【完結】目覚めたら異世界で国境警備隊の隊員になっていた件。

みやこ嬢

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国境警備隊の仕事

第13話・初めての夜間巡回

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 東の空が明るくなるまで本を読み、朝食を食べてから就寝する。適度な疲労のおかげで昼間にも関わらず普通に眠れた。夕食を済ませた後、ガロ班と入れ替わりで夜間巡回へと赴く。

 僕は初めて国境警備隊の制服に袖を通した。ジョルジュは灰色、ディノとべニートと僕は黒い詰襟の軍服だ。隊長は白だから、おそらく階級や役職で色を変えているのだろう。足元は膝丈の革製ブーツ。夜は冷えるため、この上から外套マントを羽織る。

「ジョルジュ、サイオスを頼むよ」
「ハイッ、お任せくださいウィリアム隊長!」
「ゼノンも無理はしないように」
「が、頑張ります」

 隊長に見送られ、五人揃って厩舎に向かった。

「私は馬に乗ったことがない」
「隊長から聞いている。僕の後ろに乗れ」

 魔術師のサイオスは乗馬の経験がないという。王都での移動は基本徒歩または馬車だから、らしい。ジョルジュは二人乗り用の鞍に付け替えて対応している。

「ゼノンも馬で駆けるのまだ慣れないでしょ。ボクと相乗りしよっか?」
「ううん、一人で頑張ってみるよ」

 ディノの申し出を、僕は笑顔で遠慮した。何でも経験しなければ身に付かない。それと、もう甘えるのはやめようと自分に誓ったからだ。

 練習の時に乗った穏やかな気性の馬を選ぶ。べニートにやり方を聞き、馬具を装着した。慣れない作業だが、下準備くらい一人で出来るようにならなくては。ゼノンがやっていたことを僕もやるのだ。

「オマエ、武器はどうするつもりだ」
「えっ」

 べニートに問われ、一瞬ポカンとしてしまった。今日は任務なのだから武器を携行せねばならない。まだ素振りをしただけで模擬戦すらしていないが、丸腰では心許こころもとない。

「いつもの武器はまだ無理だよね。とりあえず、ボクの予備の細剣貸そっか?」

 厩舎には武器庫も併設され、全員ぶんの武器や装備が収納されている。ゼノンの武器は幅広の大剣だが、木剣を持つのがやっとの僕ではまだうまく扱えない。今日のところはディノの細剣を借りるべきだと思う。でも、僕はもう甘えないと誓った。

「いえ、大剣を持ちます。あんまり振り回せないけど重さに体を慣らしておきたいので」
「そう? ならいいけど」

 ゼノン愛用の大剣は鋼鉄製、鞘やベルトは革製でずしりと重い。装備すると、剣がある左側に体が傾いてしまう。更に馬に乗らねばならないのだ。さっき自分で言った通り、帯剣した状態に体を慣らす必要がある。

「サイオスさ~ん、忘れ物ですよぉ」

 支度中、アロンが何やら包みを持ってきた。どうやら弁当のようだ。夜間巡回中におなかを空かせてはいけないから、と用意したらしい。サイオスの弁当箱は僕の馬に積むことにした。

 すっかり日が落ちて暗くなった頃ようやく出発準備が整った。それぞれ馬に跨がり、門から出る。よく考えたら、宿舎の敷地の外へ行くのは初めてかもしれない。

 第一分隊の宿舎は国境近くの町外れに建てられていて、人通りはほとんどない。メインの通りに差し掛かると、飲食店から漏れる明かりや賑やかな笑い声に町で暮らす人々の気配を感じた。町の外周は背よりも高い壁に囲まれ、夜間は門を完全に閉じている。先頭を行くジョルジュが挨拶をすると、見張り役がかんぬきを外して大きな門扉を開けてくれた。

「ここから先は油断するな」
「は、はいっ」

 馬の腹を蹴り、ジョルジュが駆け出す。ディノが後に続き、僕も追い掛ける。どうやらべニートが殿しんがりを務めるようだ。不慣れな僕をサポートしてくれているのかもしれない。

 町の外には見渡す限りの草原が広がっていた。暗さに目が慣れてくると、星明かりだけで十分周りが見える。前を行くジョルジュとディノは馬を駆けさせながら辺りを見回して警戒している。巡回なのだから、ただ馬で駆けるだけでは駄目なのだ。

「まず、ガロ班が昼間見つけた魔素溜まそだまりに向かう」

 ジョルジュが声を張り上げ、右前方に広がる森を指差した。魔素溜まりってなんだろう。ていうか、警戒対象は敵兵か何かだと勝手に思い込んでいたけれど、そもそも違うのか?

 とりあえず、僕はみんなについていくことしかできない。疾走する馬に振り落とされないよう手綱を強く握り、必死にしがみつく。

 十数分ほど駆けた頃、目的の森に着いた。木々の葉で空からの星明かりが遮られている。その上、生い茂る草で足元が確認しづらい。馬を歩かせ、慎重に進んでいく。時折聞こえる鳥の鳴き声にビクビクしてしまい、その度に情けなさで凹む。

「着いたぞ」

 目的の場所は森の中心にある開けた場所だった。ガロ班が目印として周りの木に布を巻き付けてくれたおかげで分かりやすい。

「ここが魔素溜まり、ですか」

 夜の森の中、立ちのぼるもやが微かに光を放っていた。辺りの地面はぬかるみ、やや黒ずんでいる。明らかに様子がおかしな場所だ。

「まだ浄化されてない」

 ジョルジュの後ろでサイオスがぽつりと呟く。

「ガロ班が昼間の巡回中に見つけたが火種ひだねを切らして浄化出来なかったらしい。それで僕たちに引き継がれたというわけだ」

 理解できず、こっそりディノに聞いてみた。

「つまり、どういうこと?」
「魔素溜まりは炎で浄化するんだよ。放っておくとどんどん広がっちゃうから見つけたらすぐ燃やし尽くす必要があるんだ」
「だから火種が必要なんですか」
「そう。毎回火種は持参するんだけど、一度に幾つもの魔素溜まりを見つけると足りなくなっちゃうんだ。そういう時は次に巡回に行く班に対応を頼むんだよ」

 ディノは外套をめくり、腰に下げた金属製の飯盒はんごうに似た容器を僕に見せた。この中に火種を入れているという。早速馬から降り、ジョルジュの指示で周辺に生えている下草を剣で刈った。延焼防止のため念入りに行なう。

 次に、ディノが容器から火種を取り出した。小さな炭の塊だ。べニートが集めてきた枯れ枝や落ち葉を魔素溜まりの中心に敷き、火種を投入する。瞬く間に炎が燃え上がり、湧き出る魔素を焼き尽くしていく。魔素が消えるまで見張るのも大事な役目だという。

 帯剣しての任務だから身構えていたけれど、異常のある場所を見つけて焚き火をするだけなら僕にも出来そうだ。

 そう思った時、森の奥から禍々しい獣の咆哮が響いた。



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