冒険は闇鍋なもの、ナビなもの!

びば!

文字の大きさ
上 下
1 / 13

一鍋目。プロローグ

しおりを挟む
 ぐつり。ぐつり。
 ぼこぼこぼこぼこ。

「うん、そろそろいいかな?」

 私は、スプーン一杯のスープを掬った。味見をしてみる。
 今日の味は……案外イケる。

 温度よし。量良し。まあ足りなければ、さっき採ったばかりの果実があるから、多分大丈夫。お皿よし。調味料よし。あとは――。

「ラーユ。用意できたよ」

 私は、樹上に向かって声を張った。すると小リスのような女の子が、転がり落ちてきた。ごろごろと転がって、やがて私の足元で止まった。

「アン姉!」

 うん。その呼び名は、いまだに慣れない。なんだか、背中がかゆくなる恥ずかしさだ。
 さて、ようやくパーティーメンバーが集まったことなので、ご飯にしようか。

 ――そう、恒例の「闇鍋」だ。

「「いただきます」」
 声をそろえて、茶碗の前でひと祈り。なぜやるかは、私にもわからない。たぶん、感謝の心とか、そういう感じだと思っている。

 さあ、今日の闇鍋はどうかな。
 私はもう味見をしているので、対面に座る「ラーユ」の反応を見ることにした。
 まじまじと、スープの中に転がる具材を見つめる彼女。
 うん。見た目はちょっと残念だよね。

 ……ぱくり。
「美味しい!」
「よかった」

 成功である。ルックスはともかく、味がしっかり具に染みている。
 とくに変な食感もなく、匂いはきついけれど案外気にならない。スパイスだと思って飲んでみると、ピリ辛スープのような味わいが楽しめる。

 私も、今度は具をいっぱいにして口に運んだ。
 うん。
 パーフェクト。
 見た目と匂い以外はパーフェクト。

 顔を上げると、「ラーユ」と目が合った。
「ふふ」
「アン姉、甘くて美味しいね!」
「うん。ラーユは、何を入れたの」
「んーとね、ラーユはね。お砂糖!あとは、燃えてる鳥さんの羽!あとはキノコいっぱい!」
「おお、そりゃ出汁が取れているわけだ」
「アン姉は何を入れたの?」

「私はね――」

 ラーユと他愛無い話をしながら、私は心の中で温かな懐かしさを感じていた。

 たしか、最初に出会った時も甘い闇鍋だったっけ。
 今思い返せば、いい思い出だ。
 ……そのころはいろいろ重なって、辛かったけど。



 この世界は、不思議であふれている。
 そんな驚きを見るために、冒険者になりたいと思う人も多い。
 だけど、冒険は危険がつきもの。
 そんなときにお世話になるのが、「ナビゲーター」という存在。
 道に詳しくて。
 危険に敏感で。
 それでいて、とても強い。
 だから、「ナビゲーター」という仕事にあこがれる人は多い。
 かくいう私も、その中の一人。

 けれど、現実は厳しかった。
 私は、立派な「ナビゲーター」にはなれなかった。
 私は、忌み嫌われた。
 うん。
 わかっているよ。
 だって、自分でもわかるもん。

 ――こんなにも匂いがきつくて。縫い痕が醜いんだから。


 私の名前は「アンズ」。
 ナビゲーター業界、唯一の……。


 だ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

完結 愛のない結婚ですが、何も問題ありません旦那様!

音爽(ネソウ)
恋愛
「私と契約しないか」そう言われた幼い貧乏令嬢14歳は頷く他なかった。 愛人を秘匿してきた公爵は世間を欺くための結婚だと言う、白い結婚を望むのならばそれも由と言われた。 「優遇された契約婚になにを躊躇うことがあるでしょう」令嬢は快く承諾したのである。 ところがいざ結婚してみると令嬢は勤勉で朗らかに笑い、たちまち屋敷の者たちを魅了してしまう。 「奥様はとても素晴らしい、誰彼隔てなく優しくして下さる」 従者たちの噂を耳にした公爵は奥方に興味を持ち始め……

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。  しかも、定番の悪役令嬢。 いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。  ですから婚約者の王子様。 私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...