上 下
31 / 41
裏切り者との決着

第31話・─赤髪の青年と闇で語る─

しおりを挟む

 真っ暗な闇の中、僕はただ足を動かして前へと進む。最初は怖く感じた暗闇も今ではもう慣れたもので、どうにかなるだろうと僕は楽観していた。

「あ、いたいた。ゼノン!」

──サイチ

 ほんのり明るくなった場所で、ゼノンが地面にあぐらをかいて座っていた。笑顔で駆け寄り、彼のそばに腰を下ろす。今日の彼は泣いてはいない。どこか吹っ切れたような顔をしていた。

──オマエの体、なんとかなりそうだ

「えっ、そうなの? まだ生きてる?」

──寝台から降りられる状態じゃないけどな。よく分からんものを体のあちこちに付けられてて身動きが取れん

 恐らく僕の体には点滴やバイタルチェックの器具が取り付けられているのだろう。

「ごめん、痛いよね」

──まあ我慢できないほどじゃねえよ

 ハハ、と笑いながらゼノンは今の状態を教えてくれた。元の世界にある僕の体はいま病院で治療を受けていて、何人かの知り合いが毎日のように様子を見に来ているという。とは言っても意識はゼノンだ。頭を打った後遺症で記憶が混乱していると周りは受け取ってくれているらしい。夢の中で僕と話をしてからは記憶喪失のふりをしてやり過ごしていると聞いて、僕と同じだね、と笑った。

「あのね、ゼノン。僕、君の記憶を見たんだ。君とヴァーロっていう人の関係や、ウィリアム隊長のところで働くようになった経緯とか」

──俺もオマエの記憶を見たよ

「そうなんだ? なんだか恥ずかしいね」

 サイオスの精神魔術の影響は異なる世界にも及んでいたようだ。意識下で繋がっているのだから、距離や次元の違いなんかは関係ないのかもしれない。

「それでね、今度第二分隊のドレイクって人に会いに行くつもりなんだ」

──は? なに考えてんだ、危ねえぞ!

 慌てて僕を止めようとするゼノン。記憶を見たからこそ分かる。顔は怖いけど、彼は困っている人を見捨てられない優しい人なのだ。

「大丈夫。第一分隊のみんなに協力してもらえることになったから」

──……みんな、知ってんのか

「ごめん。なにがあったか話しちゃった」

──いや、いい。でも……

 ここはゼノンと僕の精神世界。彼の迷いや悩みが直に伝わってくる。同時に、僕の気持ちも伝わっているはずだ。ゼノンの記憶を明かした時にみんながどんな反応をしたか、すべて。

「みんなゼノンを信じてるよ」

──……うん。分かってる

 ぽたりと滴が地面に落ちた。初めてこの場所で会った時のような悲しい涙ではない。喜びの涙だ。地面に染み込んだ涙を中心に少しずつ明るくなっていく。ゼノンの心の中にあった後悔と罪悪感がわずかに軽くなったからだ。それでもまだ精神世界の全てを照らすほどの光ではない。

──ヴァーロだけは、俺が決着をつけたい

「そうだね、そのほうがいいと思う」

 僕ではヴァーロに太刀打ち出来ない。何も出来ないまま返り討ちに遭うだけ。ゼノンでなければダメなんだ。

「頼りにしてるよ、ゼノン」

──俺の言いたいことを奪うんじゃねえ

「あはは。ごめんごめん」

 異世界に意識だけ飛ばされて他人の体に入り込み、知らない人たちに囲まれて、最初はなんでこんな目に遭わなきゃいけないんだって思ってた。でも、ゼノンやみんなと話して気が付いた。

 僕がやらなければならないことを。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スライムの恩返しで、劣等生が最強になりました

福澤賢二郎
ファンタジー
「スライムの恩返しで劣等生は最強になりました」は、劣等生の魔術師エリオットがスライムとの出会いをきっかけに最強の力を手に入れ、王女アリアを守るため数々の試練に立ち向かう壮大な冒険ファンタジー。友情や禁断の恋、そして大陸の未来を賭けた戦いが描かれ、成長と希望の物語が展開します。

落ちこぼれ盾職人は異世界のゲームチェンジャーとなる ~エルフ♀と同居しました。安定収入も得たのでスローライフを満喫します~

テツみン
ファンタジー
アスタリア大陸では地球から一万人以上の若者が召喚され、召喚人(しょうかんびと)と呼ばれている。 彼らは冒険者や生産者となり、魔族や魔物と戦っていたのだ。 日本からの召喚人で、生産系志望だった虹川ヒロトは女神に勧められるがまま盾職人のスキルを授かった。 しかし、盾を売っても原価割れで、生活はどんどん苦しくなる。 そのうえ、同じ召喚人からも「出遅れ組」、「底辺職人」、「貧乏人」とバカにされる日々。 そんなとき、行き倒れになっていたエルフの女の子、アリシアを助け、自分の工房に泊めてあげる。 彼女は魔法研究所をクビにされ、住み場所もおカネもなかったのだ。 そして、彼女との会話からヒロトはあるアイデアを思いつくと―― これは、落ちこぼれ召喚人のふたりが協力し合い、異世界の成功者となっていく――そんな物語である。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

乙女ゲームに悪役転生な無自覚チートの異世界譚

水魔沙希
ファンタジー
モブに徹していた少年がなくなり、転生したら乙女ゲームの悪役になっていた。しかも、王族に生まれながらも、1歳の頃に誘拐され、王族に恨みを持つ少年に転生してしまったのだ! そんな運命なんてクソくらえだ!前世ではモブに徹していたんだから、この悪役かなりの高いスペックを持っているから、それを活用して、なんとか生き残って、前世ではできなかった事をやってやるんだ!! 最近よくある乙女ゲームの悪役転生ものの話です。 だんだんチート(無自覚)になっていく主人公の冒険譚です(予定)です。 チートの成長率ってよく分からないです。 初めての投稿で、駄文ですが、どうぞよろしくお願いいたします。 会話文が多いので、本当に状況がうまく伝えられずにすみません!! あ、ちなみにこんな乙女ゲームないよ!!という感想はご遠慮ください。 あと、戦いの部分は得意ではございません。ご了承ください。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

孤児による孤児のための孤児院経営!!! 異世界に転生したけど能力がわかりませんでした

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はフィル 異世界に転生できたんだけど何も能力がないと思っていて7歳まで路上で暮らしてた なぜか両親の記憶がなくて何とか生きてきたけど、とうとう能力についてわかることになった 孤児として暮らしていたため孤児の苦しみがわかったので孤児院を作ることから始めます さあ、チートの時間だ

ちょいダン? ~仕事帰り、ちょいとダンジョンに寄っていかない?~

テツみン
SF
東京、大手町の地下に突如現れたダンジョン。通称、『ちょいダン』。そこは、仕事帰りに『ちょい』と冒険を楽しむ場所。 大手町周辺の企業で働く若手サラリーマンたちが『ダンジョン』という娯楽を手に入れ、新たなライフスタイルを生み出していく―― これは、そんな日々を綴った物語。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

処理中です...