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学校の怪
第40話:仮病
しおりを挟むなくなった赤い絵の具。
それが壊された慰霊碑に付いていた赤い液体の正体ではないかと誰もが思っている。そして、それを掛けた犯人は、絵の具の持ち主である叶恵ちゃんではないか、と。
ゴールデンウィークに入る際に版画に使った彫刻刀は持ち帰ったけど、絵の具セットはそのまま教室に置きっ放しだった。
昼間は人目があるし、夜間は校舎の窓や出入り口全てが施錠されている。生徒や先生以外の人が絵の具を入手するのは不可能だ。
つまり、叶恵ちゃんの絵の具を盗れるのは、本人または学校関係者のみ。
疑いの目を向けられ、叶恵ちゃんはついに泣き出してしまった。その様子を見て、糾弾していた男子たちは一旦引き下がった。でも、疑いは晴れてない。
「叶恵、大丈夫だからね」
「ありがとう歩香ちゃん……」
しゃくりあげる叶恵ちゃんの肩を抱くようにして、歩香ちゃんが周りの目から彼女を守る。それは本当に毅然とした態度で、見ていて思わず溜め息が出ちゃった。
『それより、どうする?』
頭の中に御水振さんの声が響く。
そうだ!
あたしにはやらなきゃいけないことがある。慰霊碑の動物たちの魂を浄化したら、きっとみんなの心も正常に戻るはず。早くしないと、また叶恵ちゃんが泣いてしまう。
でも、どうしよう。
『授業抜け出したらいーんじゃない?』
今度は小凍羅さんの声が聞こえた。
授業をサボるってこと?
そんな真似できるわけが……
いや、それが一番良いかも!
授業中ならみんな教室にいる。校舎の裏は北側。つまり、廊下の窓からしか見えない。授業中なら誰にも見つからずに校舎の裏にある慰霊碑に近付ける。
サボるなんて思いもつかなかったよ!
『え、マジ? 普通そう考えない~?』
『おまえらしい案だな』
『うっそぉ』
次の三時間目の授業が始まってすぐ、あたしは体調不良を理由に一人教室を出た。夢路ちゃんが保健室まで付き添うと申し出てくれたけど、やんわりと断った。
生徒も先生も全員教室にいる。
かすかなざわめきを聞きながら階段を降りる。一階には保健室以外にも職員室や校長室がある。この時間受け持ちの授業がない先生に見つかってしまう可能性もある。速やかに用事を済ませ、保健室に向かわなければならない。
周りに誰もいないのを確認してから下駄箱で靴に履き替え、校舎の裏に回る。ここで見つかったら言い訳のしようがない。植え木の陰に隠れてじわじわと現場に近付く。
「あった。元飼育小屋」
近くで見るのは初めてかもしれない。網の部分は外側から大きなベニヤ板が釘で固定されている。扉に付けられた南京錠は錆びてボロボロ。何年も前から誰も鍵を開けていないのだと分かる。
その小屋の裏手に慰霊碑があった。
あたしの腰くらいの高さで、壊された時についたであろう真新しい傷が表面に残っている。修理の際に赤い液体は綺麗に洗い流してある。慰霊碑の石も、土台から離れないようにセメントでしっかりと固められていた。
見た目だけは綺麗に直されてはいるんだけど、周囲の空気が黒く澱んでいて気持ち悪い。
今は昼前。太陽は高い位置にある。
ここは校舎の裏で北側だけど十分陽の光が当たる場所だ。
それなのに、すごく暗く感じる。
『其方にも見えるだろう。この黒い靄のようなもの、それがここにいる動物たちの魂だ』
「これが……?」
慰霊碑や元飼育小屋を包み込むほどの黒い靄。
今からこれを浄化する。
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2月18日、完結しました
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