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ゆかいな仲間たち
第10話・大食い魔術師サイオス
しおりを挟む隊長の帰還は夕方だったので、食堂に場所を移してミーティングを兼ねて食事をとることになった。普段は四人掛けのテーブルが三つバラバラに置かれているが、現在は全てくっつけられている。一番奥の上座に隊長、ジョルジュ班とガロ班は左右に別れて座っている。顔合わせのために呼ばれたマルセル先生と新顔のサイオスは手前の席についた。
第一分隊の全員が集められたのは僕が目覚めて以来はじめてのことだ。アロンが手際良く料理を運ぶ間、隊長が改めて挨拶をする。
「さっき簡単に紹介したが、我が第一分隊の新たな仲間、サイオスだ。彼は剣や体術はからきしだが魔術の腕は良い。みなの助けになるだろう」
当のサイオスは、隊長の話などそっちのけでテーブルに並べられていく料理の数々に見入っていた。いつもは一人ぶんずつトレイに載せられている食事だが、今回はサイオスの歓迎会と僕の快気祝いを兼ねているらしくやや豪勢な料理が大皿で提供されている。
「ゼノンの完全復帰にはまだ時間が掛かるとマルセルから聞いている。だが、一人欠けては任務に支障が出る。そこで、当面の間ジョルジュ班にサイオスを加え、五人で任務に当たってもらうことにした。仲良くするように」
隊長の言葉にジョルジュとディノは「はいっ」と快く返事をするが、ベニートは腕組みをしてそっぽを向いている。ガロ班のガロ、フラン、ボルツ、デニルは自分たちには関係ないが魔術師には興味があるようで、チラチラと視線を向けていた。
「一人ずつ自己紹介をと考えていたが……どうやら今はそれどころではなさそうだ」
隊長は長テーブルの対面に座るサイオスを見て肩をすくめた。彼は無表情のまま口の端からヨダレを垂らし、大皿に盛られた肉料理から一時たりとも目をそらさない。隣のマルセル先生が「料理も出揃ったみたいだから、いただきますか」と苦笑いを浮かべている。
「そうだね。せっかくのアロンの料理が冷めてしまう。いただこうか」
隊長のGOサインが出た途端、サイオスが取り皿とフォークを手にした。大皿から肉のかたまりを幾つも取り、無表情のまま大口を開けて食べ始める。小柄な外見からは想像もつかないほど彼の食欲は旺盛だった。隊長を含めた全員が目を丸くして、もりもり食べ進めていくサイオスを見守っている。
「すごい食いっぷりだなァ」
「魔術師ってみんなこうなのか?」
「あの小さい体のどこに入るんだ……」
「オレらのぶんまで喰われそうじゃね?」
ガロ班の四人はドン引きの眼差しでサイオスを見ているが、当の本人はまったく気にしていない。あっという間に一つ目の大皿がカラになり、少し離れた場所……僕の前に置かれた大皿を狙っている。本当に一人で全部食い尽くしてしまうかもしれないと恐怖を感じた時、明るい声が食堂内に響いた。
「新入りさんがたくさん食べてくれて嬉しい! 足りなかったら追加で用意するから遠慮なく食べてくださいねぇ」
追加の料理を運んできたアロンがサイオスの前に深皿を置く。出来立て熱々の煮込み料理だ。スプーンを手渡されたサイオスが早速食べ、バッとアロンを振り返った。先ほどまで無表情だったサイオスの瞳に感動と尊敬の色が宿っている。
「すごく美味しい。これ好き。もっと食べたい」
「ホントぉ? おかわり持ってくるね♡」
料理を絶賛されたアロンは上機嫌で厨房へと戻り、サイオスのために煮込み料理を鍋ごと運んできた。僕たちも我に返り、遅れて食べ始める。
アロンの料理は美味しい。栄養バランスに気を使いながらも、肉体労働の若い隊員たちを満足させるために肉を中心としたボリュームあるメニューを毎日作ってくれている。他の家事も一切手を抜いていない。その都度感謝の言葉を伝えてはいるけれど、サイオスみたいな直球かつ素直な称賛にはかなわない。
怪我で動けない間に世話を焼かれてきた身としては、アロンの関心がサイオスに掻っ攫われてしまい、少し複雑な気持ちになる。
「ねえねえ、ゼノン。サイオスはどんなふうに戦うんだろうね。ボク、魔術師に会ったの初めてだよ」
「僕も想像つかないです」
「明日の夜からサイオスを加えての任務だって。楽しみだねー!」
「う、うん……」
隣に座るディノも気になっているようだ。明日からは僕も任務に出る予定だが、ディノの意識は完全にサイオスへと向いている。魔術の腕は良いと隊長が太鼓判を押しているくらいだ。僕より役に立つに違いない。もしかしたら、僕をジョルジュ班から外してサイオスを正規の隊員に据える算段なのかもしれない。そう考えると、なんだか胃が痛くなってきた。
「どうしたの、あんまり食べてないね」
「う、うん。ちょっと食欲が」
心配したディノがすぐマルセル先生に相談してくれて、食事が終わった後に胃薬を処方してもらった。
僕が食べずに残したぶんまでサイオスが食べたと後から聞いて、すごいなと素直に思う。初めて訪れた場所で緊張もせず、食欲が減退することもない。きっと彼はメンタルが強いのだろう。僕とは正反対だ。
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