12 / 41
国境警備隊の仕事
第12話・決意
しおりを挟む夜型生活に切り替えるため、今夜は可能な限り起きている予定となっている。昼間の訓練で疲れているし、じっとしていると眠くなってしまう。夜は任務や事前に許可を貰わないと外出してはいけない規則なので散歩も出来ない。いや、宿舎付近には街灯もないし、深夜を過ぎれば付近の住宅からも明かりが消えて真っ暗になる。慣れないうちは夜に出歩くなんて無理だ。
同室のディノは余暇の過ごしかたに慣れているようで、窓際の椅子に腰掛けて本を読んでいる。表紙を見ただけで難しいと分かる本だ。背もたれを使わず背筋を伸ばして本を読む姿に、普段の彼とはまた違った印象を受ける。
「ディノさん、なにを読んでいるんですか」
気になって声を掛けると、ディノはすぐ本から顔を上げて僕に向き直り、表紙を見せてくれた。異世界の言語で書かれているが、僕はゼノンの体を通しているからか文字は問題なく読める。ただ、人名や地名、団体名などの固有名詞が分からないので内容までは察することが出来ない。
「有名な探検家の冒険譚だよ。隊長が王都に行くって言うから頼んで買ってきてもらったんだ」
探検家って、僕の世界で言うところのクリストファー・コロンブスやマルコ・ポーロみたいな存在だろうか。
「どんな内容なんですか」
「簡単に言うと『大森林の調査報告』かな」
「大森林?」
意外な答えに思わず問い返す。
「大森林っていうのはね、大陸の三分の一を占める開拓出来ない土地の通称なんだ。そこにしか生えない巨大な植物や固有種の生き物ばかりで人が住むには適さない。だから、こうして探検家が見聞きした記録を読んでいるんだよ」
ディノの説明を聞いて、なんとなくアマゾンの熱帯雨林を想像した。どこの世界にも未開の地に興味を抱く人が存在しているのである。
「面白そうですね」
「興味あるなら貸そうか? 同じ著者の本、他にも何冊か持っているからさ」
「はい、是非」
暇つぶしに読書するのも良いかもしれない。ディノは嬉々としてベッド下からカバンを引っ張り出し、中を漁って目当ての本を探している。カバンの中には他にも何冊かの本が入っていた。
「本、好きなんですね」
何気なく呟くと、ディノはフフッと笑った。
「ぼうっと過ごすの苦手なんだ。頭の中を文字でいっぱいにしている間は余計なことを考えずに済むからね」
何気なく返された言葉の意味を、僕はよく知っている。自分もそうだったからだ。でも、明るいディノからそんな答えが出てくるとは予想していなかった。
「ありがとう、読んでみます」
差し出された本を受け取り、パラパラと捲ってみる。ディノが読んでいる探検家の冒険譚シリーズ第一冊目だ。僕は自分のベッドに腰を下ろして読み始めた。
しかし、さっきの発言が気になって本の内容が全然頭に入ってこない。いつも明るく元気なディノにも過去に色々なことがあったのだろう。一緒に風呂に入った時に見た背中の痛々しい傷痕。育ちが良さそうで、体格的にも向いてなさそうなのに兵士になった理由も知らない。
ゼノンは知っていたのだろうか。ディノの過去や、兵士になった経緯を。僕は何も知らないのに。
『僕たち第一分隊の隊員はみな隊長に拾われたんだ』
ジョルジュの言葉を思い出す。彼の話が真実ならば、ディノだけでなくゼノンやべニート、ガロ班のみんなも隊長が保護したことになる。きっと、ジョルジュ自身もそうなのだろう。だから彼らは隊長を心から慕っているのだ。
「あの、ゼノ……記憶をなくす前の僕は暇な時はどう過ごしていたんですか」
「ゼノンは時々外出許可貰って飲みに行ってたよ。あと、ベニートと模擬戦したりとか」
余暇の過ごしかたが全く違うことに驚く。
「ねえ、ディノさん」
「なあに?」
声を掛けると、ディノはすぐにこちらを向いた。話す時は必ず視線を合わせてくれる。何度も読書を中断させられても嫌な顔ひとつ見せない。
「これって地名ですか、人名ですか」
「それは町の名前だよ。別の本に大陸の地図が載ってるから、照らし合わせながら読んだほうが分かりやすいかも」
そう言いながら、ディノはまたカバンの中を探って本を探してくれた。
僕以外の人にも人生があり、楽しい記憶や辛い経験もある。そんな当たり前のことにも気付けないから僕はダメなんだ。
「分かんないことがあったら何でも聞いてね」
「はい、ディノさん」
置かれた状況に本気で慣れようとしてこなかった。自分の不遇を嘆いてばかりで周りに甘えていた。怖いとか出来ないとか言っていられない。死ぬ気で頑張らなくては。
今の僕の居場所を守るために。
10
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
(完結)異世界再生!ポイントゲットで楽々でした
あかる
ファンタジー
事故で死んでしまったら、神様に滅びかけた世界の再生を頼まれました。精霊と、神様っぽくない神様と、頑張ります。
何年も前に書いた物の書き直し…というか、設定だけ使って書いているので、以前の物とは別物です。これでファンタジー大賞に応募しようかなと。
ほんのり恋愛風味(かなり後に)です。
落ちこぼれ盾職人は異世界のゲームチェンジャーとなる ~エルフ♀と同居しました。安定収入も得たのでスローライフを満喫します~
テツみン
ファンタジー
アスタリア大陸では地球から一万人以上の若者が召喚され、召喚人(しょうかんびと)と呼ばれている。
彼らは冒険者や生産者となり、魔族や魔物と戦っていたのだ。
日本からの召喚人で、生産系志望だった虹川ヒロトは女神に勧められるがまま盾職人のスキルを授かった。
しかし、盾を売っても原価割れで、生活はどんどん苦しくなる。
そのうえ、同じ召喚人からも「出遅れ組」、「底辺職人」、「貧乏人」とバカにされる日々。
そんなとき、行き倒れになっていたエルフの女の子、アリシアを助け、自分の工房に泊めてあげる。
彼女は魔法研究所をクビにされ、住み場所もおカネもなかったのだ。
そして、彼女との会話からヒロトはあるアイデアを思いつくと――
これは、落ちこぼれ召喚人のふたりが協力し合い、異世界の成功者となっていく――そんな物語である。
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる