上 下
31 / 98
田舎町の謎

第30話:夜の神社で

しおりを挟む



 その日、お兄ちゃんは朝からずっと部屋にこもっていた。出てくるのは食事の時だけ。一緒に遊ぼうと声を掛けたけど部屋に入れてもらえなかった。体調が悪いわけではなさそうなんだけど。

朝陽あさひも勉強があるんだから、あんまり邪魔しないのよ。あんたは宿題終わったの?」
「うっ……まだ」
「ホラ、さっさと終わらせちゃいなさい!」

 お母さんから怒られちゃった。
 勉強会でほとんど終わらせたから油断してたけど、明日で連休も終わりなんだよね。あーあ、五連休なんかあっという間だよ。八十神やそがみくんは初日に終わらせたって言ってた。超計画的。見習わなきゃ。




 夜、自分の部屋で寝ている時に胸騒ぎがして目を覚ました。

 時間は日付が変わったくらい。いつもはこんな時間に起きることなんかないんだけど、昼間みたいに頭が冴えちゃって二度寝出来そうにない。

 ベッドの上で身体を起こすと、青色の光がパッと現れた。御水振オミフリさんだ。

『起きたか』
「うん、なんか落ち着かなくて」
『……やはり、繋がっているのかもしれぬ』
「え、どういうこと?」

 聞き返すと、御水振さんはあたしの鼻先に寄って来た。近い。

其方そなたが目覚めねば、こちらから起こそうと思っていたところだ』
「なんで? 夜中だよ?」
朝陽あさひが危ない』
「えっ」

 お兄ちゃんが?
 もしかして、また部屋で倒れてるの?

『いや、朝陽が今いるのは神社だ』

 考えるより先にベッドから飛び降りた。
 パジャマの上に1枚羽織り、そのまま階段を降りる。お父さんもお母さんも寝ているから、階下は真っ暗。御水振さんたちの光を頼りに進み、一応お兄ちゃんの部屋に立ち寄る。

「……ホントにいない」

 お兄ちゃんのベッドはもぬけの殻。
 すぐに玄関に向かい、音を立てないように気を付けながらスニーカーを履いて外に出る。

 道路に出てから、あたしは思いっきり走った。神社まではそんなに遠くない。走れば五分くらいで着く。

 田舎だから、夜に出歩いてる人なんていない。民家も疎らで、街灯も少ない。田んぼに囲まれた細い道を御水振さんたちの光が照らしている。普通の人には見えない光だから、誰にも姿は見られない。

 あれ?
 光の数が足りない。
 でも、今はお兄ちゃんが先だ。

 神社の鳥居をくぐって境内に入る。
 あたしの周りは明るく照らされてるけど、それ以外は真っ暗。夜の神社は昼間とは違ってなんだか背筋が凍りそうなほど不気味で怖い。じわじわと闇が迫ってくる感じがする。

 玉砂利を踏みしめながら奥に進むと、三つ並んだ末社の前で膝をついてる男の人の姿を見つけた。

「お兄ちゃん!!」
「ゆ、夕月ゆうづき……?」

 息を切らし、苦しそうな様子でお兄ちゃんが振り向く。あたしの姿を見て驚いたように目を見開き、その後ぱたっと倒れてしまった。

「ホントにいたぁ!」 

 お兄ちゃんの身体を起こし、ぎゅっと抱きしめる。喋る元気もないみたいで、耳元に聞こえるのは荒い呼吸の音だけ。発作を起こした時みたいな苦しみ方だ。

『朝陽はこの社に祀られている神を宥めるために来たのだ』

 どういうこと?

『この町は放置された祠や社が多い。それらが堕ちて禍ツ神マガツカミにならぬよう見つけ、宥めるのが朝陽の役割だ』

 ……聞いても全然わかんない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

吉祥寺あやかし甘露絵巻 白蛇さまと恋するショコラ

灰ノ木朱風
キャラ文芸
 平安の大陰陽師・芦屋道満の子孫、玲奈(れな)は新進気鋭のパティシエール。東京・吉祥寺の一角にある古民家で“カフェ9-Letters(ナインレターズ)”のオーナーとして日々奮闘中だが、やってくるのは一癖も二癖もあるあやかしばかり。  ある雨の日の夜、玲奈が保護した迷子の白蛇が、翌朝目覚めると黒髪の美青年(全裸)になっていた!?  態度だけはやたらと偉そうな白蛇のあやかしは、玲奈のスイーツの味に惚れ込んで屋敷に居着いてしまう。その上玲奈に「魂を寄越せ」とあの手この手で迫ってくるように。  しかし玲奈の幼なじみであり、安倍晴明の子孫である陰陽師・七弦(なつる)がそれを許さない。  愚直にスイーツを作り続ける玲奈の周囲で、謎の白蛇 VS 現代の陰陽師の恋のバトルが(勝手に)幕を開ける――!

大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。 だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。 蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。 実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

【完結】王太子妃の初恋

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。 王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。 しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。 そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。 ★ざまぁはありません。 全話予約投稿済。 携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。 報告ありがとうございます。

妻のち愛人。

ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。 「ねーねー、ロナぁー」 甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。 そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...