシェちゃんだ。
私のことが気になるのか、固まったままじっと見つめてきた。
「フライ、お父さん心配したんだぞ――あれ?」
ロンドさんが両腕広げて近づくと、フライシェちゃんは暗闇に隠れた。確かにこれは、嫌われていると思われても仕方がない。娘のとっさの行動にかなりダメージを受けたようで、ロンドさんは雪崩れるように椅子に座った。
その隙を狙うようにして、フライシェちゃんがまた顔を出す。
落ち着いた顔立ち、凛と澄んだ瞳。
そんな彼女はとても、母の死のショックで引きこもっているようには見えなかった。
……なぜ、私のことばかりを見るのだろう。
試しに、近づいてみた。
ロンドさんの時と違って、逃げなかった。
むしろ食い入るようにして私の顔を、全身を観察している。
「こんにちは」
「……こんにちは」
しゃがみこんで、会釈を一つ交わしてみる。
すると、丁寧にお辞儀までしてくれた。
どう声をかけようか迷っていると、彼女の方から耳打ちをされた。
「――お姉さんは、ぞんび、ですか」
「?そうだよ」
より一層、目を見開く彼女。
石化したように、その場で動きを停止させた。
ラーユと出会ってから自信がついたのか、私は肌を意図的に隠さなくなった。だからゾンビを見たことがある人なら、すぐに私の正体がわかるだろう。
……ん?
もしかして。
私の頭の中で結ばれる、一つの可能性。
試しに、耳打ちでいくつか質問をしてみた。帰ってきた答えは、すべて大きなイエス。私が最後に「きっと大丈夫だから」と言うと、フライシェちゃんは悩みつつも頷いてくれた。
「ロンドさん」
私は立ち上がると、ロンドさんの元へと足を運んだ。未だ放心状態である。
そうだよね、辛いよね。……でも、ロンドさんなら。
――私を見ても、嫌ったりしなかったあなたなら。
「いいお知らせがありますよ」
「……?」
「ロンドさん。もしも、またかつてのように家族で集まれるなら――それがどんな形でも受け入れられますか?」
新たにチギリの相方のペット、モモが加わって、私たちのパーティーは一層賑やかになった。
今は正午前。ちょうど今、賑わいを極めている街のマーケットに出かけている。変な目で見てくる人が未だにいるが、気にしない、気にしない。
ちなみに私たちがお出かけしているのは、ラーユが「お肉たべたい」と言いだしたからである。いいお肉屋さん、あるかな。
店を探すこと十分ほど、目の前にこぢんまりとした雰囲気の精肉店が見えた。
吊るされた羊の開きに、奥の台に並んだ牛刀包丁。そして何より、豪快に腕毛を生やし腕組をした店長らしき男の人が、「人を選ぶ」肉屋のような味わいを感じさせていた。
試しに立ち寄ると、彼は白い歯を見せて会釈をした。
「おう、嬢ちゃんたち。肉買ってくかい。今日は羊が大特価だぜ」
「おー!羊さん!」
ラーユが拍手を送った。お肉の話をしているときは、着ぐるみのアリゲーターまでもが生き生きしている。今日は、ラムがメインかな。
「じゃあ、羊肉一塊で」
「あいよっ」
「アン姉、コレ!これも!」
一押しを見つけたらしい。こんなにぴょんぴょんされたら、お財布が緩んじゃうよ。
ラーユが着ぐるみ越しに指さすのは、ヴァイスウルスト――いわゆる白い腸詰だ。
「モモがね、これ食べたいって!」
「モモが?」
ラーユの襟の隙間から顔をのぞかせるモモンガ。プクプク鳴らしながらまん丸の黒い瞳を輝かせていた。あれ、君って草食じゃなかったっけ。
「ヴァイスウルストか、いいチョイスだ。二本おまけ追加しておくぜ」
「わーい」
うん。ラーユとモモが良いなら、私は何も文句はないよ。
他にも買い物をしておきたいから、支払いを済ませて立ち去ろうする私。そのとき、肉屋のおじさんがぼそっと言葉を零した。
「……きょうだいの一人や二人がいりゃ、フライも変わってたのかもな」
「?」
何か事情がありそうだ。とはいえ人の家のお話に首を突っ込むのも無礼――そう思って私はラーユの手を取った。
「おじさん、『ふらい』ってだあれ?」
「ん?ああ……嬢ちゃんには聞こえちまったか」
「困ってるの?」
彼は目を伏せた。包丁を丁寧に拭きながら、がたいに似合わぬ小さな声で「まあな」と呟いた。
「ねえね、おじさん。お話きかせて!アン姉とラーユがね、力になるから!」
安請け合いはよくない。……そうわかっていつつも、ついつい私も頷いてしまった。
「ありがとうよ。優しいんだな」
「えへへ。ラーユたちね、『ぷろ』だから」
「本当か!」
「だから、お話聞かせて?」
何だか勘違いをされてしまった気がする。
それはともかく、おじさんの方は完全にラーユの純粋な瞳にやられていた。家庭のお話なので、彼はいったん看板を下ろしてから私たちを作業場に招いた。
椅子に腰かけるなり彼は両手を編み合って、沈むようにしてうつむいた。肉付きのいい身体が、肉売りの時と比べて二回りくらい小さく見えた。
「実は……俺の娘がな、部屋から出ねぇんだ」
苦し気に打ち明けながら、彼は今に至る経緯を話してくれた。
彼の名前は「ロンド」。
奥さんとの間に娘がおり、名前を「フライシェ」という。
彼が先ほど呟いていた「フライ」というのは、フライシェの愛称だ。
奥さんは獣人の方で、一年前に難病で亡くなってしまった。
突然のショックに父娘ともに人生のどん底に陥ったが、さすがに食べていくためには気を取り戻して働かねばならない。
そういうわけで店舗規模は一旦縮小させつつも、再び運営を始めた精肉屋。
もともと常客がそれなりにいたため、家計も間もなくして正常に戻った。
しかしそんな中、不可解なことが起きた。
愛娘のフライシェが、部屋から一切出てこなくなったのだ。
ちょうど奥さん「カルネ」の死から、一週間が経った頃のことだった。
フライシェは大人しいが、決して物怖じしないタイプの女の子だった。
普段は父ロンドにべったりで、彼の帰りが遅くなった日の夜に、ドアの前でじっと待ってくれていたこともあったという。
「それなのに……閉じこもっちまって。三食の飯だけはしっかり食っているみたいだが、それすらも部屋の中なんだ。毎回俺が視界からいなくなってからようやくドアを開けてさ。……俺、嫌われるようなことをしたっけなぁって」
女の子はわかんねぇや、と零すロンドさん。
正直、私にも理解ができなかった。話を聞く限りフライシェちゃんはラーユと同い年くらいだから、まあ確かに「パパ嫌だ」となってもおかしくない年齢だ。……しかし。
――引きこもるほど嫌うことがあるだろうか?
目の前のロンドさんもかなり温和な良いお父さんっぽいし、悪い習慣も特にないという。
そうなるとやはり鍵となるのは彼女のお母さん、カルネさんだろうか。彼女の死へのショックのあまり、引きこもったとか。あれ、でも亡くなってから一週間はむしろロンドさんを励まして元気を分けていたんだっけ。
「……今更ですが、いいんですか、そんなお話私たちが聞いちゃって」
「え。お嬢ちゃんは探偵なんじゃないのか?」
「え。あー……」
なるほど。やっぱり勘違いされてしまったらしい。
ラーユはおそらく本心本気でロンドさんを助けたいのだろう。実際に今、一生懸命に唸っているし。
しかし彼女の認識としては、ナビゲーターの「プロ」も探偵の「プロ」も、同じプロなんだからお互いに通用するのだ。「専門性」と言う単語は、まだまだラーユには難しいのである。
私が一通り自分たちの紹介をすると、ロンドさんは苦い顔で「すまんな、愚痴を言っちまった」と謝ってきた。
むしろ謝りたいのはこっちだ。
お詫びとはいかないが、少なくとも私たちにできることを考えたいな。
――何にしろ、フライシェちゃんに何かがあったことに変わりはない。
英雄になるつもりはないが、ラーユと同い年くらいの子供が似合わない重石を抱えていると、胸が苦しくなる。何とかしてあげたくなるのだ。
カルネさんが亡くなって、フライシェちゃんが閉じこもるまでの一週間。
その間に、何が起きたのか。
「アン姉、アン姉」
「どうしたの」
ラーユが、まじめな顔で私の袖を摘まんでいた。何かを思いついたのかな。
「アン姉は、お肉、好き?」
「ん?好きだよ。なんで?」
「なんでもない。でも――この家すごくいい匂いする」
ラーユとモモがそろって、鼻をひくひくさせた。よほど、お肉が食べたいらしい。
今にも乾燥中の手羽先に食らいつきそうだ。
そんなお二人を宥めようと、言葉をかけたその時。
――隙間。
「フライ!」
ロンドさんが勢いよく立ち上がった。見れば奥のドアの隙間から、一人の女の子が目をのぞかせていた。フライシェちゃんだ。
私のことが気になるのか、固まったままじっと見つめてきた。
「フライ、お父さん心配したんだぞ――あれ?」
ロンドさんが両腕広げて近づくと、フライシェちゃんは暗闇に隠れた。確かにこれは、嫌われていると思われても仕方がない。娘のとっさの行動にかなりダメージを受けたようで、ロンドさんは雪崩れるように椅子に座った。
その隙を狙うようにして、フライシェちゃんがまた顔を出す。
落ち着いた顔立ち、凛と澄んだ瞳。
そんな彼女はとても、母の死のショックで引きこもっているようには見えなかった。
……なぜ、私のことばかりを見るのだろう。
試しに、近づいてみた。
ロンドさんの時と違って、逃げなかった。
むしろ食い入るようにして私の顔を、全身を観察している。
「こんにちは」
「……こんにちは」
しゃがみこんで、会釈を一つ交わしてみる。
すると、丁寧にお辞儀までしてくれた。
どう声をかけようか迷っていると、彼女の方から耳打ちをされた。
「――お姉さんは、ぞんび、ですか」
「?そうだよ」
より一層、目を見開く彼女。
石化したように、その場で動きを停止させた。
ラーユと出会ってから自信がついたのか、私は肌を意図的に隠さなくなった。だからゾンビを見たことがある人なら、すぐに私の正体がわかるだろう。
……ん?
もしかして。
私の頭の中で結ばれる、一つの可能性。
試しに、耳打ちでいくつか質問をしてみた。帰ってきた答えは、すべて大きなイエス。私が最後に「きっと大丈夫だから」と言うと、フライシェちゃんは悩みつつも頷いてくれた。
「ロンドさん」
私は立ち上がると、ロンドさんの元へと足を運んだ。未だ放心状態である。
そうだよね、辛いよね。……でも、ロンドさんなら。
――私を見ても、嫌ったりしなかったあなたなら。
「いいお知らせがありますよ」
「……?」
「ロンドさん。もしも、またかつてのように家族で集まれるなら――それがどんな形でも受け入れられますか?」
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