【完結】かみなりのむすめ。

みやこ嬢

文字の大きさ
上 下
18 / 98
消えたクラスメイト

第17話:怒れる光

しおりを挟む


『ボクたちがついてる以上、お嬢ちゃんに手出しはさせないよ~!』

 禍ツ神マガツカミに身体を乗っ取られている叶恵かなえちゃんを七つの光が囲い込む。

 地鳴りと共に真下の地面に亀裂が入って足場を崩し、膝をつかせた。そこに植物の蔦が伸びてきて手足を縛り上げる。じわりと血が滲み、叶恵ちゃんの顔が苦悶に歪んだ。

 赤色と黄色の光が一際輝くと同時に、祠の周りの開けた場所に火柱が上がった。強風に巻き上げられ、炎の竜巻みたいになっている。渦巻く炎が動きを封じられた叶恵ちゃんに迫る。

 少し離れた場所にいるあたしにも肌を焦がすような熱さが感じられた。

 これ、まぼろしとかじゃなくて本物!?

「ちょ、ちょっと待って!」
『止めるな。すぐ始末をつける』
「始末って、まさか叶恵ちゃんごと?」
『如何にも』
「だっダメダメ! やめて!!」

 やっぱり、御水振オミフリさんはあたし以外に容赦がない。他の六つの光もそうだ。叶恵ちゃんがどうなろうと関係ないんだ。

 いくら禍ツ神に取り憑かれたからって燃やそうとすることないじゃん。軽い火傷じゃ済まないよねコレ。死んじゃうかもしれないんだよ!?

「みんな、やめて!!」

 地面の亀裂を飛び越え、蔦の網をくぐって叶恵ちゃんに近付き、その身体を思い切り抱きしめる。
すると、炎の竜巻が勢いを失って小さくなった。

『……お嬢ちゃん。なんのマネかなぁ?』

 いつもより少し低い声で小凍羅コトラさんが問い掛けてくる。

 みんなの邪魔をしてるんだ。
 怒らせちゃったかもしれない。

「叶恵ちゃんを傷付けずに助ける方法はないの?」
『なんでその子を庇うの? ソイツが禍ツ神に何を願ったのか聞いたよね~?』
『その通りだ。生かしておく必要などない』

 叶恵ちゃんは禍ツ神にあたしの排除を願った。
 だから誰にも言わずにこっそりと山に入ったんだ。後ろめたい願い事だったから。

「それを聞いた時、確かに悲しかったよ。でも、それくらい八十神やそがみくんが好きってことでしょ? 願い事の方向性がズレてただけで、人を好きになること自体は悪くないよ! ……ええと、その、だから……!」

 緊張してうまく言葉が出てこない。

 七つの光があたしを睨んでる気がする。なんにも出来ないくせに口だけ挟んで、迷惑だって分かってる。

 でもダメだよ。
 人を傷付けたら駄目。

 人を傷付けたら、あなたたちは──




『……ククッ、本当に愚かな娘よ』

 叶恵ちゃんに取り憑いた禍ツ神が嗤った。
 腕を絡め取っていた蔦を無理やり引き千切り、あたしの背中に回した。傍目からは女の子同士で抱き合っているように見えるだろう。

『望み通り、おまえに憑いてやろう』

 そう言いながら、あたしの頬を傷だらけの両手で挟んで固定した。そして、そっと顔を寄せてくる。
 怪しく光る赤い目は禍ツ神のものだけど、身体は叶恵ちゃんだ。嫌悪感はない。これで叶恵ちゃんが解放されるなら本望だ。

 何をされるのか悟り、ぎゅっと目を閉じる。

 唇と唇が触れ合う直前、足元の亀裂が更に大きく割れ、あたしたちは体勢を崩した。

『あ~あ、知らないよ~? 一番おっかないのが怒っちゃったからね』

 周囲を飛び回る紫色の光……小凍羅さんが愉快そうに笑っている。

 少し離れた場所に浮かぶ藍色の光から、すごく怒ってる感情だけが伝わってきた。バチバチと光が弾ける度に地面の亀裂が大きくなっていく。

 これ、藍色の光がやってるの!?

 次の瞬間、大きな音を立てて地面がひび割れ、石造りの祠が崩れ落ちた。
しおりを挟む
2月18日、完結しました
ありがとうございました〜!
感想 79

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

処理中です...