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田舎町の謎
第30話:夜の神社で
しおりを挟むその日、お兄ちゃんは朝からずっと部屋にこもっていた。出てくるのは食事の時だけ。一緒に遊ぼうと声を掛けたけど部屋に入れてもらえなかった。体調が悪いわけではなさそうなんだけど。
「朝陽も勉強があるんだから、あんまり邪魔しないのよ。あんたは宿題終わったの?」
「うっ……まだ」
「ホラ、さっさと終わらせちゃいなさい!」
お母さんから怒られちゃった。
勉強会でほとんど終わらせたから油断してたけど、明日で連休も終わりなんだよね。あーあ、五連休なんかあっという間だよ。八十神くんは初日に終わらせたって言ってた。超計画的。見習わなきゃ。
夜、自分の部屋で寝ている時に胸騒ぎがして目を覚ました。
時間は日付が変わったくらい。いつもはこんな時間に起きることなんかないんだけど、昼間みたいに頭が冴えちゃって二度寝出来そうにない。
ベッドの上で身体を起こすと、青色の光がパッと現れた。御水振さんだ。
『起きたか』
「うん、なんか落ち着かなくて」
『……やはり、繋がっているのかもしれぬ』
「え、どういうこと?」
聞き返すと、御水振さんはあたしの鼻先に寄って来た。近い。
『其方が目覚めねば、こちらから起こそうと思っていたところだ』
「なんで? 夜中だよ?」
『朝陽が危ない』
「えっ」
お兄ちゃんが?
もしかして、また部屋で倒れてるの?
『いや、朝陽が今いるのは神社だ』
考えるより先にベッドから飛び降りた。
パジャマの上に1枚羽織り、そのまま階段を降りる。お父さんもお母さんも寝ているから、階下は真っ暗。御水振さんたちの光を頼りに進み、一応お兄ちゃんの部屋に立ち寄る。
「……ホントにいない」
お兄ちゃんのベッドはもぬけの殻。
すぐに玄関に向かい、音を立てないように気を付けながらスニーカーを履いて外に出る。
道路に出てから、あたしは思いっきり走った。神社まではそんなに遠くない。走れば五分くらいで着く。
田舎だから、夜に出歩いてる人なんていない。民家も疎らで、街灯も少ない。田んぼに囲まれた細い道を御水振さんたちの光が照らしている。普通の人には見えない光だから、誰にも姿は見られない。
あれ?
光の数が足りない。
でも、今はお兄ちゃんが先だ。
神社の鳥居をくぐって境内に入る。
あたしの周りは明るく照らされてるけど、それ以外は真っ暗。夜の神社は昼間とは違ってなんだか背筋が凍りそうなほど不気味で怖い。じわじわと闇が迫ってくる感じがする。
玉砂利を踏みしめながら奥に進むと、三つ並んだ末社の前で膝をついてる男の人の姿を見つけた。
「お兄ちゃん!!」
「ゆ、夕月……?」
息を切らし、苦しそうな様子でお兄ちゃんが振り向く。あたしの姿を見て驚いたように目を見開き、その後ぱたっと倒れてしまった。
「ホントにいたぁ!」
お兄ちゃんの身体を起こし、ぎゅっと抱きしめる。喋る元気もないみたいで、耳元に聞こえるのは荒い呼吸の音だけ。発作を起こした時みたいな苦しみ方だ。
『朝陽はこの社に祀られている神を宥めるために来たのだ』
どういうこと?
『この町は放置された祠や社が多い。それらが堕ちて禍ツ神にならぬよう見つけ、宥めるのが朝陽の役割だ』
……聞いても全然わかんない。
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