【完結】目覚めたら異世界で国境警備隊の隊員になっていた件。

みやこ嬢

文字の大きさ
上 下
27 / 41
記憶の糸を手繰る

第27話・ゼノンの記憶 3

しおりを挟む

「今までどこにいたんだ、心配したんだぞ」

 外出許可を貰って町へ行き、昼間から営業している飲み屋でヴァーロと語り合う。離れていた十年の間どこで何をしていたのか訊ねると、彼は酒をちびちび飲みながら目をふせた。

「色々あったのさ。街道が封鎖されてて遠回りしたり、兵士に見つかって追い回されたり、ヘマして怪我したりとかな」
「そうか。ミアは養い親の所に預けられたのか?」
「ミア? ……ああ、ちゃあんと送り届けたよ」

 俺たちが離れた理由は、ミアを養子に出すため。ヴァーロが遠く離れた町まで彼女を送っていったからだ。俺は残された二人の世話をせねばならず、身動きが取れなかった。

「シオンとレイは王都の孤児院で世話してもらったんだ。小さかったから、俺たちのことなんてもう忘れちまってると思うけど」
「へえ、良かったじゃないか」

 国境警備隊第一分隊に配属されたと言えば、ヴァーロは我が事のように喜んでくれた。褒められて嬉しくなり、つい酒が進む。

「ヴァーロは今なにを?」
「旅の商人さ。一箇所に落ち着いていられないタチでね。色んな場所を渡り歩いて商売をしてるんだ」

 この町へも仕事で立ち寄ったという。久しぶりに会えたのにまた会えなくなるのかと思うと寂しくなった。肩を落とす俺を見て、ヴァーロが嬉しそうに目を細める。

「オマエもオレと来るか? ゼノン」
「それは出来ない」
「即答かよ」

 俺にはウィリアム隊長に返さねばならない恩があり、大切な仲間がいる。それに、国境警備隊の仕事に誇りを持っている。ヴァーロと共に旅に出たい気持ちはあるが、全てを投げ出す勇気はなかった。

 その後も何度か外で会って話をした。空白の十年を埋めるには短い時間だが、不思議と毎回盛り上がった。仕事で旅をしているだけあって、ヴァーロは話題に事欠かない。

 ヴァーロが町をつ日が来た。町を囲う外壁の外まで見送りに出る。周りに誰も居ないことを確認してから、ヴァーロがオレの肩に腕を回した。頬が触れるほど顔を寄せ、低い声で囁く。

「なあ、オレと組んで荒稼ぎしようぜ。ゼノン」
「前に断っただろ。俺には任務が」
「国境警備隊に在籍したままでいい。むしろ好都合だ」
「? どういうことだ」

 意味が分からず問い返すと、思いもよらぬ答えが返ってきた。

「オレは今、魔素溜まりを作る仕事をしてるんだ。でも、発見されたらすぐ浄化されちまう。だから、国境警備隊に内通者を作ってあらかじめ巡回経路を確認しておくんだ。そうすりゃ浄化されるまでの時間が稼げるからな」
「な、なにを言ってるんだ……?」

 魔素溜まりの発見と浄化が現在の国境警備隊の役割。ヴァーロの仕事はその真逆。意味が分からず混乱する俺を、眼帯に覆われていないほうの目が楽しげに見ていた。

「第二分隊には内通者がいる。今回は第一分隊の誰かを仲間に引き入れるために来たんだが、運良くオマエが

 ニヤリと口の端を歪めて嗤うヴァーロ。話がまったく理解出来ない。本当に彼は俺の知っているヴァーロなのか。離れていた十年の間に変わってしまったのか、と悲しくなった。

「魔素溜まりなんか作ってどうする気だ」
「魔獣を増やすためさ。それと、魔素適合者を人工的に作り出すため」
「適合者を……?」

 魔素適合者とは、魔素に適合して不思議な力が使えるようになった者を指す。ほとんどが発見次第すぐ王都の魔術院送りになるため、直接会ったことはない。

「魔素適合者を集めてロトム王国に売り飛ばすんだ。アッチは十年前の敗戦の報復をするため戦力をかき集めている。良い商売になるんだよ」

 ヴァーロの言葉が真実ならば、再び戦争が起こるということだ。戦争が起これば村や町が被害に遭い、孤児が増える。俺たちみたいな親なしの子どもが生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされる。

「……、……分かった。話に乗る」
「そう言ってくれると信じてたぜ、ゼノン!」

 ヴァーロは上機嫌で俺を抱きしめ、他の仲間との顔合わせをするからと日時と場所を指定してから去っていった。第二分隊の管轄区域。馬で駆ければ二時間ほどで着く場所だ。

「あれ、ゼノンさん。食が進んでないですねぇ」
「すまん」
「果物なら食べられます? すぐ剥きますよぉ」
「いや、いい。悪いな、アロン」

 宿舎に戻ってからも悩み続け、食事が喉を通らなくなった。ヴァーロと共に居たい気持ちと止めなくてはという使命感の間で揺れる。ウィリアム隊長に報告すれば大ごとになる。まず俺が一人で行き、ヴァーロを説得または第二分隊にいるという内通者を特定してから伝えると決めた。

 夜間巡回を終え、ジョルジュ班の仲間が眠った頃を見計らって宿舎を抜け出した。予備の馬を駆り、指定された場所へと向かう。管轄区域の境目にある川を飛び越えた先の森へと入ると複数の気配を感じた。

「よお、来たなゼノン」
「ヴァーロ」

 森の奥にある少し開けた場所にヴァーロと壮年の男、そして地面には後ろ手に縛られた若い男が転がされている。怪訝な目を向けると、ヴァーロが壮年の男の肩を抱き、俺に笑いかけた。

「このオッサンが第二分隊の内通者、ドレイク。そんで、コイツがオレの昔馴染みで第一分隊のゼノン。新たな内通者になってくれる男だ」

 間に入り、紹介するヴァーロ。壮年の男の顔と名前には覚えがあった。第二分隊で長く勤めている古参の隊員だ。班を率いる立場で、活動方針をある程度決める権限を持っている。最悪の内通者だ。

「自分より若い奴が家柄の力だけで上に立ちやがってムカついてんだ。こっちは長年身を粉にして働いてきたってのによ。せめて儲けさせてもらわねえとワリに合わねえ」

 ドレイクの指す人物がウィリアム隊長のことだとすぐに分かった。バスカルク家は貴族。平民だらけの国境警備隊では浮いた存在だが、誰よりも平和に対する熱意を持っている人だと知っている。ウィリアム隊長を軽く見られ、不快な気持ちになった。

「縛られてる男は誰だ、ヴァーロ」
「コイツは仲間じゃねえ。材料さ」

 ヴァーロの合図でドレイクが胸元から短剣を取り出し、鞘から引き抜いた。そのまま躊躇うことなく縛られている若い男の胸を刺し貫く。悲鳴より先に男の喉奥と傷口から血があふれ、地面を汚していった。

「一体なにを」
「まあ見てな」

 心臓を貫かれたからか、若い男は痙攣したあと動かなくなった。流れ出る血がどんどん地面にしみ込んでいく。

 しばらくして異変が起きた。ぶわりと生臭い風が吹き、嫌な空気が辺りに満ちる。鳥肌が立つこの感覚には覚えがあった。俺の目の前で、まさに魔素溜まりが発生しているのだ。ほのかに光るもやが立ち昇っていく。

「この辺りは十年前の戦争で激戦区だったからな。こうやって切っ掛けを与えてやれば簡単に魔素溜まりが作れるんだよ」



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ダンジョンを出禁にされたJK二人組は、母校の旧校舎型ダンジョンを守護するバイトを始めました。

椎名 富比路
ファンタジー
 絶対ダンジョンを攻略するJK VS 攻略されたくない魔物令嬢たち  世界にダンジョンができた世界。  数々のダンジョンを出禁になった、「モモ」と「はるたん」。  JKとなった二人は、はるたんの祖母である校長に、母校の旧校舎に招かれた。  なんと、そこはダンジョン!   校長が現役時代無敗伝説を誇っていたダンジョンを、五〇年ぶりに復活させたのだ。  モモは学費タダ、はるたんは家族からの干渉軽減を約束してもらって、ガーディアンの役割を承諾する。  また、他校のダンジョンも攻略せよとのこと。  だが、二人の前に現れるダンジョンマスターたちは、みんな地上制覇を狙うモンスターが化けた女子高生ばかり。  それでも二人は、人間が化けた魔物相手に無双する!  ルール:かくれんぼ + 鬼ごっこ  オフェンス側:ダンジョンのどこかに隠れているマスターを、外に連れ出せば勝ち。  ディフェンス側:鬼ごっこで相手を全滅させたら勝ち。ただしタッチではなく、戦って倒す必要がある。  ジャンル:現代ダンジョンモノ  内容:「たけし城」百合  コンセプト:「『たけし城』型ダンジョンを作った悪役令嬢 VS 最強のJK百合ップル」

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

与えてもらった名前を名乗ることで未来が大きく変わるとしても、私は自分で名前も運命も選びたい

珠宮さくら
ファンタジー
森の中の草むらで、10歳くらいの女の子が1人で眠っていた。彼女は自分の名前がわからず、それまでの記憶もあやふやな状態だった。 そんな彼女が最初に出会ったのは、森の中で枝が折られてしまった若い木とそして時折、人間のように見えるツキノワグマのクリティアスだった。 そこから、彼女は森の中の色んな動物や木々と仲良くなっていくのだが、その森の主と呼ばれている木から、新しい名前であるアルテア・イフィジェニーという名前を与えられることになる。 彼女は様々な種族との出会いを経て、自分が何者なのかを思い出すことになり、自分が名乗る名前で揺れ動くことになるとは思いもしなかった。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...